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132/219

132.安全な空の旅をご提供します。

 空の旅は出だしこそ順調だった。魔導具に映る地図の光点は、海底神殿が眠る北の沖へ向かって一直線――。

 しかし快適だったのは、ほんの三十分ほど。


 クルドが目を覚ましたのである。


高所恐怖症再発

「…………ここ、高いっ!」

 瞳を開いた瞬間、眼下の雲海を認識したクルドは絶叫した。マントをばたつかせ、ティリスの胸倉をつかみ、泡を吹いて失神。──かと思えば数秒で覚醒して、また泣き叫ぶ。完全にパニックのループだった。


 ティリスは肩を落としながら「スリープ!」と再び睡眠魔法を唱えたが、

「効かないッ!?」

 今度は見事に弾かれてしまう。どうやら耐性がついたようだ。



 するとどうだ、乗騎のファルコンがふわりと高度を落とし始めた。


「あれ? ファルコンちゃん?」

 首筋に頬を寄せると、巨鳥は気持ちよさそうにまぶたを閉じている。

「……まさかスリープが君に命中してた!?」


 平常心を失ったティリスは、羽ばたきを失いかけた巨体を必死に揺さぶる。隣ではクルドが「高いーーっ!」と悲鳴を上げてティリスのマントを握り締めていた。


 失神と覚醒を繰り返す魔法大師と、空中で鳥を起こそうとする剣士。

 空中で繰り広げられる壮大なポンコツ劇場だったが──




 地表スレスレでファルコンが目を覚まし、翼を大きく一打ち。九死に一生を得た。

 その間にクルドは再び気絶。ようやく静かになった騒動を、ファルコンはぐったりとした様子で振り返り大きなため息をついた。





 日暮れどき、目的の海域へ到達。赤い夕日が水面を茜色に染めている。


「このあたりだね」

 ティリスは地図を覗き込みながら、ファルコンに低空飛行を指示した。だが、海面は鏡のような波紋を映すばかりで、神殿の姿はどこにもない。


「やっぱり不可視結界か……」

 彼は、まだ気を失っているクルドの肩を優しく揺らした。


「クルちゃん起きて・・・クルちゃん・・・・」


「う……ここは……ついた?………え!?………高い!?」


軽くパニックになるクルド。


「クルちゃん、もう高度は低いから大丈夫! でも神殿が見えなくてさ。結界を解ける?」


 恐る恐る水面を覗いたクルドは、呼吸を整え、指先で魔法を発動させた。薄い魔法陣が幾重にも重なり、静かに海に落ちる。

それはもう、適当な魔法だった。だが、効果は出た。


「見えた!」

「さすが私!」

「うん、さすがクルちゃん!」


神殿の姿をとらえた二人、まだ旋回を続けていた。


「でも、どうやって降りる?」

 ティリスが剣の柄に手を掛けると、クルドは唇に指を当てて考え込む。


「氷魔法で、あの一体を凍らせない?」


仕方ないなぁと言いながら、準備を行うクルド。


 詠唱とともに巨大な魔法陣が空を覆い、一滴の雫が海面へ落ちた。

 ――瞬間、辺り一帯の海が白く凍り付く。気温が急降下し、息が真っ白に変わった。


「三時間しかもたないから、急いでね!」

「了解、僕の出番だ!」


氷の大地へと降り立った二人。


 ティリスは長剣を抜き、鋭い視線で氷の平原と神殿の位置を測る。

「剣舞《神颶斬》!」

 風をはらむ斬撃が走り、氷上に滑らかなスロープが彫り込まれた。


「お見事!」

「えへへ、大したことないさ」


 褒められて照れるティリスを横目に、クルドは氷道を歩き出した。

「この剣技はね・・・サムライって人たちに教わった剣技で・・・」


「クルちゃん聞いてる?」

「ええ、聞いてるわ」


 ティリスの小さな不満は、背後から飛んできた杖のツン、であっさり鎮静。

 二人は氷をきしませながら、海底神殿へと足を進めた。

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