新機能
町へ戻る頃には、空はすっかり暗くなっていた。
町の通りには、ところどころ灯りがともっている。
酒場からは笑い声が聞こえ、商人たちは店を閉め始めていた。
私は人の流れを避けながら、昨日泊まった宿へ向かう。
古い木の扉を押すと、きしむ音がした。
カウンターの向こうで、店主の男がこちらをちらりと見る。
無口な男だ。
短く顎を引くだけだった。
私は軽く頭を下げる。
「戻りました」
店主は何も言わず、また帳簿に視線を落とした。
私は階段を上がる。
二階の廊下は静かだった。
自分の部屋の前で止まり、扉を開ける。
狭い部屋。
木のベッド。
小さな机。
昨日と何も変わらない。
私は扉を閉め、ベッドに腰を下ろした。
そしてポケットから黒石を取り出す。
二つ。
黒く、鈍く光る石。
私はそれをしばらく眺めていた。
ロイドの言葉が頭に浮かぶ。
――銅貨六枚ぐらいにはなる。
私は小さく息を吐いた。
「……まあ」
それから左手を見る。
指輪。
静かに光っている。
私は黒石を一つ、指輪に近づけた。
次の瞬間。
指輪がわずかに震えた。
黒石が――
ゆっくりと光り始める。
「……」
光はすぐに強くなり、黒石は砂のように崩れていった。
塵になり、消える。
そして――
視界の端に、文字が浮かんだ。
【帰還機能】
充電中
現在:64%
帰還可能まで
残り 約3日
私は少し目を見開いた。
「……増えた」
黒石をもう一つ見る。
私は迷わず、それも指輪に近づけた。
同じように光が走る。
黒石は崩れ、塵になり――消えた。
文字が更新される。
【帰還機能】
充電中
現在:70%
帰還可能まで
残り 約2日
私はしばらくその表示を見つめた。
「……七十」
帰還まで、あと三割。
私はゆっくり息を吐いた。
そしてふと思い出す。
「……そういえば」
指輪には、もう一つ表示があったはずだ。
私は意識を集中させる。
すると、別の表示が浮かび上がった。
【プロフィール】
名前:未登録
状態:正常
年齢:22
体力:E
筋力:E
敏捷:E
耐久:E
身体能力:低
特技:なし
世界番号:532(適応中 10%)
私はそれを眺める。
「……変わってないな」
そのときだった。
表示が――
ふっと揺れた。
数字が書き換わる。
世界番号:532(適応中 20%)
「……え?」
私は思わず声を出した。
さらに表示が変わる。
特技の下に、新しい項目が現れる。
【プロフィール】
名前:未登録
状態:正常
年齢:22
体力:E
筋力:E
敏捷:E
耐久:E
身体能力:低
特技:なし
機能:
危険感知
黒石感知 ← NEW
世界番号:532(適応中 20%)
私はその文字を見た。
「……黒石感知?」
そのときだった。
指輪が、わずかに温かくなる。
ほんの少し。
だが、確かに。
私は眉をひそめる。
「……なんだ?」
部屋の中を見回す。
机。
椅子。
ベッド。
何もない。
しかし――
指輪の熱は、わずかに続いている。
私はゆっくり立ち上がった。
そして机の方へ一歩近づく。
指輪の熱が――少し強くなる。
「……?」
私は机の上を見る。
そこには何もない。
しかし机の横。
床の隅。
そこに、小さな袋が落ちていた。
私はしゃがみ、それを拾う。
中を見る。
小さな黒い石。
「……黒石?」
私はそれを指でつまんだ。
その瞬間。
指輪の熱が――はっきりと強くなる。
私は少し黙った。
それから小さく呟く。
「……近くに黒石があると分かるのか」
私は石を見つめた。
森。
外縁。
黒石。
ロイドの言葉が頭に浮かぶ。
――新人は、しばらく外縁で黒石拾いだ。
私はゆっくりベッドに座った。
手の中の黒石を見る。
そして左手の指輪。
小さく笑う。
「……なるほど」
もしこれが本当に使えるなら。
私はもう一度石を握った。
「黒石……」
この世界で生きるための石。
そして――
帰るための石。
私は静かに呟いた。
「……明日、もう一度森に行くか」
部屋は静かだった。
だが、指輪はまだ――
ほんのわずかに、熱を持っていた。




