127.それぞれの出発
レクサイド郊外――どこまでも広がる乾いた砂漠に、カイとクルド、それに召喚された一体のグリフォンがいた。
強い日差しと風が吹き抜ける中、クルドのマントが静かに揺れる。
「カイ、もう一度言っておくぞ。さっきの話は、あくまで私の勘にすぎん。間違っても、喧嘩を吹っ掛けるような真似はするな」
「はい、先生……」
「私は各地の種族とつながりを持っている。もし戦が始まれば、仲間を連れて必ず戦場に現れる」
「先生……俺は……いったい何をすべきなんでしょうか……正直、分からなくなってきました」
カイの声は曇っていた。
大量の情報と、自分に託された期待。そして、これから起こるかもしれない争い――そのすべてが彼の胸を重くしていた。
「色々と思うところがあるだろう。しかし今は、争いを回避することに専念しろ。
それだけでも、大きな一歩になる」
「……はい。分かりました」
カイはグリフォンの背に飛び乗り、手綱を軽く握る。
「それでは先生、またお会いしましょう!」
その言葉に、クルドはふっと笑みをこぼし、手を高く掲げた。
「……行ってこい、小僧」
グリフォンは空に向かって大きく羽ばたき、あっという間に青空の彼方へと姿を消した。
――しんと静まり返る砂漠に、風が吹いた。
「さて……こっちも動くとするか」
クルドは腕を組み、しばし考え込んだあと、ゆっくりと足を踏み出した。
「……あいつのところへ向かうか。久しぶりだな」
そう言って立ち止まり、静かに片手を掲げると、足元に淡い光が集まり、魔法陣が現れる。
「来い、フェンリル」
低く呼ばれたその名に応えるように、魔法陣の中心から真っ白な大型の獣が姿を現す。
鋭い目を持ち、たてがみのような毛を風に揺らすその姿は、まさに神秘の獣。
「久しぶりだな、ジール」
クルドは懐かしげに微笑み、フェンリルの首元を撫でる。
「……ひとっ走り頼む」
ジールが静かにうなずくように身を沈めると、クルドはその背に飛び乗った。
次の瞬間、砂を巻き上げて、白い獣とその主は地平線へと走り去っていった。
空を行くグリフォンとは対照的に、大地を駆けるその姿は力強く、決意を乗せていた。