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171.陥落

朝日が昇りきる頃、激戦は頂点を迎えていた。


四大魔女の魔法が次々と炸裂し、戦場の空を染める。

ヒルダの黒炎が敵の前線を焼き尽くし、マチルダの地を割る魔法がオークの大群を飲み込んだ。

オリビアの緑魔法が巨大な蔦を生み、敵兵を次々に吊るし上げ、マルギレットの光魔法が音もなく敵を消滅させていく。


その間を縫うように、マリとルカ、ミーアの放った弓矢が空を切り、敵兵の隙間を縫って命中する。


一方、城の外では、カイ、カーク、キースが血に染まりながら剣を振るっていた。


「っはぁ……! 倒しても、倒しても……キリがない……!」

カイが汗と血にまみれた顔をしかめる。

目の前に立ちはだかったオークを一閃し、その場で体を回転させて次の敵をなぎ払う。


剣を振る手に感覚がなくなり始めていた。

布で剣と手を縛り付け、握力が抜けても落ちないように工夫する。


カークが息を荒くしながら叫んだ。

「この数……まるで無限に湧いてくるみたいだ……っ!」


キースは無言で斬り続けていたが、顔に苦悶が浮かんでいた。

それでも、足を止めることはなかった。


カイはクロを召喚し、地上での戦闘をサポートさせる。グリフォンも空から旋回しながら援護してくれていた。

空と地、二重の布陣。それでもなお、敵の勢いは止まらない。


夕方になるころ、ようやく第二師団との戦いが終息に向かった。

ドレイアの墜落によって第二師団の一部は壊滅状態にあったことが幸いしたのだ。


川の向こうには、第三師団が布陣を整えつつある。まだ動きは見せていなかった。


塔からヒルダが降りてきて、疲労困憊の三人に声をかける。

「今日はここまでのようだ……明日に備えて休むがよい」


カイが剣を地面に突き立てて座り込んだ。

「……やっと、休める……一日中剣振るってたら、腕がもげそうだ……」


キースが苦笑する。

「もう、腕じゃなくて本能で剣振ってた気がするぜ……」


塔に戻ると、マリとルカが食事の準備をしてくれていた。

香ばしい匂いが鼻をくすぐり、空腹を思い出させる。


オリビアが回復魔法で疲弊した体を癒してくれる。

光の波動が優しく身体を包み込み、傷がふさがっていく。だが、心の疲労は簡単には取れなかった。


「あと一師団……それさえ倒せば……」

カイがポツリと呟いた。


一同は交代で見張りを立てながら、わずかな眠りについた。


そして――


朝日が昇り始めたころ。


聞き覚えのある、そして思い出したくもない音が城を包んだ。


――ドォ……ドォ……バサッ……バサッ……


羽音だった。重く、低く、空気を震わせる羽ばたき。


塔の先端に登ったカイが、空を見上げる。


「……まさか……」


その視線の先、黒い影が再び空を裂いていた。


そこにいたのは、かつて墜としたはずの巨鳥――ドレイアだった。


「嘘……だろ……」


だがその姿は異様だった。


首が、ない。

首がもげたまま、巨鳥は飛んでいた。


ヒルダが階段を駆け上がり、カイの隣で呟いた。

「……あれは……死者を復活させる魔法……!」


カイが声を荒げる。

「蘇生魔法!? 存在しないはずじゃ……!」


「蘇生ではない、あれは死んでいる。死体を、魔法で操っているのじゃ。まるで人形のように……」


カイの頭に浮かんだ名前。

「ノクルスか!?」


ヒルダが頷いた。

「おそらく、あれを操っているのはノクルスじゃ……」


ドレイアの背に乗っていた影――それは紛れもなくノクルスだった。


「くそ……あいつさえ倒せれば……でも、俺じゃ……」


沈黙する一同。


するとドレイアが方向転換し、再び城へと向かってきた。

その巨大な足には、岩山ほどもある岩が握られていた。


キースが驚愕の声をあげる。

「おいおい、まさか……!」


ヒルダが叫んだ。

「全員退避! 今すぐ下へ降りろ!!」


一同は我先にと塔を駆け下り、地下階層へと逃げ込む。


その瞬間――


ドレイアが放った巨大な岩が塔に直撃。

轟音と共に塔が崩れ、巻き込まれるように城も崩壊した。


ヒルダが怒声をあげる。

「くそっ!!」


外に出た一同が、振り返る。


そこには、瓦礫と灰塵に変わったかつての城が、無惨に崩れていた。


「……城が……」


ヒルダが静かに告げる。

「仕方ない……エルフの森へ入るぞ!」


カイたちは、残されたわずかな希望を胸に、再び走り出した。


目的地は――幻と呼ばれたエルフの森。

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