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15.予備予選

「今大会の予備予選参加者数を発表します!」


 会場に魔術拡声器のような装置から、女性の声が響いた。会場全体が一瞬静まり、そしてその声にどよめく。


「参加者は165名!予選からの参加者は25名!予備予選を通過できるのは……わずか5名です!」


「ほー、今回は多いなぁ……」


 あちこちでざわつきと溜息が漏れた。さすがにこの人数の中から5人だけって、無理ゲー感がすごい。

 ていうか、140人落ちるってほとんど敗者じゃん。


 どうやって絞るんだろう……。と、考えていた矢先。


「おい!田舎者!無視すんじゃねーよ、この平民が!」


 ……またか。


 声の主は、さっきぶつかったあの青いフルアーマーの男だった。


「おい!聞いてんのか!……おい!……無視するなっての!」


 俺は目を閉じて深呼吸し、全力でスルーする。構ってはいけない。関わったら最後だ。


「……あのー、無視しないでください!」


 さすがに声が涙目だったので、チラリと見やると、やっぱり本当に泣きそうだった。周囲の出場者たちがクスクスと肩を震わせて笑いを堪えている。


(……めんどくさいけど、聞いてやるか)


 話を聞くと、どうやら今回の予備予選は「バトルロワイヤル形式」で行われるらしい。

 つまり140人全員が同時に戦い、最後の4人になるまで戦い続ける。そしてもう1人は特別審査枠だとか。


「で?それで俺に何の用だよ?」


「ぼ、ぼ、僕と……組んでくれませんか?」


 ――想像以上に低姿勢。


 この形式では、4人でパーティを組み、一緒に戦い、有利に進めるのがベターらしい。

 どうやらこの男、自信満々に見えてパーティメンバーが一人も集まらなかったらしい。高飛車すぎて誰も相手にしなかったようだ。

 


「……悪いけど、俺は一人でやるつもりだ」


「うぅ……そんな……」


 肩を落とし、涙目で去っていく姿は、少しだけ哀れだったが……仕方ない。

 それに俺なんかよりも、もっと強そうな人たちが他にいっぱいいる。


 参加者たちはそれぞれパーティを組み終え、各々ウォーミングアップを始めていた。

 俺はというと、相変わらずぼっちだった。


「……よし、俺も身体を動かすか」


 木剣を握り、ゆっくりと身体を回す。関節がポキポキと心地よい音を立てた。


 周囲にはゴツいアーマーを着た戦士たちや、煌びやかな杖を持った魔法使いたち、スピード重視の軽装のシーフっぽい奴らもいた。


 その中で、俺は特製木剣にジャージもどきみたいな軽装。

 明らかに浮いてる。いや、なんなら見た目だけなら完全にモブだ。


「……はずいな」


 そう思いつつも、ストレッチを始めた。


「邪魔だ、坊主!!」


 いきなり背後から怒鳴り声が飛び、直後――ドン!と蹴飛ばされた。


「うおっ……!?」


 反射的に身を捻った俺のヒザが、蹴ってきた相手の足に当たった。


 ゴゴッ……ベキィィ!!


「……うぎゃあああああああ!!」


 大男が地面にのたうち回っている。

 真っ赤なフルアーマーが砂に転がり、足元を見ると――脚の甲冑が砕け、脚が変な方向に曲がっていた。


(えっ、え? 俺、何した??)


「ぼ、坊主っ!!なにしやがったぁぁぁ!!」


「な、なにって、ストレッチ……」


「なんだそれ!?防御魔法の一種か!?」


「いや、ただの準備運動……」


 まじで。今のヒザ、全然力入れてなかったんだけど。


 (これ、俺が強いのか? あいつが弱いのか?)


 なんとなく後者のような気もするが、少なくともこの世界の人間の身体って、ちょっと脆い気がする。


(ああ……やばい、俺、力加減がわからない)


 とりあえず、トラブルを避けるために会場の端っこで静かにストレッチを再開した。


「おい、そこの坊主!」


 ……またかよ。


 振り向くと、ローブ姿の男が険しい顔をしていた。


「そこに立たれると、魔法の練習ができないぞ!」


「あっ、す、すみません!」


 ふと前を見ると、魔法の的らしき標的が並んでいた。あぶねぇ……もう少しで俺が焼き鳥にされるとこだった。


「空を震わせる大地の炎よ、今我に力を……ファイアボール!」


 ローブの男が詠唱を終えると、手のひらから火球が放たれ、的を一撃で貫いた。


「うぉ……!魔法だ、すっげぇ……!」


 こういうのだよ、魔法ってのは。ファイアボールとか、詠唱とか。

 ヒルダの魔法は「次元の裂け目」とか「宇宙の胃袋を捧げよ」とか、意味わからんし、怖すぎて勉強にならない。


(くそー、魔法使いてぇ……)


 剣を握る手に力が入った。


(魔法が使えないなら、せめて……)


 ヤケクソ気味に木剣をブンブン振り回す。


「うおおおおぉぉおお!!!!魔法使わせろぉぉぉ!!!」


 ドォンッ!!!!!!!


「ぐぁぁああああ!!!!」


「うわああああああ!!!!」


「舞台があああああああ!!!」


 一瞬にして会場が砂嵐に包まれ、悲鳴が響き渡った。


 何が起きたのか分からず、周囲を見回す。


 砂煙が徐々に晴れていくと――


 目の前にあった石の舞台が、真っ二つに裂けていた。


 ……縦に。完全に両断。


(えっ、ええええ!?)


 剣を振ってたのって、たしか、ただの木剣だよな!? 


 ……え、俺、やっちゃった?


「君!君!困るよ!舞台を壊されちゃ!!」


 怒りに満ちた運営のスタッフらしき男が飛んできた。


「えっ!? 俺がやったんですか!? 違います、たぶん風とか、えーと、揺れとか!」


「いや、君以外にいないでしょ!ブンブン剣振ってたの!」


「ち、違うんですよぉ……たぶん……」


「失格だ!!!!!」


「うそぉぉぉおおぉぉぉおおおお!!!!」


 こうして俺は、予備予選すら始まる前に、なぜか失格になったのであった。


 何もしてないのに。いや、ちょっと剣振っただけなのに。

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