17.ギルド登録
しかし、無罪放免になってよかった、よかった。
さて、ギルドで冒険者登録だ。異世界転生と言えばギルドだよね!
受付には、眩しいほどの笑顔を振りまく美少女が立っていた。
「初めまして!ギルドへようこそ!私はカタリーナと申します!」
張りのある声に、緑の髪と瞳が印象的な彼女は、眼鏡越しでもわかるほどの快活な目をしていた。髪は高くお団子に結われ、知的かつ可愛らしい印象を与える。
(メガネ美少女!しかも元気系!?この異世界、わかってるじゃないか……)
「冒険者登録をお願いします!」
「初めての方ですね、それでは別室にお願い致します。」
彼女に案内されたのは、薄暗い石造りの部屋。中央には、宙に浮かぶ大きな水晶球。その中には、どす黒いモヤがぐるぐると渦を巻いていた。
(おお!これに手をかざして、規格外の能力で爆発四散するやつだ!漫画でよく見るやつだ!)
すでにワクワクが止まらない。カイは胸を高鳴らせながら、水晶に向かう。
「それでは、こちらに必要事項をご記入の上、水晶に手をかざしてください」
「よし、来い……割れてみせろや!水晶球!!!!」
カイが勢いよく両手をかざすと、水晶球がピタリと静止し、ひときわ強くモヤを渦巻かせたかと思うと、
ゴドンッ!!!
音を立てて地面に落下し、ガタガタと震えながらヒビが走った。
「え?落ちた!?割れ……」
「わ、割れました!?」
カタリーナの声が一オクターブ跳ねた。水晶の表面に浮かんだモヤが、急激に文字に変わっていく。
「冒険者カイ、ランクE……潜在魔素量、な、なんと、70,000!?……力量……12……あ、あれ……?」
水晶球のヒビがさらに広がり、文字は途中で消えたまま、ぼとりと音を立てて完全に砕け散った。
「……うわ……あの……球、砕けたんですけど……俺、なにかやっちゃいました?」
「す、すごいです!魔素量が、70,000ですって!?初めて見ました!」
「え?それって、多いの?」
「はい!普通の魔法使いなら、300程度が標準なんです!それなのに……!」
(300?え、桁が二つ違う……。ってことは、まさか、俺……)
「ただ、力量は……12ですね。ふつうの人でも30くらいはありますので……」
「あっ、やっぱりポンコツ寄りなんだ、俺……」
がっくりと肩を落とすカイ。一方で、カタリーナの鼻息はますます荒くなっていた。
「でも、魔素量がこれほどとは……魔術師適性が高いのでは!?」
「いやいや、俺、魔法ぜんぜん使えないんだよ。ほら、プチファイア……」
指先に、ちょこんとピンポン玉サイズの火球が現れる。
「……っ!!」
(な、なんて大きなプチファイア!これはもう、ほとんどミニファイア級……!?)
「こんなもんですよ。あとは何しても出ないし……」
カイは、ため息とともに火球を「フッ」と息で吹き消した。
「…………っっっ!!」
(消した!?あのサイズの火球を、息で!?信じられない……)
カタリーナの目は完全に星になっていたが、カイにはただの沈黙にしか見えていない。
「……俺はあきらめて、剣術で頑張ることにします。とりあえず、登録よろしく……」
「は、はいっ!登録は本日中に完了いたします!明日には冒険者カードをお渡しできますので!」
カイは軽く会釈して受付を後にした。
――その夜。
予選落ちしたあと、例のボッタクリ宿で一泊していた。
「ちょっと聞いてよ、クロ~……」
「キャン……(ねむい……)」
毛布の上で丸くなるクロに向かって、カイは酒場でのことからギルド登録まで、延々と愚痴を語り続けた。
「はぁ~、それにしても……俺、ほんとに冒険者でやっていけるのかなぁ……」
クロの尻尾だけが、ゆらりと一度だけ揺れた。