冒険の続き
門をくぐると、町の空気が一気に変わった。
外の森とは違う匂い。
人の声。
灯り。
食べ物の香り。
クロノ町は、夕方になると一気に賑やかになる。
酒場からは笑い声が聞こえ、露店の商人が客を呼び込んでいた。
私は人の流れの中を歩きながら、袋を軽く握った。
黒石。
袋の中には十二個。
思っていたより多い。
ロイドの言葉を思い出す。
――一個で銅貨六枚ぐらいにはなる。
十二個なら、七十枚以上。
新人にしては悪くない収穫だ。
私はそのままギルドへ向かった。
木造の大きな建物。
入り口の上には、ハンターギルドの紋章が掲げられている。扉を開けると、いつもの騒がしい空気が広がった。依頼書を見るハンター、酒を飲んでいる連中、装備を整えている者。私は受付カウンターへ歩く。
そこにいたのは――エリナだった。金色の髪を後ろでまとめ、いつものギルド制服を着ている。
「あ、森に行ってたんですね」
私は頷いた。
エリナは袋を覗き込む。
「もしかして……黒石?」
「少しだけ」
袋を開くと、エリナの動きが一瞬止まった。
「少し?」
中の石を数える。
「一、二、三……十二個もあるじゃない」
私は肩をすくめる。
「運が良かったみたいです」
エリナは小さく息を吐く。
「外縁でこれだけ取れるなんて……かなりいい腕か、運が強いのね」
「腕というより……運です」
「運も才能よ」
そのとき、後ろから声がした。
「なかなかやるじゃない」
振り向くと、セラが立っていた。黒髪を束ねた軽装のハンター。腰には細い剣が一本。腕を組み、軽く笑っている。
「運が良かっただけです」
セラは袋を覗き込む。
「黒石、十二個……外縁で?」
私は無言で頷いた。
セラは数秒こちらを観察し、口元をゆるめた。
「ふーん、悪くないわね」
「……え?」
「明日、森に行くんでしょ?」
私は黙ったままうなずく。
「ねぇ、外縁じゃなくて……少し奥に」
その言葉には、軽く挑発的な響きがあった。セラは楽しそうに笑っている。
「一緒に来ない?」
私は頭の中でロイドの言葉を思い出す。
――奥に行くと、比べ物にならねえのが出る。
「死なない程度の場所よ。大丈夫」
セラの視線は軽く、でも真剣だった。
私は少し黙った。
森の奥。
ロイドの言葉が頭に浮かぶ。
――奥に行くと、比べ物にならねえのが出る。
だが、私は別のことを考えていた。
帰還機能。
昨日見た表示。
残り二日。
もし明日になれば――
あと数時間。
私は静かに言った。
「……分かりました」
セラが少し目を丸くする。
「本当に?」
「はい」
私は頷いた。
「一度くらいなら」
セラは笑った。
「決まりね」
そして指を立てる。
「朝。東門に集合よ?」
「遅れないでよ?」
そう言って、彼女は軽く手を振り、ギルドの奥へ歩いていった。
私はその背中を見送った。
それから左手を見る。
指輪。
静かに光っている。
――あと少し。
私は心の中で呟いた。
(明日になれば帰れる)




