16.勘違い自警団
俺にはまだ早かったんだ……そう、早すぎたんだ。
そう思うしかないじゃないか。
だって、予選の予選で落ちるってどういうこと!?
いや、正確にはその前に失格だ。
準備運動してただけなのに、なぜか舞台が真っ二つになってた。
これ、どう説明したらいいんだろう。
ヒルダやミーアにどう顔を合わせろって言うんだ……。
だから、気づけば俺は酒場にいた。ジョッキ片手に自暴自棄モード全開だ。
体は16歳くらい。見た目も声もまだ少年。でも中身は45歳の元サラリーマン。
――つまり、飲酒も問題なし!自己判断でヨシ!
「マスター、もう一杯……苦いの……」
「……あの、自警団の方々が……」
背後から、店主の申し訳なさそうな声。
「……じけいだん?」
扉の方を見ると、紺色のマントを羽織った一団がズラリと並んでいた。
うわ、ヤバい……あれ完全に警察じゃん。
俺、なにも悪いことしてないけど、やっぱり警察って聞くだけで心臓に悪い。
(お酒か……?未成年飲酒で……連行か……?)
「すみません! いちびって酒飲んじゃいましたッ!!」
すると、一番大柄な男――2メートル越えの金髪・金髭の男が真顔で首を振った。
「いや、そのことではない。君、大会に出場していただろう?」
「え、お酒はセーフなの?」
「この国では十五を越えれば飲酒も喫煙も自由だ」
「マジで!?たばこもあるんだこの世界!」
「……違う、そこじゃない。大会だ。君、舞台を壊しただろう」
「うっ……あれ、壊したっていうか……事故で……」
「そう! あの白曜石製の舞台を真っ二つに切った!! 君にぜひ自警団に来てほしい!!」
(……ん?)
「わ、分かりました。素直に……お縄になります……」
「同行をお願いする!」
(やっぱ逮捕じゃん!!)
着いた先は、石造りの地味な建物。交番的なやつ?
中には十人ほどの自警団員がいて、全員がなぜか敬礼してきた。
(やっぱこれ、確実に俺、有罪……!)
「私はこのエステン自警団の副団長、カーク・オルドレッドだ!」
カークという男は、声が爆音だった。
ドーンとした体格、髪も髭も金、瞳は真っ赤。
しかも、見た目は俺の父親よりも年上に見えるのに、話すと二十代っぽい。なんかいろいろ矛盾してる人だ。
「あなたのお名前は?」
(やばい、これは完全に取り調べだ)
「……俺、カイドウ・マモルです。こっちでは“カイ”と呼ばれてます」
「カイ殿か!その名、しかと覚えた!」
(何を!? 何が始まるの!?)
「カイ殿は、どこでその剣技を? まさか、流派を持つ剣豪に師事していたのか?」
「えーと、森です。北の森に5年前から住んでました……」
「北の……あの呪いの森!? まさか、五年も!?」
(え、あの森そんなヤバかったの!?)
「そんな者がいたとは……やはり、君は只者ではない!」
(なんでこうなる!?)
「では実力を確かめよう。手枷をした状態で模擬戦だ」
「……え? それ必要?」
「必要だ!君の実力は未知数だからな!」
(俺の実力を制限するってことか……あ、違う。やっぱり俺、囚人扱いか……)
「手枷つけるの?うーん、ま、雰囲気出るし……」
「よかろう! では庭に出よう!」
裏庭に連れて行かれた俺は、
なぜか手枷をつけられ、木剣を渡された。
その前に立っていたのは、大男。
目つきが悪い。筋肉ムキムキ。いかにも強そう。
「この者は国家転覆を企てた罪人。Aランク冒険者に匹敵する剣士だ。全力でかかってくる」
(え、俺の方が危ない立場!?)
「手枷……外して……?」「始めッッ!!」
大男の大剣が、真上から振り下ろされる!
「うおっ!? 危なっ!」
反射的に、俺の体が横に跳んだ。
ギリギリでかわした、というより、なんとなく動いたら避けられた。
(これ、ほんとに俺がやってるのか?)
「ちょこまかと……これならどうだ! 稲妻の剣!!」
剣が青白く光る。次の瞬間――
「サンダーボルト!!」
ピシャッ!!
直撃した。……が。
「あ、これ……肩こりに効く……」
「なに!?」
「腰にももう一発お願いします!!」
「ぐぬぬぬぬ!! くらえぇぇ!!」
バリバリバリッ!!
数発食らって、俺は――
「うおぉぉ、スッキリィィ!!」
肩と腰が軽い!!
「お前……化け物か……」
「いや、マッサージ師かと……」
大男がふらつきながら膝をついた。
「じゃあ、俺も一撃だけ……」
木剣を構えた瞬間――
「そこまでだッ!!」
大声が響いた。
カークが大男の前に立つ。
「これ以上やれば、死人が出る……死刑囚と言ったが、実はただの冒険者だ。冗談だったのだ」
「え? じゃあ俺、なんで戦ってたの?」
「すまない、我々では君の実力を図りきれなかった……もはや、君を縛る法律など存在しない……」
(なんかよくわからんけど、無罪放免らしい)
「ところで、カイ殿。冒険者ランクは?」
「冒険者ランク? 何それ? 美味しいの?」
「登録すればランクが上がり、クエストも受けられるようになる。ギルドへ行くべきだ」
「そうなんだ。行ってみます」
(俺、ほんとにこの世界のこと知らなすぎる……)
カイがさったあとの詰め所にて
「副団長、あの少年……本当に人間ですかね?」
「白曜石を木剣で真っ二つ……肩こりにサンダーボルト……しかも手枷つき……」
「ていうか、一回も攻撃してませんよね?」
「……あの落ち着き、まさに達人……」
「違うと思います」
「俺たちは、もしかしたら……とんでもない逸材を目撃してしまったのかもしれん……」
「いや、マジでただの一般人かもしれませんよ……?」