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半分の吸血姫、半分の…?  作者: u-nyu
2.アストラリス大学の学園生活
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2.6.2 絆を繋ぐために

大学の喧騒から遠く離れた、旧市街の一角。ラゼルが情報整理のために借りている隠れ家は、彼の性格を映したかのように、殺風景で機能的な空間だった。壁に貼られたアストラリスの広域地図には無数のマーカーと走り書きがあり、テーブルの上には分解された通信機器の部品が整然と並んでいる。その部屋を満たす重い沈黙を、最初に破ったのはエディだった。

彼は固く握りしめていた拳をゆっくりと開き、絞り出すように言った。

「悪かった……。頭に血が上って、余計な混乱を招いちまった」

その率直な反省の言葉に、張り詰めていた仲間たちの間の空気が、わずかに和らぐ。

「気にするな」

情報端末の前に座っていたラゼルが、顔も上げずに応じた。

「お前の行動で、ダミエンが単純な犯人ではないことが分かった。結果的には有益だ」

ラゼルの隣では、サキが眼鏡のブリッジを指で押し上げながら、コンソールに表示されたデータを高速でスクロールしていた。

「問題は二つあります。シェリーさんの『存在消失』という異常現象の解明。そして、あのダミエンを怯えさせた『何か』の正体。これらは繋がっている可能性が高いです」

「難しいことは分からん!」

サキの分析的な言葉に、エディが苛立ちを隠さずに声を上げた。

「要するに、シェリーはどこにいるんだ!」

「だからそれを調べている。感情的になるな、時間の無駄だ」

ラゼルが冷ややかに諌める。

「そうですわ、エディさん」

窓辺に立っていたマリアが、聖印を握りしめながら静かに言った。

「今は、心を一つにしませんと。…ダミエンさんの、あれは、魂が砕かれるような恐怖でしたわ。シェリーちゃんが、あんなものに一人で立ち向かったとは考えたくありませんもの」


マリアの言葉に、全員の表情が再び硬くなる。シェリーは、自分たちの知らない場所で、たった一人で戦っているのかもしれない。

「闇雲に探しても無駄だ。手分けして、情報を集める」

ラゼルが立ち上がり、部屋の中央に置かれたホログラムテーブルを起動させた。彼の紫色の瞳が、仲間たち一人一人を順番に見据える。

「俺は『影』から探る。ダミエンの動向の再監視、ルシアン派の動き、そして……シェリーの養父母、ナサニエルとクロノエルの現在の足取り。この三点を最優先で洗う」

「ボクは『記録の矛盾』をハックします」

サキがラゼルの言葉を引き継ぐ。

「大学のメインサーバーに再度侵入し、シェリーさんのデータが『どのように』消されたのか、そのログの痕跡を徹底的に追跡します。同時に、自作の『エーテル変動観測計』で、シェリーさんが最後に目撃されたエリア周辺の物理痕跡をスキャンし、データ上の『空白の時間』や『ありえない数値』といった矛盾点を探し出します」

「私は、シェリーちゃんが残した『繋がり』を探してみますわ」

マリアが静かに言った。

「シェリーちゃんの私室からお借りしてきた髪を触媒に、彼女と過ごした思い出の場所で小規模な神聖魔法の儀式を行いますの。彼女にかけた私の『守護の祝福』がどこで途切れたのか、あるいは邪な魔力によって汚されていないか……。彼女の状態を知る手がかりになるかもしれませんわね」

彼女はそう言うと、公的な情報を探るため、アーサー教授に相談してみることも付け加えた。

三人がそれぞれの役割を明確にする中、エディは再び唇を噛み締めた。自分には、彼らのような特殊な能力はない。

そのエディの葛藤を見透かしたかのように、ラゼルが彼に向き直った。

「エディ。お前には、一番重要な役目がある」

「え……?」

「マリアの調査には護衛が要る。儀式中の彼女は無防備だ。お前が守れ。さらに、サキがスキャンを行う間の周囲の警戒、俺からの指示で物理的な証拠を回収しに行く遊撃役も頼む。お前の身体能力と、獣人ならではの五感が不可欠だ」

それは、明確な信頼の言葉だった。エディの金色の瞳に、再び強い光が宿った。

「おう、任せとけ!」

力強い返事に、仲間たちの顔に微かな安堵が浮かぶ。

「それで、サキ」

ラゼルが確認するように尋ねた。

「大学のサーバーへのアクセスは問題ないのか?」


「安心してください」

サキはこともなげに答えた。

「この大学のほぼすべての情報機器はザカリアス先生の管理下にあります。そして、最近先生が忙しくて、ボクが代わりに管理しているんです」

「お前……」

エディが、じっとりとした視線をサキに向ける。(職権乱用では…)という心の声が聞こえてきそうだった。


「どこから回るんだ、マリア?」

エディは気を取り直して、マリアに尋ねた。

「俺が先に安全を確認しておく」

「ありがとうございます、エディさん。では、シェリーちゃんの私室から参りましょうか」

「よし」

ラゼルが頷いた。

「一時間ごとに通信を入れる。何かあればすぐに共有しろ。……行くぞ」

サキは自作の端末の電源を入れながら、マリアは聖印を胸にそっと抱きながら、エディは腰の短剣の柄を一度強く握りしめながら、そしてラゼルは音もなく影に溶け込むように、四人はそれぞれの戦場へと散っていった。

バラバラに行動しながらも、その心は一つの目的で固く結ばれていた。

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