ロイド!!
ロイドは私の手の中の黒石をちらりと見てから、ふと視線を腰のあたりに向けた。
「ところでお前」
少し顎をしゃくる。
「獲物、何に使ってんだ?」
「え?」
「武器だよ武器。森に来たんだろ」
私は少しだけ迷ってから、腰のベルトに差していたものを抜いた。
「えーと……このナイフです」
ロイドはそれを見て、しばらく黙った。
カイルも横からちらりと見る。
次の瞬間だった。
「は?」
ロイドの顔が本気で呆れたような表情になる。
「……お前、それで今戦おうとしてたのか?」
私は少し肩をすくめた。
「一応…」
ロイドは額を押さえた。
「一応じゃねえよ……」
後ろにいたもう一人のハンターが小さく笑う。
「新人すぎるだろ」
ロイドはため息をつきながら私のナイフを指差した。
「それ、野営用だ。獣の解体とか、枝切るとか、そういうやつだ」
「化け物とやり合うもんじゃねえ」
そう言って、肩に担いでいた銃を軽く叩く。
「普通はこういうのか――」
今度はカイルの剣を顎で示す。
「――こういうの使う」
カイルは特に何も言わず、静かに剣を鞘に戻した。
私はナイフを見た。
言われてみれば、その通りかもしれない。
ロイドは私を見て、半ば呆れたように言った。
「よくそれで森に入ってきたな」
少しだけ笑う。
「さっきのやつ、本気でやり合ってたらお前死んでたぞ」
私は苦笑するしかなかった。
ロイドはしばらく考えるように顎をかいたあと、言った。
「まあいい」
そして森の奥をちらりと見てから続ける。
「今日は運が良かったな」
私は苦笑した。
「……そうですね」
ロイドは私の腰のナイフをもう一度見て、呆れたように首を振る。
「そのナイフ、しまっとけ。化け物相手に振り回すもんじゃねえ」
「はい」
私は素直に頷き、ナイフを鞘に戻した。
ロイドは地面に落ちていた枝を足でどけながら言う。
「新人はだいたい二種類いる」
「二種類?」
「ああ」
ロイドは指を一本立てた。
「一つは、怖くなって二度と森に来ないやつ」
それから二本目の指を立てる。
「もう一つは、怖いのに無理して奥まで行って、そのまま帰ってこないやつだ」
私は少し黙った。
ロイドはちらりとこちらを見る。
「お前はどっちだ?」
少し考えてから答えた。
「……分かりません」
正直な答えだった。
ロイドは小さく笑った。
「まあ、最初はそんなもんだ」
それから森の奥を顎で指した。
「だが覚えとけ。外縁はまだマシだ。もう少し奥に行くと、さっきのとは比べ物にならねえのが出る」
カイルが横から短く言う。
「やつら、群れるんだよ」
「そうそう」
ロイドは頷いた。
「だから新人は、しばらく外縁で黒石拾いだ。無理して強くなろうとすると、だいたい死ぬ」
そう言うと、私の手の黒石を顎で示す。
「それ、一個で銅貨6枚ぐらいにはなる。ギルドに持ってけば換金してくれる」
「銅貨6枚……」
私は石を見た。
ロイドは笑う。
「まあ大金じゃねえが、拾って帰るだけなら悪くない仕事だろ」
それから肩越しに仲間を見る。
「行くぞ。今日はもう十分だ」
カイルは頷いた。
「戻るか」
三人は町の方へ歩き出す。
ロイドは数歩進んでから、ふと思い出したように振り返った。
「新人」
私は顔を上げる。
「はい」
ロイドは少しだけ笑った。
「森に入るときはな――耳を使え」
「耳?」
「音だ。枝が折れる音、草の擦れる音、呼吸」
ロイドは指で自分の耳を軽く叩く。
「それが聞こえない奴から死ぬ」
それだけ言うと、ロイドたちはそのまま歩いていった。
やがて三人の姿は木々の向こうに消える。
森は再び静かになった。
私は手の中の黒石を見た。
黒く、鈍く光る石。
そしてポケットの中には、昨日拾った黒石がもう一つある。
……二個。
私は小さく息を吐いた。
「まあ……今日はここまでにするか」
森の奥を見る。
暗く、静かで、何かが潜んでいそうな空気。
ロイドの言葉が頭に浮かぶ。
――奥に行くと、比べ物にならねえのが出る。
私はその方向から目を逸らした。
そして町へ戻る道を歩き始めた。
名前はユウって教えたはずなんだが、新人、新人言うな!




