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半分の吸血姫、半分の…?  作者: u-nyu
2.アストラリス大学の学園生活
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2.6.3 散り散りの断片

シェリーを探すため、仲間たちはアストラリスの各地に散った。それぞれが掴んだのは、希望の光ではなく、現実を揺るがす謎の断片だった。


【サキ:アストラリス大学 某ラボ】

無数のケーブルが床を這い、ホログラムディスプレイが青白い光を放つラボは、サキの城だった。彼女はコンソールの前に座り、膨大な量のデータと格闘していた。徹夜を示すコーヒーの空カップが、傍らに積み上がっている。

「……見つけました」

独り言ともつかない声で呟き、サキは指先でデータを拡大する。シェリーが最後に目撃された廊下の監視記録。ほんの数フレーム、映像に奇妙なノイズが走り、記録が欠落している。ここまでは想定内。だが、問題はその直後だった。

自作の『エーテル変動観測プログラム』が、その瞬間に規格外のエネルギーパターンを表示していた。既知のどの魔法体系にも属さない、あまりに巨大で、あまりに異質なエネルギー。データは強すぎる負荷で大部分が破損していたが、残された断片はサキを混乱させるのに十分だった。

「…エネルギーパターンは…不一致。ログのタイムスタンプに…矛盾あり?記録が前後に…いえ、そんなはずはありません。ですが、このデータは…まるで結果が原因の前に記録されているような…奇妙なループ構造を示唆しています…」

サキはコンソールを睨みつけたまま、固まった。彼女の明晰な頭脳が、初めて理解不能な現象の前に停止する。

「いや、ありえない。なにかがおかしい。この胸につっかかる違和感は、一体なんだ…?」

その問いに答える者は、誰もいなかった。


【マリア&エディ:シェリーの私室】

主のいない部屋は、しんと静まり返っていた。ベッドは綺麗に整えられ、机の上には書きかけのレポートが残されている。まるで、彼女が少しだけ散歩に出かけているかのような、穏やかな日常の風景。だが、そこに漂う完全な不在感が、マリアの胸を締め付けた。

「エディさん、お願いします」

「おう。誰も近寄らせねぇ」

エディは力強く頷くと、部屋のドアを静かに閉め、その前で屈強な門番のように腕を組んだ。猫獣人の耳が、廊下のどんな微かな物音も拾おうと、ぴくりと動いている。

部屋の中央で、マリアは膝をつき、シェリーの櫛に残っていた数本の髪を、白いハンカチの上に広げた。目を閉じ、祈りを捧げる。彼女の全身から、清浄な光のオーラが溢れ出し、触媒となった髪がそれに呼応するように淡い光を放ち始めた。

「聖なる光よ、どうか導きを…。あの優しい魂の輝きは、今いずこに…」

光は強まり、マリアの意識は深く、深く潜っていく。

その時、彼女の脳裏に、断片的なビジョンが流れ込んできた。

――暗く、冷たい石造りの部屋。

――鎖が擦れるような、ひやりとした金属音。

――シェリーではない誰かが歌う、物悲しい子守唄。その声は、なぜか懐かしく、胸が張り裂けそうになるほど悲しい。

――そして、その闇の中で、消え入りそうに、しかし決して消えない、強い意志の光。『大丈夫だて』と、声にならない声が聞こえた気がした。

「……っ!」

ビジョンが途切れ、マリアは大きく目を見開いた。儀式の消耗で、全身から力が抜けていく。

「マリア!」

異変を察したエディが、即座にドアを開けて駆け寄る。ふらりと傾いた彼女の体を、そのたくましい腕が力強く支えた。

「無理すんな!…何か、見えたのか?」

「シェリーちゃんは…生きていますわ」

マリアはエディの腕の中で、か細く、しかし確信に満ちた声で言った。

「でも…一人では、ありませんわ。そして、そこは…私たちの知る、どの場所でもないような…」


【ラゼル:旧市街の隠れ家】

ラゼルの隠れ家では、ホログラムディスプレイに無数の情報が明滅していた。ダミエン派、ルシアン派、どちらにもシェリーを拘束した形跡はない。ラゼルは表情を変えぬまま、次々と不要な情報を削除していく。だが、ある一つの報告に、彼の指が止まった。

『対象:ナサニエル・グレイソン、クロノエル・グレイソン。シェリー失踪の二日前、アーシスの森にて、アーサー・ワイズマン教授と接触』

養父母と、アーサー教授。点が、線で結ばれる。ラゼルはすぐさまアーサー教授のスケジュールをハッキングするが、そこには『王宮からの急な召喚により、本日より一週間、大学を不在』という素っ気ない記述があるだけだった。

「……見事な手際だ」

ラゼルはディスプレイを睨み、静かに呟いた。情報統制が、あまりに完璧すぎる。

(養父母、アーサー教授、そして王宮…。点が線で繋がり始めた。だが、その絵の中心にいるはずのシェリーが消えている。これは偶然じゃない。何者かが、シェリーを意図的に『盤上から下ろした』んだ)

事件の背後にいる、巨大な影。その存在を確信した瞬間、ラゼルの指先の動きが、わずかに鋭さを増した。


ーーー


三者三様、謎を深める「断片」を手に、彼らは思考の海に沈んでいた。

その時、全員の持つ情報端末が、同時に短い通知音を立てた。

ラゼルからの、簡潔なメッセージだった。

『アジトに集まれ』

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