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VTuber皆桃サナの異世界Live  作者: 海木雷


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3/13

第3話 「笑顔のサナと、震えるサナエ☆」

サナはぎゅっと唇を噛んだあと、いつもの配信スマイルを作った。

軽く手を振り、視聴者に向けて明るく声を上げる。


「じゃあみんな、初ダンジョン……じゃなくて初街に行ってみよっか!せっかく異世界っぽいし、食べ歩きとかしたい〜!」


声は弾んでいた。

けれど、内側のサナエは別人のように固まっている。


(行くしかない。止まったら、また魔物が来るかもしれない。でも……私、帰れないって……本当に?)


不安を押し殺し、草を踏む音と、コメント欄の文字の流れだけを頼りに前へ進む。

配信カメラの視界は、まるで自分の瞳が二つあるように自然に追従した。


視聴者:498→532→601


じわじわと数が増えるたびに、胸の奥がまた熱を帯びる。

魔力がぶくぶくと湧き上がる心地よさと、置いていかれそうな怖さとが同居していた。


『街探索楽しみ!』

『サナってメンタルつよw』

『現地の人に話しかけて欲しい!』


「へへ、みんな頼もしいじゃん。うん、私だって……大丈夫。大丈夫だから」


声では笑う。

心の声――サナエは震えている。


(大丈夫って言わなきゃ。言わないと、私まで壊れちゃう)


そこそこの距離を歩き、丘を越えると、日がすっかり暮れていた。石畳の道と木造の商人宿、明かりの灯る窓。遠くから馬車の軋む音まで聞こえる。


本物の異世界の街


息を飲むほど綺麗で、同時に現実離れしていた。


門の側には、背の高い衛兵が立っていた。

槍の穂先が星明かりを反射する。サナが近付くと、衛兵が眉を顰めた。


「見ぬ顔だな。旅人か?」


コメントが一斉に走る。


『NPC来た!』

『会話イベントきた!?』

『翻訳入ってるのすげぇ』


サナは一拍置き、口角を上げた。


「え、えっと……はい!旅の配信者ですっ!

この街に……入ってもいいですか?」


配信者。言ってしまった。

衛兵は一瞬だけ首を傾げ、そして笑った。


「配信……とはなんだ? まあいい。危険でなければ通れ」


あっさり通された。


(よかった、よかった……話通じた……!

 言葉が理解できるのも、スキルのせい?)


張り詰めていた肩の力が少しだけ抜ける。

同時にコメント欄が祝福の嵐になった。


『街INおめーー!!』

『思ってたより優しかったw』

『飯!飯見たい!』

『サナがんばったぞ!』


視聴者:734

胸の奥がまたじわっと温かくなる。


(みんなが見てくれるなら、私……進める)


それは救いでもあり、呪いでもあった。


賑やかな大通りを歩く。

屋台ではスパイスの香り、高い声で客引きする商人、楽器の音。煌めく異世界の夜は、どこか優しく残酷だった。


視界の端に、酒場の看板が見える。

ランタンの灯りが赤くゆらめく。


(……行く?でも、もし危険だったら)


一瞬、足が止まる。


でも、コメント欄は待っていない。


『酒場で情報集めよう!』

『仲間とか出てきそう』

『次の戦闘あるかもな』

『サナならいける!』


応援の言葉が、背を押す力になる。

震えは、完全には止まらない。


けれど――サナは笑って扉に手をかけた。


「行くよ。だって配信は止められないから。

 みんな、見ててね?」


扉が軋む。

橙色の光と、ざわりとした視線の集中。


視聴者数は瞬時に 800 を超えた。


心が跳ねる。

期待と怖さが渦を巻き、サナエの息が浅くなる。


その感情ごと、サナは笑顔で飲み込んだ。


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