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187.真実

グレーンは、今までの出来事を順を追って静かに語り始めた。


小屋の中は静まり返り、誰も口を挟もうとはしなかった。

だが、皆の顔にはそれぞれ言いたいことが浮かんでいた。


それを察したヒルダが、低く冷静な声で言った。


「みんな、言いたいことがあると思うが……質問はあとだ。今は、聞くべきことがある」


その目線は、グレーンではなく――ゼオに向けられていた。

ヒルダの目に冷たい光が宿る。その鋭さに、ゼオは思わず身を震わせた。


「この男には……たっぷり喋ってもらわねばならん」


その言葉に場の空気が張り詰める。


ゼオはテーブルの上で項垂れ、顔色は蒼白。何かを察したのか、全身から脂汗が滲んでいた。


ヒルダの背後で、マルギレットが静かに杖を握りしめた。

クルドは目を伏せ、魔法の準備に入っていた。


そのとき、グレーンが静かに口を開いた。


「私も……立ち会わせていただきたい。国を案じる者として」


ヒルダは無言で頷いた。その表情に一切の感情はなかった。


やがて、他の者たちは小屋の外へと誘導された。小屋に残ったのは、四大魔女、クルド、そしてグレーンだけ。


カイは小屋の外に出る直前、最後にゼオを振り返った。

その目には、怒りでも憎しみでもなく、ただ深い哀しみが宿っていた。


「……俺は……見たくない」


誰もが、同じ気持ちだった。




小屋の中、重く静寂が流れる。


ヒルダが一歩前に出る。

「さて……準備をしようか」


グレーンがゼオの首根っこをつかみ、椅子に無理やり座らせた。

クルドが緑の魔法を使い、身体を蔦のような拘束具で縛り上げる。


ゼオがもがくたびに、蔦はさらにきつく締まり、骨が軋む音がした。


マルギレットが静かに手をかざす。

「《リュクス・グロッサ》……」


光の魔法がゼオの口元に放たれ、切断されていた舌が再生された。


「……これで、喋れるようになったのう」


ヒルダがゼオの目前に杖を突きつけた。


「死ねると思うなよ……ここには回復のプロが揃っている。死んでも、生き返らせてやる」


その瞬間、ゼオは椅子の上で、びしゃりと失禁した。


しかし喋るどころか、声すら出なかった。恐怖が全身を支配していた。


――これから始まるのは、地獄ですら生ぬるい尋問だった。




外ではカイたちが小屋から離れた場所にいた。


誰も口を開こうとしなかった。

時折、木々の間から小屋のほうへ目をやる者もいたが、すぐに目を背けた。


ゼオの絶叫が、森に微かに響いていた。


……そして、夜。


長い沈黙の末、小屋の扉が開かれた。

ヒルダがゆっくりと姿を現す。


彼女の表情は疲れ切っていたが、どこか凛としていた。


皆が無言で駆け寄る。


「……あぁ、終わったよ……」


その声に含まれるものが、何を意味するのか、誰も尋ねなかった。




広場には全員が集合していた。


捕らえられていたゼオの姿は、もうなかった。


ヒルダは椅子に肘をつき、しばし黙考したのち、静かに口を開いた。


「質問はあとにしてくれ。……とりあえず、ゼオから聞き出した情報を基に、この国の歴史を話す。」


場の空気が、ぴんと張り詰める。


「まず、ゼオは……他人から魔素を吸収して生き続ける、人間だ。少なくとも、千年以上は生きている」


周囲からざわめきが起こるが、誰も口には出さない。


「セラフィア教会の者だった。」


ヒルダは、眉をしかめながら続けた。


「スタンハイム王国は、長年、この大陸に眠る“あるモノ”を手に入れようと躍起になっていた。その封印を守っていたのが、フォースドラゴン……そして、リュシアだった」


ミーアが息を呑んだ。


「その封印は、魔法陣によって守られていたが、誰が何のために作ったかは不明。王国はそれを解除しようと試みたが……歯が立たなかった」


「そこで彼らは考えた。守護者たるドラゴンを絶てば、魔法陣も消えるのではないかと。そして……勇者召喚に手を出した」


ルカが目を伏せる。


「召喚には莫大な魔素が必要だった。エルフの子どもたちを誘拐し、恐怖心を魔素へと変換する技術を使った……」


カイが拳を強く握る。


「恐怖で生み出した魔素で、大量に勇者を作ったが、質は低く……だが、数を頼みに、フォースドラゴン討伐に向かわせた」


ヒルダの声が淡々と続く。


「結果は――敗北。

リュシアは姿を変え、魔素暴走を抑えるため、キナーク山へと膨大な魔素を流し込んだ。そこで生まれたのが……ボルク」


「リュシアは体力を回復するため、海底神殿を築き、そこで眠りについた」


「ここまでは、我々も知っていた。だが――ここからが、ゼオの口から語られた真実だ」


場がさらに静まり返る。


「彼らは……魔法陣を壊せる存在を育てようとしていた。召喚された勇者たちを鍛え、封印を壊させようとした」


「だがある日、そのうちの一人が暴走した。魔素の取り込み過ぎだった。

その結果、彼は町々を焼き尽くし……まるで“魔王”だった」


「それを機に、“魔王”という存在を作り上げ、噂を流し、世論を誘導した。そして、それを討伐したのが……我ら四大魔女」


ヒルダの声に苦味が混じる。


「その後も、力をつけ始めたエルフ族を警戒し、“エルフ狩り”が始まった。

今回のエルフの森への侵攻も、その一環だった」


「そして、それを指揮していたのが……セラフィス教会。歴代の王たちは、すべてその操り人形だった」


静まり返った広場。


「今回の混成軍には、オークだけでなく、操られたエステンやベンゲルの兵士、そして……一般人も含まれていた」


マリが口元を覆う。ルカも瞳を伏せた。


「……そんな……」


「私たち……戦ってた相手が……普通の人たちだったなんて……」


ヒルダは静かに続けた。


「……以上が、ゼオから聞き出したすべてだ」


誰もが言葉を失っていた。


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