2.6.6 再会
夜の教会は、墓場のような静寂に包まれていた。ラゼルの先導で、仲間たちは音もなくその内部へと侵入する。本堂の奥、巨大な女神像の裏に隠された、地下聖堂へと続く扉をラゼルが指し示した。ひやりとした空気が、開かれた扉から流れ出してくる。
その先に、彼らはシェリーを見つけた。
古びた石造りの祭壇に、シェリーは静かに横たえられていた。まるで眠っているかのように穏やかな顔をしているが、その身から放たれる不安定な魔力のオーラが、彼女がただ眠っているわけではないことを示していた。
そして、その傍らには、シェリーを守るように一人の女性が毅然と立っていた。シェリーの養母、クロノエルだった。
「あなたたちも、あの子を狙う者たちね…」
クロノエルは、仲間たちを鋭い視線で射抜き、低い声で言った。
「これ以上は近づかせないわ」
「違う!」
エディが叫んだ。
「俺たちはシェリーを助けに来たんだ!」
「そうですわ!私たちはシェリーちゃんの仲間です!」
マリアも必死に続く。だが、クロノエルの警戒心は解けない。彼女にとって、今のシェリーに近づく者すべてが敵だった。
その膠着状態を破ったのは、地下聖堂に響く、場違いに陽気な拍手の音だった。
「これは面白い。共食いかい?」
闇の中から、ダミエンがレヴィアを伴って姿を現す。その顔には、嘲るような笑みが浮かんでいた。
「ダミエン…!」
エディが敵意をむき出しにする。だが、ダミエンの隣に立つレヴィアは、クロノエルを一瞥すると、静かに口を開いた。その言葉は、ダミエンではなく、クロノエルに向けられていた。
「時の代行者、クロノエル。久しいわね。あなたの『悪戯』が、世界の理を少し歪めてしまったようよ」
その声に、クロノエルの顔色が変わった。驚愕と、わずかな恐怖。
「セルフィア…!なぜあなたがここに。これは、あの子を守るための…!」
「守るため、ね」
レヴィアは優雅に微笑む。
「その行いが、かえってより大きな歪みを呼び寄せたとは思わないのかしら?」
三つの勢力が、意識のないシェリーを中央に挟んで睨み合う。その渦巻く魔力と緊迫した空気が、閉ざされたシェリーの心に届いたのか。
ーーー
シェリーの意識は、終わらない悪夢の中にいた。ダミエンの嘲笑。暴走する自分の力。人々の悲鳴。光と闇が混じり合い、全てが引き裂かれていく。嫌だ、やめて、と叫んでも、声にならない。
その時、冷たい闇の中に、温かい光が差し込んだ。仲間たちの顔が、想いが、光となって彼女を包み込む。悪夢の世界に、亀裂が入った。
その亀裂から、現実の音が流れ込んでくる。
『シェリーを返せ!』
エディの、怒りに満ちた、けれど心配でたまらないという声。
『シェリーちゃん、お願い、返事をして!』
マリアの、涙に濡れた、必死な声。
その声が、闇に沈むシェリーの意識を繋ぎとめる、最後の錨となった。
ーーー
地下聖堂の祭壇の上で、シェリーの指が、ぴくりと動いた。
ゆっくりと、震えるまぶたが開かれる。
その場の誰もが、息をのんだ。渦巻いていた魔力が、嘘のように静まる。
シェリーは、ふらつきながらも、自らの意志でゆっくりと体を起こした。その虚ろだった瞳が、一人、また一人と、その場にいる者たちを映していく。
涙ぐみ、今にも駆け寄りそうなエディとマリア。
驚きながらも、冷静に状況を見極めようとするラゼルとサキ。
獲物を見つけた捕食者のように、歪んだ笑みを深めるダミエン。
そして、全てを興味深そうに、ただ静かに観察しているレヴィア。
やがて、シェリーの視線は、一番近くにいる仲間たちで止まった。
乾いた唇が、かすかに動く。
「……みんな……?」
それは、か細く、しかし確かな声だった。
その一言に、エディとマリアの瞳から涙が溢れた。ラゼルとサキの表情が、わずかに和らぐ。
ダミエンは、シェリーが自我を取り戻したことに、より一層笑みを深くした。
レヴィアは、ただ静かに目を細めている。
感動的な再会。
しかし、それは同時に、より複雑で、危険な対立の幕開けでもあった。




