表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
183/219

183.悪魔の巨鳥、堕ちる

カイとヒルダを乗せたグリフォンが、猛スピードでドレイアへと肉薄する。

大地の叫びのような羽ばたきとともに、ドレイアが低空を旋回しながら咆哮を上げた。


「チッ、近づけねぇ!」


ドレイアの背に立つノクルスが、炎の魔法を次々と放ってくる。

そのひとつひとつが、まるで彗星のような軌跡で追いすがってくる。


カイが身を傾けてかわしながら叫ぶ。


「ヒルダ先生! どうする!?」


ヒルダの瞳がギラリと光った。


「……ここは、私が牽制する。その間に飛び乗れ!」


ヒルダはすでに詠唱に入っていた。声に重なって、空間が軋み始める。


「闇の深淵よ、漆黒の球と成りて──《デス・オーブ》!」


ドレイアの上空に、巨大な闇の球体が現れる。

光をすべて吸い込むような異形の魔法――


ヒルダが杖を掲げて押し出すように振る。

「今だッ!」


ノクルスが無表情で、瞬時に杖を構える。

「……………」


その細い指先から、黒い火のようなオーラが噴き出し、魔法同士がぶつかり合う。

空中で魔力の応酬が爆ぜ、衝撃が周囲に稲妻のように広がった。


カイはそれを見て一瞬息を呑むが、すぐに判断する。


「今ッ!!」


グリフォンの背から、ドレイアへと一気に跳躍する。

風を切って宙を舞い、ドレイアの背へと着地した。


ノクルスは頭上の魔法を必死に抑え込んでいた。


カイの瞳が細まり、聖剣・ポチが光を放つ。


「喰らえっ!!」


ポチの刃が閃光のように走り、ノクルスの左膝を斬り裂いた。

黒い血とともに膝下が飛び、斬撃はドレイアの皮膚すらもかすめた。


「ッッ……!!」


ドレイアが大きく身体をねじる。制御を失った巨大な鳥の身体が、空中でバランスを崩す。


その振動でノクルスの身体が大きく揺れた。


そして次の瞬間、ヒルダの闇球がそのままノクルスの胸元へと──


直撃した。


「………!」


爆音が響き、空が震える。カイは咄嗟に身を伏せて飛ばされずに耐えた。


「先生の魔法が……入った!?」


だが、すぐに立ち上がってノクルスを確認し、思わず呻く。


(なんで……そう上手くいかないか!?)


ノクルスはボロボロになりながらも、手にした杖で防御していた。

だが、ダメージは入ってそうだ――普通なら即死しているはずの魔法を。


「……なんて、しぶとい化け物だ」


カイはもう一度剣を振るった。


「今度こそ……!」


左腕、腹、肩、背中――刃が深く肉を裂く。

だがノクルスは眉一つ動かさない。


「……?」


カイの手が一瞬止まった。

(どうして……どうして、効かない!?)


まるで切られているのは幻の身体であるかのように、手応えがない。


ノクルスは指先から火球を出し、カイにぶつけた。

その火球により大きく、身体が吹き飛ばされる。

カイは慌てて、ドレイアの身体に剣を立て飛ばされるのを防いだ。


そのとき。


「カイ! その剣を貸しな!」


ヒルダの声が飛ぶ。


見ると、ヒルダはすでに走ってきていた。空を踏むように軽やかに、しかし猛然と。


「……!」


だが、カイは迷わずに反応した。

聖剣ポチを逆手に持ち、ヒルダの胸元に向かって放り投げる。


ヒルダは空中で身体をひらりと回転させ、柄を逆手に握り、一直線にノクルスの首へと――


突き刺した。


その瞬間。


ノクルスの杖が閃き、ヒルダの腹を貫いた。


「先生ッ!!」


カイの悲鳴が空に響く。


ノクルスの黒目が大きく見開かれ、喉から信じられないような声が漏れる。


「う、うう……が、ああ、アアアアアアアア!!!!!」


その声は低く、獣の叫びにも似ていた。

これまで何を受けても無表情だったノクルスが、今、確かに苦しんでいる。


(効いてる……効いてる!?)


ノクルスの身体が、内側から吸い込まれるように収縮していく。

顔が歪み、全身の血管が浮き上がり、皮膚が裂け始める。


「……やっぱり、私しか……倒せなかっただろ……」


ヒルダが血を吐きながら、カイに笑いかけた。

そのまま意識が途切れる。


カイは咄嗟に彼女を抱き止めた。


「先生ッ! しっかりしてくれ! くそっ……!」


すぐにグリフォンを呼び、ヒルダを抱えたまま急降下。

だが、到着を待たずに飛び降りる。


「マルギレットッ!! 回復をッ!!」


マルギレットはすでに構えていた。


「分かっておる。今、癒してやるぞ」


白銀の光がヒルダを包む。


その時だった。


周囲が急に影に包まれた。


上空で、ドレイアが方向を失い、低空で旋回を始めていた。

その翼で森の樹々をなぎ倒しながら、フラフラと――


「来るぞ……!」


カイが剣を構える。


「マルギレット! ヒルダ先生を頼む!!」


カイの背中が、二人の前に立ちはだかる。

構えたポチの刃に、最後の魔素を込める。


迫る巨鳥。


マルギレットが目をつむる。


だが――


次の瞬間、ドレイアの身体から、魔素が風に散るように抜けはじめた。


「……え?」


その巨大な身体が徐々に透け、空気に溶けていく。


黒い羽毛が塵となり、最後には骨も肉も、跡形もなく消えた。


「た、助かった……のか……?」


マルギレットが呟く。


空気が静まる中、カイの髪がふわりと揺れた。


──ドレイアの消滅。それは、遠く雪山の洞窟で、グレーンがゼオの術を絶ったことで起きた連鎖反応だった。


水晶を失ったゼオの術式は崩壊し、

糸の切れた操り人形のように、魔物たちは次々と魔素の粒となって消えていった。


地上の戦場でも――


「……全部、消えた……?」


ミーアが周囲を見渡し、息を呑んだ。


マリが頷く。


「ほんとに……いない……」


キースが剣を下ろして叫ぶ。


「終わったのか!? これで……」


カークが疲れ切った笑みを浮かべる。


「勝った……のですな……」


その瞬間、風が止まり、

火に包まれていた森に、ようやく静寂が戻ってきた。


激戦は終わった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ