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半分の吸血姫、半分の…?  作者: u-nyu
1.首都アストラリスへの誘い
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1.1. 首都アストラリスの夜明け

 夜明けの光が、東の空を茜色と紫紺のグラデーションに染め上げ、その最初の煌めきは首都アストラリスの摩天楼に受け止められた。鏡面仕上げガラスの特殊合金で構築された超高層ビルは、天を衝く鋭角的なオブジェの如く林立し、朝日を浴びて幾何学的な影を長く地上に伸ばしている。その滑らかな壁面をよく見れば、単なる金属やガラスではないことがわかるだろう。所々に、まるで精密な電子回路の基盤を拡大したかのような、微細な線が銀色に光っている。それはマナの流れを最適化し、建物の構造体自体を強化する魔法紋様が、高度な科学技術によってナノレベルで建材に組み込まれた結果だった。また、いくつかのビルの頂上付近は大気の揺らぎとは異なる微かな光彩を帯びており、まるで薄いヴェールを纏っているかのようだ。それは都市中枢を護る強力な魔法結界が太陽光に干渉して起こる現象で、鋭敏な感覚を持つ者だけがその存在を朧げながらに捉えることができるかもしれない。しかし、それらの魔法的要素は建築デザインと完全に融合し、一見しただけでは最先端科学技術の粋としか思えぬほどに洗練されている。

 その摩天楼の間を縫うように、あるいは定められた空路を滑るように、個人用と思われる小型の飛空艇が静かに、そして数多く行き交っていた。流線形のボディは陽光を弾き、マナコンダクターと超電導技術を応用した反重力機関によるものか、音もなく都市の空を舞う。それらは、富裕層や要人向けの自家用機なのだろう、磨き上げられた機体からは時折、豪奢な内装や忙しなく情報端末を操作する人影が垣間見える。一方で、より多くの市民の足となっているのは、定期的に停留所間を往復する公共の「エアロキャブ」だ。機能的なデザインのそれらには、様々な種族の人々が乗り込み、一日の始まりに向けてそれぞれの表情を浮かべていた。

 眼下、地上では、アストラリスのもう一つの顔が動き出していた。特殊な鉱石を練り込んだアスファルト、あるいは磨き上げられた石畳には、夜間に自動で発動する洗浄魔法の魔紋が微かに刻まれており、小さな虫型の清掃ドローンがその仕上げとばかりに細かな塵を吸い込んでいく。

 足早に行き交う人々の服装は、その所属や職業を色濃く反映している。マナコンダクター関連企業や先端技術研究所の集まるエリアへ向かう者たちは、身体の動きを阻害しない機能的な素材を用いたスマートなスーツやジャケット姿が多い。一方、魔法学院や古くからのギルドが点在する地区へ向かう者たちは、伝統的なローブの意匠を残しつつも現代的な素材やカッティングを取り入れた、優雅さと実用性を兼ね備えた服装を好む。そして、真新しい制服に身を包んだ学生たちの姿も目立つ。それはアストラリス大学の制服であろうか、軽やかなマント風の上着や、魔法的な紋様が織り込まれたスカーフなど、ミスティス王国独自の美意識と実用性を兼ね備えた、洗練されたデザインだ。

 彼らの多くは、手にした薄型のスマートデバイスに視線を落としたり、あるいは空間に小さなディスプレイを投影させ、ニュースを確認したり、メッセージをやり取りしたりしている。そのスマートデバイスは、単なる通信機器ではなく、個人の認証やマナ・ペイの決済、さらには簡単な魔法効果を発動させるアプリまで搭載した、この世界の必需品だった。

 大通りでは、マナコンダクターを動力源とする路面魔導車「アストラグライド」が、磁気浮上によるものか、独特の低いハミング音と共に滑るように走行している。それは数両編成の小型トラムのような形状で、大きな窓からは様々な種族の乗客が車窓の風景を眺めているのが見える。停留所では、次の到着時刻を示すホログラム表示が明滅し、その傍らでは、街路樹として植えられた魔法植物が周囲のエーテルを浄化するように淡い光を放ち、その根元には太陽光(あるいはエーテル光)を集める薄膜パネルが設置されている。商業地区のビル壁面には、マナコンダクター技術による鮮やかなホログラム広告と、より幻想的な幻視投影技術を組み合わせた立体的な宣伝映像が、人々の目を奪っていた。

 これらの乗り物や人々の流れは、マナコンダクターの応用産物であるAIと魔法センサーを組み合わせた交通管制システムによって精密に制御されている。交差点では、物理的な信号機は最小限に抑えられ、代わりに路面に投影される光のラインや、車両のスマートデバイスに直接送信される指示によって、円滑な交通が維持されていた。

 メインストリートの洗練された景観とは対照的に、一本裏の路地に入ると、そこにはまた別の顔があった。そこには、古くから続く魔法道具を扱う小さな店や、最新の科学的ガジェットを売る怪しげな露店、さらには亜人向けの特殊な食材を扱う店などが軒を連ね、混沌としながらも活気に満ちている。

 混雑するアストラグライドの車内は、まさに多種多様な種族の縮図だ。大きな角を持つ魔族の男性が器用にスマートデバイスを操作し、その隣では尖った耳のエルフの女性が静かに魔導書を読んでいる。小柄な猫獣人の子供が母親に何かをねだり、屈強なドワーフの職人が工具の入った鞄を抱えて立っている。彼らは互いに無関心なようでいて、しかし確かに同じ空間と時間を共有し、この大都市アストラリスの日常を形作っていた。オフィスビルの中でも、異なる種族の同僚たちが、時には文化や価値観の違いから小さな摩擦を起こしつつも、共通の目的のために言葉を交わし、新たな一日を始めているのだろう。

 街角の大型ディスプレイには、皇帝エドモンドの威厳ある肖像と共に「帝国の安定と繁栄を」というスローガンが映し出されたかと思えば、次の瞬間には技術革新派の旗手であるザカリアス教授の最新発明を紹介するニュースに切り替わり、その背後では魔法伝統派の抗議デモの様子が小さく報じられている。帝国ミスティスは、常に複雑な要素を内包しながら、それでも力強く動き続けていた。

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