表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/38

初めての依頼

受付嬢やさしい、、ヒロインなるか?

エリナは机の上に広げた書類にいくつか書き込みながら、落ち着いた声で言った。


「登録はこれで完了です」


そう言ってペンを置き、顔を上げると、改めてこちらを確認するように目を細めた。


「ユウさん、ですね」


私は軽く頷いた。


「はい」


エリナは机の引き出しを開け、その中から小さな金属板を一枚取り出した。先ほど見せた住民証とは少し形が違い、厚みもあり、角の部分には細かな装飾が刻まれている。中央にははっきりとした文字で「クロノ町 ハンターギルド」と刻印されており、その下にはさらに小さく、しかししっかりとした刻みでランクが記されていた。


Rank:見習い


「これがギルド証です。ハンターとして登録された証になります」


そう言って差し出された金属板を受け取ると、ひんやりとした冷たい感触が掌に伝わってきた。見た目は小さいが、意外と重みがある。単なる札ではなく、何かしらの意味を持つ物であることが、触れただけで分かる気がした。


エリナは私がそれを眺めている間に説明を続けた。


「ユウさんは登録したばかりですので、ランクは見習いからのスタートになります。最初のうちは危険度の低い依頼しか受けることはできませんが、依頼をこなして実績を積めば、ランクは順番に上がっていきます」


私はギルドの奥にある掲示板へ視線を向けた。壁一面に依頼書がびっしり貼られており、近くで見なくても種類の多さが分かる。狼討伐、商隊護衛、廃墟探索など、ぱっと見ただけでも危険そうな内容が並んでいた。


その様子を見ていたエリナは、少し苦笑した。


「皆さん、最初は同じ顔をされます。どれも大変そうに見えますよね」


私は掲示板を見ながら正直に言った。


「……一番簡単な依頼はどれですか」


エリナは掲示板を見上げ、少し考えるように視線を動かしたあと、端の方に貼られていた紙を一枚静かにはがした。


「見習いの方なら、これが一番現実的だと思います」


そう言って差し出された紙には、短くこう書かれていた。



森外縁 黒石回収



エリナは紙を指で軽く押さえながら説明を続けた。


「町の外にある森の入り口付近で、黒石を回収する依頼です。森の外縁なので深く入り込む必要はありませんし、魔物の出現も比較的少ない場所です。ただし……」


そこで少しだけ言葉を選び、私の顔を見た。


「絶対に出ないとは言えません」


私は依頼書に書かれている報酬欄を見た。


回収した黒石をギルドが買い取り、硬貨で支払う。


私は顔を上げた。


「黒石って……見つけた分だけ換金できるんですか?」


エリナは頷いた。


「はい。黒石はこの町では貴重な資源ですから。ギルドがまとめて買い取って、加工や研究に回します」


「なので依頼自体に固定報酬はありません。見つけた分だけ、そのまま収入になります」


私はポケットの中の石を思い出した。


拳ほどの大きさの、あの黒い石。


あれ一つでも、結構な価値があるのかもしれない。


「ただし」


エリナは少し真面目な顔になった。


「黒石は大抵、魔物や……化け物が倒れた場所の近くに残ります」


「つまり、見つけようと思えば――」


「危ない場所に近づくことになります」


私は静かに頷いた。


エリナは依頼書に印を押した。


カン、と小さな音がカウンターに響く。


「それでも、森の外縁なら比較的安全な方ですから」


「見習いの方が最初に受ける依頼としては、一番多いですね」


私は顔を上げて聞いた。


「今からでも行けますか」


エリナは窓の外へ視線を向けた。午後の光が差し込んでおり、太陽はまだ高い位置にある。


「ええ、今の時間なら問題ありません。日が落ちる前に戻れる範囲であれば、外縁の探索くらいは大丈夫だと思います」


しかしすぐに表情を少し引き締めた。


「ただし、森の奥には絶対に入らないでください。見習いの方が亡くなるときは、ほとんどがそれが原因です。最初のうちは、欲を出さずに戻る判断も大事ですよ」


私はその言葉に頷いた。


「分かりました」


エリナは依頼書の下に印を押した。カン、と小さな金属音が机の上に響く。


「では、この依頼は受理されました。日没までに戻ってきてください」


依頼書を受け取り、確認していると、そのとき背後から軽い声が聞こえた。


「おいおい」


振り向くと、三人組のハンターがこちらを見ていた。そのうちの一人、背の高い赤髪の男がにやりと笑いながら近づいてくる。肩には銃を担いでおり、いかにも場慣れした雰囲気だった。


「新人が森に行くのか?」


私は少し警戒しながら答えた。


「……そうです」


男は興味深そうにこちらを見て、気軽な調子で聞いた。


「名前は?」


「ユウです」


男は笑い、親指で自分を指した。


「俺はロイドだ」


続いて後ろに立っていた二人を顎で示す。


「こっちはカイル、そっちはベン。まあ、俺らも森に行くところだ」


三人とも武装しており、見るからに経験豊富そうだった。ロイドは私の持っている依頼書をちらっと見て、口元を歪める。


「黒石回収か。まあ、運がよけりゃいくつか拾える」


そこでわざと間を空け、指で首を切る仕草をした。


「運が悪けりゃ――あっさり死ぬけどな」


私は何も言わず黙っていたが、ロイドはそれを見て笑った。


「そんな怖い顔するなよ。森はあっちだ」


そう言ってギルドの外を指差す。


「道は一本しかねえから迷うことはない。まあ、死ぬなよ新人」


三人はそのまま笑いながらギルドを出ていった。私はしばらくその背中を見送っていたが、後ろからエリナが小さく声をかけてきた。


「気にしないでください」


振り向くと、エリナは苦笑していた。


「ロイドたちはああいう人たちなんです。口は悪いですが……腕は確かですよ」


私はもう一度依頼書に目を落とした。


森外縁 黒石回収


それだけの簡単な文字が、妙に重く感じられる。


エリナは静かに言った。


「ユウさん」


「はい」


「無理だと思ったら、すぐ戻ってください。最初の依頼は……成功することより、生きて帰ることの方が大事ですから」


私は頷いた。


「分かりました」


ギルドの扉を押して外に出ると、昼の光が目に入る。太陽の位置からすると、だいたい十五時くらいだろう。森は町の外、歩いて二十分ほどの距離にある。


私は歩きながらポケットに手を入れた。指先に触れるのは黒石の冷たい感触と、もう一つ、指にはめられた指輪だった。指輪は今のところ静かなままで、あの嫌な締め付ける感覚もない。


私は小さく呟く。


「……残り三日か」


クロノ町の外門の向こうには、黒い森の影が広がっていた。風に揺れる木々の音を聞きながら、私はゆっくりとその方向へ歩き出した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ