第10話 「制限時間つき無双☆課金切れまで全力パルクール」
――残り 2:28。
スキルウィンドウの数字がちくちく減っていくのを見て、
サナは一瞬だけ固まり――
次の瞬間、ぱっといつもの配信スマイルに切り替わった。
「……え、あ、あははっ☆えーっと皆さん、聞こえました?どうやらこのバフ、“期間限定セール”みたいですっ!」
視聴者欄、即ツッコミ。
『期間限定www』
『天然で言うなwww』
『サナさん前向きすぎる』
『残り時間を告知するVtuber』
治安隊員たちが呆然としながら近づく。
「き、君……大丈夫か?今の男は――」
「は、はいっ!えっと……さっきの人、ちょっと影が多めで怖かったですけど……でも皆さんがいたので!たぶん!大丈夫です!」
たぶん、で済ますな、と隊員たちは心の中で叫んだ。
そのとき――
――【強化:残り 2:05】
サナがはっとして、足元を見下ろす。
「あっ!時間減ってる!ねぇねぇ皆、これって……
私、今のうちに逃げたほうがいいやつですよね?」
『今気づいたのかよwww』
『天然主人公』
『逃走フェーズ入ります』
『サナ、走れ!!』
サナは少し考えてから、うん、と頷いた。
「じゃあ、走りますっ☆治安隊さん、あとよろしくお願いします!」
「え!?ちょ、待――」
言い終わる前に、
サナは光を纏ったまま――
ダッ!!
「速っ!?!?」
治安隊員の視界から、
虹色の残光を引きながら駆け抜けていく少女。
(わ、私……足、速くなってる!?えっ、なにこれ! めっちゃ楽しい!!)
路地を曲がり、屋根を跳び、木箱を踏み台にするたび、コメント欄が実況状態になる。
『パルクール配信www』
『課金アスレチック』
『桃DEブー見てるか!?推しが跳んでるぞ!!』
サナは走りながら、ふと思い出したように空を見上げる。
「あ、そうだ……桃DEブーさん、ほんとに無理しないでくださいね?もやし、栄養なさそうなので……!」
『推しが健康管理してくる』
『ガチ恋勢、泣いてるぞ』
『もやしに卵つけろ』
――【強化:残り 0:45】
サナの光が、少しずつ淡くなっていく。
(あ、これ……そろそろ終わる……)
彼女は屋根の上で立ち止まり、街を見下ろした。
治安隊の灯り、ざわめく人々、
そして――自分を見守る無数の“視線”。
胸が、少しだけ熱くなる。
「……私、さっきまで怖くて……震えてばっかだったのに……」
サナは、ぎゅっと拳を握った。
「でも……皆がいたから、立てました☆」
――【強化:残り 0:05】
最後の光が、ふわりと弾けて消える。
いつもの、少し頼りない身体感覚。
「あ、戻った……。……よしっ」
サナは深呼吸して、にっこり笑った。
「じゃあ皆さん!今日はここまでにしますね☆
次は……“課金なしでも強くなる方法”、考えます!」
視聴者欄、拍手と草の洪水。
『次回予告www』
『成長フラグ立った』
『桃DEブー、伝説になった日』
そして――
どこか、街の闇の奥。
リグは歯噛みしながら、呟いていた。
「……次は……逃げられねぇぞ……」
だがその声は、
今はまだ、届かない。




