表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/219

143.影の番人

森の小屋へ戻るべく、カイたちは、夜のベンゲル郊外に広がる草原を歩いていた。

月明かりが草の波を照らし、風がさらさらと音を立てて吹き抜けていく。


カイがぽつりとつぶやく。

「……本当に、グレーンを信用していいものか……」


前を歩いていたマリが、振り返って言った。

「今はもう、グレーン王子を信じるしかないわよ……」


ルカとミーアも、静かに頷く。


カイは腕を組み、少し考え込むような顔を見せた。

「でもな……なんか腑に落ちないんだよ。あまりにも素直すぎるっていうか……。まるで、俺たちを丸め込むような答えを言ってるみたいだった」


マリとルカは、グレーン王子の言動について、心当たりがある。

「確かに普段の王子なら、もっとプライドが高くて皮肉屋なところがあるのに……」と、マリ。

「でも、民の声に耳を傾けるあの人も、私たちは知ってるわ」と、ルカが続けた。


複雑な感情が胸を満たす。希望と疑念、両方が心に残っていた。


しばらく無言で歩いていたカイが、急に立ち止まり、あっけらかんと言った。

「ま、でももう動き出しちゃったしな!グレーンを信用しよう!うん、そうしよう!」


いきなりの方向転換に、マリ・ルカ・ミーアの三人は顔を見合わせ、ぽかんとする。


「えぇぇ……」と、ミーアが素っ頓狂な声を上げた。


ミーアは少し不安そうに続ける。

「でもさ、もし……もしだよ? グレーン王子が王様に話したことで、逆に怒られて……

 王様が、すごく悪い人だったら……王子、大丈夫かな……?」


その一言に、みんなが沈黙する。

確かに、その可能性もある。いや、むしろその可能性の方が高い気さえした。


カイが真剣な顔でうなずき、言った。

「……それなら、急いで帰って、フェイ……じゃなかった、オルガにお願いして、従魔か何かで王子を見張ってもらおう…………」


その瞬間、カイの表情がぱっと明るくなり、軽く拳を打ち鳴らした。

「あっ、そうだ!もってこいの奴がいるじゃん!」


言うが早いか、彼は歩みを止め、静かに魔素を練り始める。

「……デュラハンのヴィーブル、来てくれ」


地面に紋章のような魔法陣が浮かび上がり、重厚な馬にまたがった、首のない騎士が音もなく現れた。

その姿に、ルカとマリが反射的に一歩引いた。


「主よ……ご無沙汰しております……おおよその事情は把握しております。

 わたくしめが、グレーン殿を影より守ればよろしいのですね……?」


カイが頷く。

「ああ、そうだ。お願いできるか?」


ヴィーブルは、胸に手を当てて軽く頭を下げた。

「お安い御用で……」

その言葉を残し、影の中へとゆっくりと沈んでいき、姿を消した。


その一部始終を見ていたマリが、ため息をつきながら言った。

「久しぶりに見たけど……やっぱり不気味ね……」


ルカも肩をすくめる。

「うん……夜中にあれがいきなり現れたら、普通に悲鳴上げるわよ」


カイは笑顔で応じた。

「大丈夫だって。ヴィーブルはああ見えて、相当強いんだ。騎士道精神もあるし、無駄な暴力は振るわないよ」


マリがちょっといたずらっぽく言う。

「でもさ、グレーン王子の前に、いきなりあのデュラハンが現れたら……腰抜かすわね、絶対」


「あははは!」

四人は草原の中で笑い合った。

緊張と疑念に包まれていた空気が、少しだけほぐれた気がした。


そうして、グリフォンを呼び出したカイたちは、再びその背に乗り込み、北の森――エステンの小屋へと帰路についた。


空はまだ暗く、東の空にわずかな光の帯が現れ始めていた。


そして、夜空よりもっと暗い顔をしたマリがいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ