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196.限界の向こう側

グォンッ!


ヒルダの竹刀が空気を切り裂き、カイの脇をかすめた。


「まだ力が入っておるッ!!! 何度言えばわかるんだ、力じゃないと言うておるだろうがッ!」


額から滝のように汗を流すカイは、両手を震わせながら岩に手をかざした。

何度も挑戦し、何度も失敗した。

岩は浮かず、砕け、あるいは吹き飛び、そのたびにヒルダの容赦ない竹刀が飛んできた。


だが、彼の魔素は尽きなかった。


腕に巻かれたリストバンドの魔素タンク――

内蔵された三つの魔素クリスタルは、いずれも未使用のまま満タン、青白い光を帯びている。


ヒルダはその様子を横目で見ながら、内心に激しい衝撃を受けていた。


(あれだけ使っても……まだあふれ出すのか……本当に、カイの魔素は……底がないのか?)


「ふぅ……はぁっ……はぁっ……」


カイは両膝をつきそうになりながら、歯を食いしばる。

魔素を手のひらに集中させては岩を撫で、コントロールを試みるが、微細な制御がうまくいかない。


「ぐっ……なんで、うまくいかねえんだよ……!」


ヒルダは静かに目を細める。


(惜しい……本当に惜しい……)


剣技の腕前は申し分ない。咄嗟の判断力も、戦場では光るものがある。

だが、ヒルダが欲するのは――それだけではなかった。


彼女の胸の内には、知らず知らずのうちに生まれていた思いがあった。


(剣も魔法も扱える……誰にも真似できん、究極の魔導士を……この私が……育てたい)


それは、戦いのためでもあり、教え子への期待でもあり――

そして何より、ヒルダ自身の“野望”であった。


(私の手で、歴史に残る最強を……)


その期待は、日々の指導にさらに熱を帯びさせていた。


一方、カイはそんなヒルダの胸中を知る由もなく、ただひたむきに訓練を繰り返していた。

岩は、ようやく指先で数センチ浮かせられるようになってきたが――


まだ、マリやルカ、ミーア、そしてグレーンの域にはほど遠かった。


ヒルダがふぅと長いため息をついた瞬間だった。

そのため息が、なぜかカイの耳には、心を刺す矢のように響いた。


(くそっ…………!)


唇を噛み、歯ぎしりをしながらカイが立ち上がる。

拳を握り、魔素を一気に集中させた。


「うおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!!!!!」


岩の中心に、彼の魔素が一点集中して流れ込む――

一瞬、岩がぼうっと青白く光ったかと思ったその時、


シュウウウウウ……!


音もなく、岩は砂のように崩れ――そして、球体状のまま、粉となって風に舞い上がった。


沈黙。


ヒルダの目が見開かれた。


「……っ!」


一拍遅れて、口元にゆっくりと笑みが広がる。


(……ここまで、魔素を高密度に収束させて……粉砕するとは……)


「……よし、いいぞ、カイ!」


その声には、怒りから我に返るカイ。


ヒルダは、竹刀で地面を一打し、凛とした声で告げた。


「よし、今日はここまでだ! 次に移るぞ!」


カイは倒れ込みながら、ぐったりと笑った。


「……つ、疲れた……」


マリ、ルカ、ミーアもその様子を遠くから見守っていた。


「すごい……ようやく……成功したのね…形は違うけど……」

マリのニコリと笑った。


ヒルダは背中を向けて、空を見上げる。


(――カイ、おまえならきっと、超えられる。

 私の想像すら超える、“領域”へ……)


風が吹いた。

ヒルダのマントがふわりと揺れ、砕けた岩の粉が空に舞い上がった。

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