137.クルドたちの解答
リュシアが目を覚ましてから、ひと月ほどが経った。
クルドとティリスは、彼女の話を少しずつ、慎重に聞き出していた。
話は断片的で、まるで壊れたパズルのようだった。
それでも、二人は慎重に情報を拾い集め、やがて一つの仮説へとたどり着いた。
フォースドラゴン――それがリュシアの正体。
なぜこの大陸にいたのかは不明だが、彼女は長い間ここで生活していたようだった。
彼女の役割は、スタンハイム王国の地下に存在するという、正体不明の魔法陣を守ること。
その魔法陣が何を封じ、何を守っているのか。
それは今もなお謎のままだった。
「リュシアは、その魔法陣を誰かに悪用されないように、ずっと見張ってたのね……」
ある日、この大陸に外の世界から大船団がやってきた。
その船から現れた人間族が、大陸に上陸し、魔法陣を見つけ出した。
彼らはその力を手に入れようとし、リュシアを排除しようと試みた。
だが、フォースドラゴンの力は圧倒的で、人間たちは手も足も出なかった。
「その時の人間族は、僕たちの想像以上に組織的だったようだよ……」
そして、しばらくの時が過ぎ、再び人間族が現れた。
今度は『勇者』と呼ばれる、異世界から転生された存在を伴って――
「その勇者って……ドラゴンを倒すために作られた存在だったのかもね」
勇者は“ドラゴンキラー”と呼ばれ、フォースドラゴンの魔素を無効化する特殊な力を持っていた。
リュシアは追い詰められ、力を削がれていく。
だが、戦いの最中、リュシアの高濃度魔素に充てられた勇者が突如暴走した。
その姿は、もはや人間とは呼べぬ“魔物”そのものだったという。
暴走した勇者に手を焼いた人間族は、勇者を討伐する羽目になった。
だが、同時に弱ったリュシアを逃がすわけにはいかなかった。
人間族の魔法使いたちはリュシアに強力な変身魔法を施し、人間の姿に変えてしまった。
「でも、それが逆に彼らの誤算だったのよね」
姿が変わっても、リュシアの力は衰えていなかった。
むしろ、魔素の制御ができなくなり、暴走の危険が高まった。
「リュシアはね、自分の魔素を鎮めるために……あのキナーク山のマグマ溜まりに、全魔素を流し込んだんだって」
静かにティリスが言った。
「それが、この大陸の魔素循環を守っていた……リュシアが寝ている間も」
クルドはうなずく。
「リュシアの力を、何かに使おうとしていたんだよ……魔法陣を奪い、その封印を解くために」
クルドは夜空を眺めた。
「謎はまだまだ残っている………」
その“何か”が何なのか、まだはっきりとはわからない。
けれど、人間族はその力を危険な目的に使おうとしている。
そして、転生した勇者はなぜドラゴンの力を抑えることが出来たのか
「この世界の均衡が崩れる前に、止めないといけないわ」
クルドが重々しく言う。
「でも、私たちにできるのはここまでだわ……あとはカイたちに託すしかない」
そして、ティリスが言う。
「そして、リュシアを守り続けること」
夜風に揺れるエルフの森の梢。
月の光が差し込む高台で、クルドは星空を見上げた。
「今ごろカイも、魔の森のどこかで夜空を見てるのかしら……」
そして、夜空にそっと語りかけた。
「……あとは、頼んだわよ。カイ」