正座で高速道路走ってたら捕まった件 【再投稿】
正座で高速道路を走ってたら、車にガンガン抜かされた(車両ではなく、俺本体が正座で走っています)。
みんな、もっと安全運転しろよ。
こっちは生身なんだから。
それにしても風が強いな。
世間の俺に対する風当たりってことじゃないからな!
変な虫が顔面にプチプチ当たってくるんよな。
なんか痛いんだけど……。
目に入った。しかも両目。
前が見えないけど、ずっとまっすぐだからいいか。
ハンドルは手に持ってるけど、機能してない。
まあ、体を傾ければ、すう~っと車線変更できるんでノープロブレム!
背後から迫りくるサイレンの音。
やばいヤツでも走ってるのか?
俺みたいに、パンツ一丁でハンドル握ってるとか?
「そこのブ、人、止まりなさい!」
って俺かよ!
いま、ブタって言いかけなかったか?
正座体勢のまま、くるりと反転。
「トランスふぉーむ!」
四つん這いになって、四輪駆動へと進化する。
体というか、車体が安定したね。
トランスふぉーむは、ちょっとしたコツがある。
軽やかに土下座するイメージでやると、うまくできる。
ぁ……。
俺のF1用ハンドルが……。
ノーハンドル! ノーライフ!
けっこう高かったのにな。
目が開かないので、ニオイで掴み取る。
覆面パトカーが俺を追ってきてるようだ。
スピード違反ってこと?
いや、俺にメーターついてないし……。
仕方なく路肩に停車する(俺本体だが)。
「サービスエリアに落ちてましたよ」
車に貼る初心者マークだ。
磁石っぽい香りがするし。
「俺のじゃない気が…‥」
それはいいとして。
俺を誰だと思ってる!
ゴールド免許だぞ!
「俺のハンドルみませんでしたか?」
「パトカーのフロントガラスに刺さっているアレですか?」
「それっぽいです」
ラッキー!
ハンドルが帰ってきたね。
「それじゃ、安全運転でお願いしますね!」
警官が、敬礼をして去っていった。
……のかな?
去っていったっぽい音はした。
お腹空いたな。
給油しとくか。
帰りにマックのドライブスルー寄ってくとしよう。
★
いま思えば、マックのドライブスルーに突撃したあたりから運命が狂ったのかな__
その日、燃料計が『えんぷてぃ!』を示していた。
俺に燃料計なんかついてないけど。
マックの“センタッキー・フライド・チキン”が、どうしても食べたかった。
「今日、センタッキーにしない?」
高速に乗るまえ通ったコインランドリーを見てそう思った。
腹の虫、たぶん、目に入ったのが、胃に到達したんじゃないかな。
よし、突撃するか。
サイフ? 持ってない。
でも、F1用のハンドルは、しっかり握ってる。
あれ買ったせいで、サイフはからっぽ。
で、空のサイフは捨ててきた。
とにかく、お腹空いた。
スマイルで特攻だ!
だけどね、歩いて行くのはつまらない。
自転車も違う。車なんてもってのほかだ。
俺の中で、答えはひとつだった。
正座だ。
ゆっくり、息をはくように滑って進む。
もはや、俺はガンタンク。
パイロットむき出し。
武器は持ってないけど、真っ先に撃たれるレベル。
そんな俺(別名:俺タンク)は、マックのドライブスルーレーンを正座で侵入。
店員のお姉さんは、俺タンクを見てこう言った。
「歩きではダメなんですけど……」
「ですよねえ~。ダメ! 歩きスマホ!」
「できれば、お車で……」
「なんで俺の苗字しってるんですか?」
ちなみに、俺は『久留間 団吉』です。
「お姉さん、スライム! スライム!」
「えっと、スマイルですか?」
さすがマックの店員さん。プロだね。
スライムを一気に格上げしたよ。
お姉さんが戸惑ってるから、俺が先導してあげようかな。
「注文いいですか? 12個入りセンタッキー・フライドチキンのハーフ、ふたつください」
は? チキンのハーフってなに?
わかった!
お父さんが洗濯機。
お母さんが空飛ぶ乾燥機ってことだね。
24個入りもあるのか。
ってことは、6個入りを4つ買えばいいのか。
1個入りを24買えば……箱のムダづかい。
勉強になった。
店員さんは少しだけ笑う。
普通に注文を通してくれた。
なんて優しい世界なんだ!
よし、日本一周しよう。
ハンドルを握る手に力が入る。
サイフ持ってない。
ま、いいか。
テンションの上がった俺は、そのまま走り出す。正座のまま。
ぁ……。
縁石にぶつけたヒザが
……割れた。
ヒザの修理にオートバッグス寄って行こうか。
直ったら、バイクの王将で俺を査定してもらうかな。
★
正座して寝てた。
道路の中央分離帯で。
起きたら、お賽銭・お菓子がお供えされてた。
ヒザ地蔵として崇められてるらしい。
ヒザ小僧っぽい響きがいい。
まっすぐ持ってたはずのハンドルが、すこし左に切れてた。
でも、体(車体)は右に持ってかれた感じになってる。
そうか、ドリフトか!
小僧で思い出した。
ヒザの修理いかなきゃ――。
さすが、オートバッグス。
あっという間にヒザが直った。
お兄さんが、俺のヒザをカン! ってやたら、一発で復活。
ヒザの調子がいいぞ。
反対方向に曲げても折れる気がしない。
ぁ……。
折れたね、脚。
お兄さんが、すぐ修理してくれた。
あの黒い無免許医かな?
「オイルも点検します?」
「顔の?」
「肌つやがいいんで問題なさそうですね」
ついでに、タイヤ(俺)の空気圧をみてもらう。
俺の肺活量、8リットル。
アメ車かよ!
帰り際、灰皿用消臭ビーズをもらった。
良い香りが、口の中に広がる。
しゃべるたんびに、ビーズがすこしづつ口から飛び出るんだけど。
使い方、あってんのか?
「ウルトラソウル! ハイ!」
ってシャウトしたら、ビーズ全部出ちゃった。
ヘイ! だったら、ビーズは半分残ってたんかな。
おや?
オートバッグスのお兄さんが、腹かかえて笑っとる。
楽しそうでなによりです。
笑う門に小指をぶつける、っていうし。
さて、バイクの王将に向かおうか__。
って、隣にあったよ。
ギョーザのお店かと思って通り過ぎるとこだった。
羽付きバイクとかあるんかな?
バイクの王将店内は、ニンニクの薫りに包まれてた。
ジュウ~、ジュウイチ~、という、景気のいい音が聞こえる。
ひとつ多めにバイクを焼いてるのかね。
さすが、手際がいい。
資料を作ってくるからと、査定してくれた年配の店員さんが奥に引っ込む。
サービスで、ギョーザが出てきたね。11個。
待ってるあいだに食べとけってことらしい。
でました。査定結果。
F1用ハンドル、500万10円。
もう、ステアリングに昇格させてやりたい。
パトカーのフロントガラスにぶっ刺さったのが、高額買取の決め手。
口に残ってた灰皿用消臭ビーズ1粒、1円。
なんかシットリとしてるから、色をつけてくれた。
ピンクだったら、もっと高く売れたらしい。
俺、プライスレス。
コメントしてくれんかった……。
さて、日本一周でもしてきますか。
サイフはないけど。