120.墓の謎
鋼鉄のゴーレム“ガーディアン”との激闘を終えたカイとクルドは、神殿の奥へと歩みを進めていた。
封印された空間には、儀式に用いられたと思われる台座、古代語でびっしりと綴られた書物、装飾品、宝飾品、そして――山のような財宝が、雑然と積み上げられていた。
「これは……すごい量ですね……」
カイは思わず呟きながら、床に無造作に転がる金貨の山を見渡した。
宝石が剥がれたティアラ、持ち手の取れた王錫、砕けた宝箱。どれも高価なはずなのに、扱いがまるで雑だった。
(神殿はあれだけ綺麗に保たれていたのに……この財宝だけ、どうしてこんなに乱れてるんだ?)
胸の中に奇妙な違和感が残る。カイは気になって、隣室の扉をそっと押し開けた。
そこは、薄暗い一室。
中央には、古ぼけた椅子――いや、“玉座”が置かれていた。
だが、その玉座は妙だった。
背もたれには無数の留め金と、なにかを固定する金具。
座面の下には、魔力を注ぎ込む装置のような管と刻印。
全体が冷たく、金属の不気味な光を反射していた。
「……なんだ、この椅子……玉座って感じじゃない。まるで……」
カイはぞくりと背筋が凍るのを感じた。
――これは、“電気椅子”じゃないか?
前世で見た映画の記憶と重なる。現物は見たことがないはずなのに、脳裏の警鐘がけたたましく鳴り響いた。
「クルド先生!」
カイが駆け出そうとした、その時だった。
「小僧!」
同時に別室から、クルドの声が響いた。
二人は、玉座の部屋で鉢合わせるように出会った。
「先生、ここ――!」
「小僧、ここは――!」
またしても同時に言いかけて、互いの手元を見て言葉を止めた。
カイは、奇妙な椅子を指さす。
クルドは、手にした一冊の書物を振る。
「……ここは、“刑務所”だ」
重く、断定するように二人が同時に言った。
部屋に沈黙が落ちる。
目の前にあった玉座は、王が座するためのものではなかった。
“処刑”あるいは“拷問”のための椅子。
そしてこの神殿自体が、何かを閉じ込め、忘れ去らせるための場所だった。
豪奢な財宝が乱雑に置かれていた理由。
それは、ここが“王家の墓”ではなく、“王家の牢”だったからだ。
クルドは重々しく書物を開き、苦い顔で言う。
「これは、“反逆者の魂を封じた場所”と書かれている。王ではない。王に抗った者たちの……」
「つまり……?」
「ここは、“地上に残された最後の牢獄”だ」
カイはごくりと唾を飲み込んだ。
神殿と思われたこの場所が、真の姿をあらわしはじめていた――。