第7話 「まさかの闇落ち☆優男リグの正体が最悪すぎる件」
暗がりから、ずるりと影が剥がれ落ちるように男が出てきた。
肩幅が異様に広く、片目には古い傷跡。
サナは一瞬で“関わってはいけないNPC”の空気を察知する。
男はリグをちらりと見て、ニヤリと笑った。
「よう、リグ。……仕事の後始末が雑すぎないか?」
(えっ……リグの知り合い!?)
視聴者欄がザワつく。
『おい、知り合いかよw』
『嫌な雰囲気しかしない』
『リグ…?なんかお前…雰囲気変わった?』
リグはサナの前に立ちはだかり、低く返す。
「……何の話だ。俺は今、客を宿まで案内してるだけだ」
「客、ねぇ?」
男は露骨に鼻で笑い、サナをぐるりと舐めるように見る。
「そのガキ、見覚えがある気がしてよ。……ってかよ、リグ。本当に“処分”したんだよな?例の女ども」
サナの背中を冷たいものが走る。
(処分……?処分って……え、え、なに……)
だがリグは笑わなかった。
むしろ、ひどく冷えた声で言った。
「……した。手はず通りにな。王国から手配が回ってきてたから、仕方なかった。証拠を残さないように全部やった……はずだ」
「だったらよ、どう説明すんだ?」
男が顎でサナを指す。
「お前が“東の村から攫ったガキ”が、なんで酒場で元気に飯食ってんだよ」
サナの心臓が止まる。
(…………え?)
視聴者欄が凍りつくように真っ白から――
一気に爆発した。
『え???????』
『リグてめぇぇぇぇ!!』
『うそだろ好青年枠だったじゃん!!!』
『そっちが人攫いかよ!!!』
『展開バグってて草も生えない』
サナは膝がカクンと震えた。
口が動かない。
息すら浅くなる。
(り……リグが……本当に……!?じゃあさっきの優しさって、嘘!?いや、私が嘘ついたから……嘘が嘘を呼んだの!?)
リグがゆっくり、振り返る。
その目は——酒場で見せた優しさが一欠片もなかった。
琥珀色が、冷たい鉱石みたいに光る。
「……悪いな。」
その声は、決定的だった。
「お前には、ここで消えてもらう」
視聴者欄が炎上した。
『逃げろ逃げろ逃げろ!!!』
『リグ、ガチで殺す気じゃん!!』
『サナ詰んだ!?詰んだよこれ!?』
『嘘で始まった話が、嘘のせいで死にそうで草生えない』
男が肩をすくめる。
「ったく、面倒だな。さっさとやれよ。王国の犬にバレたら終わりだぞ」
リグは短剣を抜いた。
——銀色の刃が、街灯の光を冷たく弾いた。
サナの脳は真っ白になりかけたが、
視聴者のコメントが激しく流れるのが見えた。
『サナ!走れ!!』
『嘘の設定で死ぬなよ!!』
『いいから逃げろ!!』
『走れってば!!!!!』
(……走るしか、ない……!?)
次の瞬間、リグが踏み込む。
「逃がすかよ!!」
サナは反射的に、叫んだ。
「いやああああああああああああああ!!!!!」
夜の路地に、ひび割れるような悲鳴が響く。
そしてサナは全力で駆け出した。
背後でリグの叫び声が追ってくる。
「待て!!」
視聴者欄は完全にパニックだ。
『逃走劇開幕!!』
『本気で命狙われてるwww笑えない!!!』
『誰か助けてくれーー!!NPCでいいから!!』
『ヒロインが死の危機w』
―サナはただ、無我夢中で走った。
曲がり角を抜けた先、
夜の風が頬を切り裂くように冷たい。
(誰か……誰か助けて……!!)
その瞬間。
路地の向こうから、誰かが飛び出した。
皮鎧を着た複数の影。
手には、ぼんやりとした電灯のような物を持っている。
リグが舌打ちする声が聞こえた。
(え……!?あれ、まさか)




