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半分の吸血姫、半分の…?  作者: u-nyu
3.アストラリス内戦
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3.3 覚醒:調和

リリスとレヴィアによってフジシロから救出され、シェリーは、意識を深い瞑想状態へと沈めた。それは、精神世界。あるいは、彼女の首飾り・エンタロピアが作り出した、特別な空間だった。

彼女の目の前には、見慣れた、しかしどこか見慣れない、四つの光景が広がっていた。それは、彼女の四人の親たちが待つ、それぞれの試練の場。


---

試練1:ティータイム

シェリーは、煌びやかなシャンデリアが輝く王宮の一室に立っていた。人の気配が全くしない、静寂だけが支配する空間。一つのテーブルを挟み、長身痩躯、血のように赤い瞳の男が静かに座している。父、エドモンド皇帝の幻影だった。しかし、彼の瞳には、シェリーが知る温和な父の面影はない。王としての絶対的な威厳と、冷徹なまでの力が宿っていた。


「シェリー」

エドモンドは、目の前の紅茶に口をつけることもなく、静かにカップを置いた。その音だけが、静寂に満ちた部屋に響く。

「想像してみろ。国境の村が、千の民が、未知の疫病に苦しんでいる。治療法はただ一つ、聖域に住まう五十人の亜人の一族が守る、聖なる泉の水を干上がらせることだけだ。彼らを犠牲にすれば千の民が助かり、彼らを守れば千の民が死ぬ。お前は王として、どちらを切り捨てる?」


シェリーは言葉に詰まった。父の瞳は、まるで己の魂の奥底まで見透かすかのようだった。


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試練2:温室

場面は一転し、陽光が降り注ぐ、ガラス張りの温室。色とりどりの花々が咲き誇る中で、シェリーの母、セラフィナ皇后の幻影が、一輪だけ枯れかけた美しい薔薇を手入れしていた。彼女の金色の髪は光を浴びて輝き、その瞳には慈愛が満ちている。

「シェリー、この花は『星光の薔薇』。かつて、私がエドモンドから贈られた、最後の一輪です。この病は、貴方の生命力を注ぎ続ければ、あるいは癒せるやもしれない。しかし、そのためには数日つきっきりになり、貴方自身の命も危険に晒されるでしょう。さあ、シェリー。貴方自身の危険を冒してでも、このたった一輪の『想い』を救いますか? それとも、大義のために、非情に切り捨てますか?」


シェリーがその薔薇に触れると、花の「痛み」と、それでも「生きたい」と願うか細い意志が、流れ込んでくるようだった。しかし、同時に、この庭園に咲き誇る他の花々――仲間たちの笑顔が重なって見えた。


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試練3:教会

次の瞬間、シェリーはフェニクスにある、見慣れた夜の教会にいた。祭壇の前に立つのは、養父ナサニエル。彼の穏やかな説教の声が、教会の石壁に吸い込まれていく。教会の椅子には、戦争で心や体を傷つけられた、様々な種族の信者たちが座っていた。腕を失った老ドワーフ、火傷の痕が残る人間の少女、魔力の暴走に震える魔族の青年……。

ナサニエルは、説教の途中、シェリーの方へと向き直った。その瞳は、悲しみを湛えつつも、どこまでも真っ直ぐだった。

「シェリー。我々の過去の過ちが、ここにいる人々の苦しみの遠因となったのかもしれない。お前はこの罪と歴史の全てを背負い、それでも彼らの前に立ち、導くことができるのか?」

その時、信者の一人、家族を失った魔族の男性が立ち上がり、シェリーに叫んだ。

「王女様!あんたが生まれたせいで、俺の家族は死んだんだ!あんたに、俺たちの痛みが分かるものか!」

その憎悪に満ちた声は、シェリーの胸に深く突き刺さった。


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試練4:観測所

最後にシェリーが立ったのは、時空の果てのような場所だった。無数の砂時計が置かれ、星々が流れる。中央には、脈動する大きな水晶体――創世器エンタロピアが浮かんでいた。その前に立つ養母、クロノエルは、どこか諦観したような表情でエンタロピアに手をかざす。

エンタロピアに、二つの未来が鮮明に映し出された。

一つは、仲間たち全員が笑い合っている。しかし、その背景で、アストラリスの街の一部が再び戦火に包まれている映像。

もう一つは、王国に平和が訪れ、人々が笑っている。しかし、その中心にある慰霊碑には、エディの名前が刻まれている映像。

「シェリー、貴方の力は未来をも選べます。でも、全ては手に入りません」

クロノエルの声は、時間そのもののように、感情を感じさせなかった。

「どちらの未来の『責任』を、貴方は負う覚悟がありますか?」

「そんなの……選べるわけない!」

シェリーの絶叫が、虚空に響いた。


---

非情な決断。歪んだ肯定。背負いきれない罪。そして、選ぶことのできない未来。

シェリーは、その全てを突きつけられ、一度は膝をついた。

(無理だ……こんな選択、私にはできない。誰かを切り捨てるなんて……。でも、何も選ばなければ、何も背負わなければ、私はただ流されるだけだ。あの時、ダミエンに『道具』だと言われたように。ルシアンに『毒』だと断罪されたように。父さんや母さん、そして皆が苦しんできたように。そんなのは、嫌だ。)

ふと、仲間たちの顔が、温かい光となって脳裏に浮かんだ。自分は一人ではない。支えてくれる仲間がいる。ならば、その仲間たちと共に、この世界の矛盾すら受け入れ、乗り越える道を探すしかない。

しかし、彼女はゆっくりと立ち上がる。そのオッドアイの瞳には、涙が浮かんでいたが、もはや迷いの色はなかった。

「……分かったよ。分かったて」

彼女は、四人の親たちの幻影に向かって、宣言した。

「非情な王にも、慈悲深き聖女にも、私はなれない。過去の罪を背負うことも、未来を選ぶことも、私一人じゃできない。でも、だから、諦めない」

「私は、その全てを選び、その全ての矛盾を、背負う!」

血を吐くような、魂からの叫びだった。

その瞬間、磨き上げられた水晶のように半透明な翼が彼女の背中に現れた。その翼は、シェリーの意志に呼応するように、ある時は内側から光を放って神々しい純白に、またある時は全ての光を吸収して深淵のような漆黒に、その色を変化させた。

オッドアイの瞳は、青と赤の輝きを増し、その中心に金色の光が宿っていた。頭上には、光と闇が螺旋を描くように絡み合う、神々しくも不安定なヘイローが輝いていた。


「私は……私を縛る全てのものを乗り越え、全てを選び、全てを背負う王女になる……!」

シェリーの声が、精神世界に響き渡った。


---

シェリーの意識が、深く、長い旅から帰還する。

ゆっくりと目を開けると、そこはリリスが用意したセーフハウスの一室だった。焦げ付くような魔力の匂いと、微かに漂う血の香り。傍らには、心配そうに彼女を見守る仲間たちの顔があった。

「シェリー!」「シェリーちゃん、気がついたのね!」

エディとマリアが、安堵の声を上げる。

「……みんな」

体を起こそうとしたシェリーは、自らの背中に生じた「異変」に気づいた。そこには、磨き上げられた水晶のように半透明な、一対の翼が静かにたたずんでいた。

仲間たちは、シェリーの変貌に息をのむ。彼女の瞳は以前よりも深く、その身から放たれるオーラは、光と闇が混じり合った、神々しくも畏怖すべきものへと変わっていた。

誰もが言葉を失う中、エディが最初に沈黙を破った。

「……シェリー、なのか? 無事なんだな?」

その変わらない、不器用な優しさに、シェリーは安堵し、静かに頷いた。


「どうやら、無事に『選んで』きたようね」

部屋の隅の闇から、リリスとレヴィアが姿を現す。

レヴィアが、窓の外、不気味な赤色に染まる空を指し示した。

「だが、感傷に浸っている時間はないわ。フジシロは、聖遺物の力でソレイユ大聖堂を『歪んだ聖域』に変え、ミスティス王国そのものを、彼だけの閉じた因果に作り替えようとしている。もはや時間の問題よ」


続いてリリスが、冷ややかに分析結果を告げる。

「私の使い魔の情報によれば、大聖堂の内部には『虚聖徒』と化したルシアン・ソレイユが、中枢への守護者として配置されているわ。虚聖徒とは、強い信念を持つ者が、外部からの強制的な魔力によってその精神を歪められ、肉体と魂が異形へと変貌した存在。自我を失い、ただ主の命ずるままに動く、生ける聖遺物とでも呼ぶべきものよ。元々の実力に加え、痛覚や恐怖心、そして慈悲の心を失っているから、その脅威度は計り知れないわ。

そして、フジシロ自身は聖遺物と完全に融合し、人ならざるものと化している。正面から攻めては、まず勝ち目はないでしょうね」

絶望的な情報を前に、仲間たちが言葉を失う。

その重い沈黙を破ったのは、シェリーだった。


「……ううん、勝ち目はあるて」

彼女の声は、静かだったが、不思議な確信に満ちていた。その瞳には、世界の法則が、まるで雑な数式のように見えているのかもしれない。

「ルシアンさんの力を止めるには、ラゼルの闇魔法とマリアちゃんの浄化を組み合わせる必要があるかもしれない。サキちゃん、聖遺物の魔力パターンを解析して、ルシアンさんの力を無力化する方法はないかな?」

シェリーは、仲間たち一人一人の顔を見ながら、よどみなく作戦の骨子を語り始める。それは、精神世界での試練を通じて得た「調和」の概念と、仲間たちの能力を組み合わせた、勝利への唯一の道筋だった。

仲間たちは、これまでとは違う、シェリーの姿に驚きながらも、その言葉に希望を見出し、強く頷いた。


作戦会議の最後に、シェリーは立ち上がり、仲間たち一人一人の顔を見つめた。

「怖い。本当は、すごく怖い。でも、私はもう逃げないって決めたから。みんなの力を貸してほしい」

彼女は、仲間たちに向かって、深く頭を下げた。


「行こう、みんな。私たちの物語を、終わらせに」


その言葉に、エディが、マリアが、ラゼルが、そしてサキが、力強く頷く。

シェリーを中心とした「チーム」が、最後の戦いに臨むため、今、一つになった。

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