表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/219

139.衝撃

 カイの報告が終わると同時に、静寂が落ちた。

 マリとルカは椅子の端で肩を寄せ合い、蒼ざめた顔のまま硬直していた。やがて唇を震わせ、溢れた涙が頬をつたうと――


「うそ……私たちの先祖が侵略者……? そんなの、聞いたことない……!」

「どうして……どうして誰も教えてくれなかったの……!」 


 嗚咽まじりの声が重なり、二人は堪え切れずテーブルに突っ伏した。

 ルークとキースは拳を握りしめたまま無言で立ち尽くす。大柄なルークの肩が、小刻みに震えていた。


「私は何を守ろうとしていたのだ……」


 呟きというには重すぎる自責の声。カイはそっとルークの背に手を当てた。


「まだ、それが真相だと確定していない」

 カイは一人ひとりの顔を見渡し、静かに、しかし力を込めて続ける。

「だが、もし事実だとしても――今、俺らが出来ることは必ずある。各々が考えてほしい。俺は戦いになった時、みんなを守れるようにもっと強くなる!」


 歯を食いしばっていたカークがこぶしを突き出す。

「……私もだ。守るべきもののために、剣を振るう覚悟ならとっくに出来てる」


 キースも短く頷き、鋭い黄金の瞳に闘志を宿した。


 涙を拭ったマリが、赤くなった目でまっすぐカイを見返す。

「私たちも強くなる! この大陸を、みんなを守るために!」

 隣のルカも拳を胸元で握り、はっきりと首を縦に振った。


 沈んでいた空気を破るように、オルガが朗らかに手を打つ。

「私は四大魔女の一人、マチルダを探しに行くよ。人海戦術は得意分野だから任せといて!」


 ヒルダとオリビアが顔を見合わせ、同時に頷いた。

「私たちは、カイが持ち帰った古代文書を徹底的に解析するのね」

「隠された呪式や対抗策、あらゆる情報をぜんぶ洗い出してみせる」


 ミーアは慌てて両手を挙げる。

「ぼ、僕ももっと強くなる! ヒルダ母さんみたいに!」


 こうして役割が定まり、一同の視線に迷いは消えた。

 カイは胸の奥に熱いものがこみ上げるのを感じる――この面子ならきっと道を切り拓ける、と。




 それから時は経った。



 朝も夜も焚き火の明かりが絶えない小屋では、剣の風切り音と詠唱の響きが交互に鳴り続けた。

 キースとカークが打ち合うたび土煙が舞い、ヒルダ・オルガ・オリビアが織り成す多重魔法陣が夜空に瞬き、マリとルカは息を切らしながら魔素の制御を繰り返す。


「さすがだ……」

 カイは聖剣ポチの柄を握り直しながら、思わずつぶやいた。講師陣に一切の不安はない。

「俺も負けてられない!」


 

そんなある日。

 ヒルダとオルガは夜更けの窓辺で、古書の山を前に額を寄せ合っていた。燭台の炎が古代文字を照らし、何度目かの夜明けが近づいた頃――


 遠方から一羽の小さな鳥が、音もなく滑空してくる。白い羽を持つ伝令鳥だ。

 鳥は小屋の柵に止まり、足の細い筒をカタリと鳴らした。


「クルドからだ……!」


 ヒルダが小声で告げて筒を外す。中には白紙の羊皮紙。

 ヒルダが魔素を注ぐとインクが滲み、玻璃色の文字が浮かびあがった。


 そこに書かれていたのは、フォースドラゴン確保、名前はリュシア。

 そして、クルドとティリスが導き出した解答が書かれていた。

 文章の末尾には、クルドとティリスの連名が添えられている。

 ヒルダは黙考し、やがて深く息を吐いた。


「……あとはこちらの動きをどう絞るか、か」


 ヒルダの指先が震えているのに気づき、カイがそばへ立つ。

「クルド先生が言ってました。『早まるな』って」

 ヒルダはカイの瞳を見つめ、静かに頷いた。




 翌朝。

 再度事実を伝え聞いたマリとルカは、それでも涙を見せなかった。

 胸の奥で炎が灯ったように、二人は剣と杖を握る手にさらに力を込める。


「この世界を守るために戦いましょう!」

 マリの言葉が小屋の梁に反響すると、仲間たちは一斉に腰を上げた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ