138.帰還
リュシアからの断片情報から、仮の答えを導き出したクルドたち。
時は少し戻り、レクサイドでクルドと別れたカイ。
カイはグリフォンに乗り、音速に近いスピードでエステンへと向かっていた。
レクサイドで得た情報を、いち早く伝えたかった。スマホ型の魔導具を使えば伝えられはしたが――直接会って話したかった。
なにより、みんなに会いたかった。
カイは静かに、グリフォンの背を撫でる。
「頼むよ、グリフォン! 急いでくれ」
グリフォンは甲高く鳴いて応え、レクサイドの砂漠地帯を抜け、徐々に緑が現れ始めた。
このあたりから魔素の濃度が上がる。エステンは、もうすぐだ。
空は夜空に変わっていた。高空からは夕日の余韻が長く見え、上を見上げれば、星々が美しく輝いている。
グリフォンが旋回を始めた。魔の森に到着したのだ。
ゆっくりと高度を下げ、地上に向けて回転しながら、小屋の近くに着陸する。
小屋から飛び出してきたのは、マリだった。
それを見てカイが叫ぶ。
「マリ!」
それに気づいたマリも叫ぶ。
「カイ!」
体が勝手に動いていた。カイは走り出し、マリもまた走り出していた。
お互いの距離が一気に縮まり、力いっぱい抱きしめ合った。
「元気だった? マリ」
「もう、勝手に出て行って……心配するじゃないの!」
マリの声は涙混じりで、肩に触れる指が震えているのがわかる。
「ごめん、ごめん、今度はちゃんと話すから」
「今度!? 次は私もついていくからね!」
長く抱き合っていた二人に、後ろから声が飛ぶ。
「いつまで、そうやってるの?」
からかうように言うルカとカーク。
恥ずかしそうに離れるカイとマリ。
そこへヒルダの姿があった。
「久々だな、カイ……そして、そのグリフォンは何なのだ……」
ヒルダはグリフォンを指さすが、その指先はかすかに震えていた。
クルドが言っていたことは、こういうことだったのか。
「レクサイドで捕まえました」
「なんと!」
驚きに目を見開くヒルダ。珍しく動揺した顔だった。
「しばらくグリフォンを見せてくれ……」
ヒルダはグリフォンの周囲を回りながら、じっくりと観察していた。手で触れ、羽根の感触や、背中の鞍を確認している。
そんなヒルダを残し、カイは小屋へと足を運ぶ。
扉を開けると、懐かしい暖炉の熱と、見慣れた空気が流れてきた。
まず最初にカイに飛び込んできたのは、ミーアだった。
「お兄ちゃん! お帰り!」
「あぁ、ただいま」
次に声をかけてきたのはオリビアだった。
「帰ってくるのが遅いのね……」
「すみません、先生……」
さらに、初めて見るが、どこか見覚えのある人物が声をかけてきた。
「あら、カイ、帰ってきたのね」
それはフェイだったオルガ。顔立ちは少し違うが、青い髪と瞳で、すぐに察しがついた。
そして、テーブルの一番奥にいたのは、キース・イグナシオンだった。
一度戦ったことのある、ダブルSランクのソードマスター。まったく歯が立たなかった相手だった。
外から、マリ・ルカ・カークが戻ってくる。
「さぁ、疲れたでしょ。ゆっくり休みなよ」
そう言いながら、マリはカイをテーブルの席へと導いた。
「あのー、ヒルダ先生は?」
マリが困ったように眉を下げる。
「まだ、グリフォンを見てるわよ」
「あははは……」
カイが引きつった笑みを浮かべた。
しばらくして、ヒルダが戻ってきた。
それを見てカイが少し冗談めかして言う。
「ヒルダ先生、もう十分見ましたか?」
顔を赤くして、咳払いをしながら答えるヒルダ。
「なにを言ってる! 少し観察しただけだ!」
その言葉に、小屋の中はどっと笑いに包まれた。
カイは、やっと帰ってきたと実感した。
長いテーブルを囲む仲間たち。
その一人一人の顔を眺めながら、カイはふと感じる。
――この面子なら、戦争を止められるかもしれない。
確かな力と、信頼がそこにはあった。
カイは静かに口を開く。
「帰ってきて早々に申し訳ないけど、ここまで知り得た情報を話したいと思う」
その言葉に、全員が息をのんで耳を傾けた。
カイはマリやルカ、カーク、そしてキースたちは人間族なのだから
これから話すことにショックを受けるだろうと思ったが
離さない訳にはいかなかった。
そして、カイの話は、丁寧に順序良く、そして間違いがないように語りだした。
その話は、一時間にも及んだ。