表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/219

162.苦戦

ノクルスは漆黒のマントを翻し、巨鳥ドレイアの背に再び乗り込むと、重低音の羽ばたきとともに大空へと舞い上がった。その姿が夕焼けの空に滲むように遠ざかる中、ヒルダたちの胸には、またひとつ厄災が戻ってきた現実が重くのしかかった。


「また……最低災厄が……」

ルカがぽつりと呟く。その声には、戦場の喧騒とは裏腹に、静かな絶望がにじんでいた。


すでに足元では、師団の兵たちが城壁をよじ登り始めていた。

キースとカークは、剣を構え、無言のまま迫りくる敵兵に立ち向かう。


「くたばれええええっ!!」

キースの剣が閃光のように走り、オーク兵の首をはね、血飛沫が城壁を赤く染める。

「この城壁に上がってくるな!!」

カークが吠え、斬り伏せた兵士の体を蹴り落とす。

それでも次から次へと、死を恐れぬ兵士たちが這い上がってくる。


「どこから湧いてくるんだ……!」

キースが叫ぶ。


マリとルカも、城壁の縁に立ち、必死に短刀で登ってくる敵兵の手を斬り落とし、矢をつがえては撃ち落とした。


「こんなに……こんなに多いなんて……」

ルカが息を荒げる。

「でもやるしかないでしょ!ここで止めなきゃ、次は城がやられる!」

マリが叫び返した。


後方では、ミーアとオリビアが詠唱を重ねながら、遠距離から飛んでくる矢を魔法で打ち落としていた。

「矢まで飛んでくるなんて……!」

オリビアの額には大粒の汗が流れ、肩が小刻みに震えている。


「だめだ……数が……!」

ミーアの声が震える。


そんな中、再び空から不吉な影が差す。

ドレイアが高度を徐々に下げてきていたのだ。

その影が、地上の混乱に追い討ちをかけるように、城壁を覆い始めていた。


「くっ……上下からじゃねぇか……冗談だろ……」

キースが奥歯を噛みしめた。


その時だった。

「来させるかえ!!」

マルギレットが叫び、杖を天に掲げる。

「ラディアンス・フラッシュ!!」

まばゆい光が杖から放たれ、ドレイアの前方に閃光を走らせる。


ドレイアが威嚇に一度たじろぎ、再び空中で旋回を始める。


「いまだ!撤退じゃ!この城壁はもうもたん!!」

マルギレットの一喝が、城壁に響き渡る。


「くっ……!了解!」

ヒルダが後ろを振り返り、すぐさま撤退の準備を命じる。


「行こう!ミーア、ルカ!」

マリが叫ぶ。


「でも……敵が……!」

ミーアがためらう。

「いいから!次の拠点で立て直すしかないのよ!」


ミーアとオリビアが、最後の一撃として、川に押し寄せる敵兵へ水の奔流を叩きつけた。

「トレント・スラッシュ!!!」

大きな水柱が敵兵を再び川へと押し戻す。

その隙に、みな撤退を開始した。


一方で、ヒルダは最後の魔力を振り絞り、天に巨大な岩塊を召喚する。

「この程度……カイのようにはいかんが……!」

それを師団の中央へと振り下ろした。

轟音とともに、大地が震え、兵士たちの悲鳴が木霊する。


「これ少しだけでも……時間は稼げた……!」


息を荒げながらヒルダが呟いた。


その横で、オルガが振り返る。

「皆、城へ急げ!もう時間がない!」


夕闇のなか、逃げるようにして城壁を離れる面々。

後方には、なおも湧き続ける師団と、再び旋回を終えてこちらへ向かってくるドレイアの影があった。


「……次で、なんとかしないと………」

ヒルダが呟く。

その横顔は、燃え尽きた戦士のようだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ