表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/219

159.ノクルス

ノクルスの剣が振り下ろされるたび、地が唸った。

黒い稲妻のように走るその斬撃は、キースを確実に押し込んでいた。


「……くっ、こいつ……重すぎる……!」


キースの両足が地を滑り、剣が震える。

ノクルスの一撃一撃が、剣ごと魂を叩き潰すような重みを持っていた。


その時、影のように間合いを詰めた者がいた――カークだ。


「ぬおおおおっ!!!」

カークが低く唸りながら、剣を構えて突進する。


キースがそれに気付き、ノクルスの意識を引くようにわざと大きく剣を振りかぶった。


「どりゃあああっ!!!」

剣がノクルスの刃とぶつかる瞬間――

「今だ、カーク!!」

横合いから、鋭い斬撃が放たれた。


「せいっ!!!」

カークの剣が、ノクルスの黒衣を裂いた――かに見えた、その瞬間。


「……!!?」


刃が止まった。ノクルスの左手には、重厚な魔力を帯びた黒の杖があった。


「左手……杖だと!?」


ノクルスは、右手に剣、左手に杖を携える異形の二刀流。

その構えは、まるで人と魔が融合した戦闘の化身のようだった。


「……どうなってんだ、この男……!」


カークとキースが同時に跳び退く。

だが、ノクルスの黒い瞳には、何の感情も映っていなかった。

ただ、敵を潰す、それだけの執念が宿っている。


「キース! カーク!」

オリビアが叫ぶ。


彼女は両手を広げ、詠唱を走らせた。


「《オーグメント・ブレイブ》《ガーディアン・シェル》《フェザーステップ》《マナブースト》!」


補助魔法が次々に発動し、眩い光となって二人を包む。


「うおおおっ……!」

「ぬおぉぉぉっ!!」


全身に力がみなぎる。筋肉が爆ぜ、視界が冴え、身体が軽くなる。


「おお!こいつは……すげーや!」

「かたじけない、オリビア殿!」


補助魔法で強化された二人の剣速は、目にも留まらぬほど鋭さを増していた。

金属の音が雨のように鳴り、火花が四方に散る。


だが――ノクルスは、すべての攻撃を正確に受け流す。

背後からの一撃すら、振り向かずに杖で防いだ。


「こいつ……本当にただの魔物かよ!」

キースが唸る。


「二人がかりでこれか……」

カークの額にも、滝のような汗が流れていた。


その様子を、後方で見守っていたマリとルカは、言葉を失っていた。


「……剣が……見えない……」

「……音しか聞こえない……」


それほどまでに、戦いは常軌を逸していた。


そして――


「師団が来たぞ!!!」

マチルダの悲鳴に似た叫びが、全員の胸を突き刺す。


東の地平線が揺れていた。

最初は霞かと思われたそれは、巨大な師団が巻き上げる砂煙だった。

その数……何千、いや、万を超えていた。


(なんだ……この数……)

マリが足を震わせ、視線を川の向こうに移す。


敵軍はすでに川の手前で停止していた。

まるで、こちらの反応をじっと観察するかのように――動かない。


不気味な静寂が、戦場全体を支配していた。


「これが……師団なの……なんて数……」

マリが声を震わせる。


「む、無理よ……あんなの……勝てるわけ……」

ルカが小さく呟いた瞬間だった。


「――まだ戦いは始まっておらぬ!!!」

ヒルダの叱咤が、雷のように全軍に響いた。


「下を向くな!うろたえるな!これからなのじゃ!!」

マルギレットも続く。


その言葉に、皆の目が開かれ、背筋が伸びていく。


キースとカークは、ノクルスの剣と杖を相手に、今なお死闘を続けていた。


地面が割れ、剣気が空を裂き、そこに魔力の爆風が絡む。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ