表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/219

2.特訓!!!

 ――気がつくと、ベッドの上だった。


 木造の天井が目に入り、見慣れない部屋の空気に意識が覚醒していく。

 昨日の出来事が走馬灯のように脳裏をよぎった。


 魔物に追いかけられ、トマトをかじろうとしたらゴーレムに捕まり、美人魔女に弟子入りさせられて……。


(ああ、夢じゃなかったんだな……)


 目をこすりながら身を起こすと、柔らかな布団に包まれた体は軽く、驚くほど健康そのものだった。

 ――いや、そういえば今の身体、前世とは比べ物にならないほどスリムだったな。


(無呼吸もなくなったし、こんなに寝たのは何年ぶりだろう)


「おはようございます」


 寝ぼけた声で挨拶すると、部屋の隅からヒルダの声が返ってきた。


「疲れていたんだろう、もう昼間だぞ」


 彼女は椅子に座り、本を読んでいたらしい。

 ふと顔を上げたその視線は、鋭いながらも、どこか優しさを感じさせた。


(……なんか、昔の上司とは大違いだな)


「なにも食べてないだろう、これを食べておけ」


 ヒルダが手際よく皿を並べていく。

 木の皿には、見たことのないキノコや野菜が山のように盛られていた。


「おおっ!? 動物のエサじゃねーか!?」


 反射的に口から出た本音。――次の瞬間。


 ゴンッ!


 鋭いゲンコツが俺の頭を直撃した。


「いってえええっ!ご、ごめんなさい……」


 肩をすくめながら、素直にフォークを手に取る。


 ……しかし、食べてみると意外や意外。

 このキノコ、妙に旨い。焼いただけっぽいけど、香ばしくて食感も絶妙だった。


(なんだこれ……キノコ、侮れん)


 食事を終えると、テーブルの上に見慣れない服と靴が置かれていた。


 着てみると、最初はぶかぶかだったが、時間が経つにつれてぴったりと体にフィットしてくる。


(おおっ……すげぇ……自動サイズ調整?)


 靴まで同じ仕様。異世界の技術って、どこか近未来っぽいところもあるな。


 そこへ、ヒルダが木製の剣を片手にやってきた。無言でその剣を俺に投げてよこす。


 慌てて受け止めながら尋ねた。


「これで素振りでもするんですか?」


「まぁ、説明するから少し待て」


 言葉少なに彼女は外へと歩いていく。俺も慌てて後を追った。


 外に出ると、畑で数体のゴーレムが農作業をしていた。


 巨大な手で水を運び、器用に草を抜き、畝を整えている。


「あのゴーレムって……魔物じゃないんですか?」


 俺の問いに、ヒルダは振り返らずに答えた。


「あいつらは私が作ったゴーレム。魔物じゃない。忠実な働き手さ」


 彼女は淡々と説明するが、どこか自分の作品を誇らしく思っているような口ぶりだった。


「森から来る魔物の監視もしてくれるし、畑の管理も任せてる」


(……昨日、トマト盗ろうとしただけで捕まったの、これのせいか)


 しばらく歩き、一本の太い木の前で立ち止まったヒルダ。


「今日からこの剣で、この辺りの木を切るんだ」


「……バカじゃねーのこの人」


 思わず口から出そうになったが、ぐっと堪えて、曖昧な笑顔で誤魔化す。


「見本を見せてやる」


 彼女が木剣を構え、横一文字に振り下ろす――。


 刹那、剣が青白く光ったかと思うと、ズバッという音とともに、木の幹がスパッと切れた。


「おおぉぉぉっ!? これぞ異世界パワー!!」


 感動している間もなく、彼女は無言で剣を差し出してきた。

 その無言の圧力に、俺は剣を受け取り、思い切り振りかぶる。


「どりゃーーあっ!」


 ガンッ!


 木に当たった瞬間、衝撃が走り、剣は弾き飛ばされ、指に激痛が走った。


「うぎゃあああっ!!」


 指の骨がすべて折れたんじゃないかってくらいの激痛。思わず膝をつく。


「うるさい!しばらくすれば治る」


 ヒルダが面倒くさそうに言った直後、痛みがスッと引いていく。


(なん……だと?)


「さっきのキノコが、一日だけどんな怪我でも回復させる。珍しい茸さ」


 ……魔法以上に便利じゃないかそれ。


 そこからはひたすら木を叩き続ける日々。


 当然、木はびくともしない。表面に少し傷が入るだけ。


 だが、キノコの効果のおかげか、どれだけ振っても疲労感がほとんどない。


 気づけば、日は傾き、空が紫色に染まっていた。


 近くで農作業をしていたゴーレムが、無言でこちらを見ている。


「……ああ、帰るタイミングってことね」


 そう呟き、小屋へと戻る。


「お疲れさまでーす」


 気の抜けた挨拶をして中へ入ると、テーブルには再びキノコ料理。


 ヒルダが言う。


「今日の訓練は以上だ。これを食べろ」


 ……やっぱり、万能キノコ様。


 食事を終えると、ヒルダが一冊の分厚い本を持ってきた。


「この文字、読めるか?」


 本をペラペラとめくりながら見せられるが、意味不明の記号ばかり。


「まったく読めません!」


「話は通じるのにな。……まぁいい」


 彼女は代わりに絵本のような薄い本を出してきた。


「これで文字を覚えなさい。私が教えてやる」


 こうして、朝は剣の訓練、夜は文字の勉強。

 そのあとは、ヒルダによる質問攻めが始まるのが日課になった。


「お前の世界では、戦争はどうやって起きる?」


「核という兵器があってですね……」


 彼女の興味は主に「科学」や「歴史」にあるらしく、記録を取らずにすべて記憶する姿には圧倒された。


(この人……本当はすごい頭良いんじゃ……)


 ――3ヶ月後。


 朝、目を覚ますと、あの切れなかった木が倒れていた。


「ついに……倒したのか?」


 感動していると、背後から無慈悲な声が飛んでくる。


「何を言ってる。この周りの木をすべて切れ」


 ……バカじゃねーの?


 ゴンッ!


 ヒルダのゲンコツが再び俺の頭を打ち抜いた。


 ――星が、見えた。


 さらに1ヶ月。


 ふと鏡を見ると、筋肉がついている。

 胸、腕、背中――自分でも驚くほど身体が締まっていた。


(うおぉ……これぞ異世界筋トレ……!)


 そんなある日、ヒルダに呼び出され、小屋に入ると椅子に座らされる。


「手を出してみな」


 言われるがままに手を差し出すと、ヒルダが真剣な顔で手のひらを見つめた。


「おかしい」


「えっ、な、何がです?」


 彼女は小さな黒板を持ち出し、人の図を描き始めた。


「この世界では、“魔素”というエネルギーが心臓に蓄えられ、脳で操作して身体各部に流すことで魔法が発動する」


 実演するように、彼女の指先から小さな火球が現れる。


「おお……魔法だ……!」


「だが、お前にはその魔素の流れがまったく見えない」


 ……それって、魔法使えないってことですよね?


「剣の訓練で多少は流れると思ったが、まだ全然ダメみたいだな」


 しょんぼりする俺に、彼女は静かに言う。


「まぁ、そんなに肩を落とすな。私なら、多少なり流れるようにしてやれる」


「マジっすか!? ヒルダさん神!」


 ヒルダは俺をベッドに寝かせ、掌を青白く光らせて心臓から四肢へとエネルギーを流していく。


「魔素は、ある。問題は“通り道”がないことだったようだな」


 指先まで光が届いた瞬間、体の奥がじんわりと熱くなる感覚があった。


「これで、魔法が使えるんでしょうか?」


 目を輝かせて尋ねる俺に、彼女は笑わずに答えた。


「多少な。……だが、まずは信じることだ、自分自身をな」


(おお……これで俺も、魔法使い――見習いだ!!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ