表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/219

12.やっと出来た目標

薄暗い天井を見上げながら、俺は目を覚ました。

そしてすぐに異様な光景が目に入ってきた。


「ん……? あれ、フェイ……?」


そこには――銀髪をポニーテールでまとめた、見覚えのある女――もといダ女神フェイが、腰を曲げて雑巾を両手で握り締め、床をゴシゴシと磨いていた。


しかも、やたら姿勢が良い。無駄に丁寧。なんだ、これ?


「ぷぷっ!」


思わず笑いが漏れた。


「いま、あちきを見て笑ったでしょ!!」


ばっと顔を上げて、フェイ――いや、ダ女神が赤くなってこちらを睨んできた。額にはうっすらと汗、胸元は相変わらずはち切れそうで、掃除に向いてない格好No.1だった。


「いやいや、だって……女神さまが雑巾がけしてるとか、反則でしょ……ぷっ、ぷははっ!」


「ちくしょぉぉぉーーーー!!」


悔しそうに、雑巾を口にくわえて歯を食いしばるダ女神。その姿はどこか犬っぽくもあって、余計に笑いを誘った。


後でヒルダから聞いたところによると――訓練でゴーレムンにのされて、気絶している間に、いろいろ話し合いがあったそうだ。


天界に帰れっていう話になったけど、フェイ……いや、ダ女神がどうやら帰れなくなっていたらしい。


「天界ネットワークにブロックされた」とか言ってたらしいが、つまりは、


「お前のケツはお前で拭け」


ということになったらしい。


フォースドラゴン討伐まで、ダ女神は帰還禁止処分――堕天扱い。


神様ってのも、大変な職業だ。


「それでさ、俺がフォースドラゴンを討伐するって話なんだけどさ」


俺がそう言うと、ダ女神は雑巾がけの手を止め、少しだけうつむいた。


「ううん……それは違うの。討伐するのは、別の勇者よ。ちゃんと“ドラゴン担当”の女神が召喚済みよ」


「じゃあ俺は?」


「その補佐……というか、まぁお手伝い?」


「お手伝い!? パシリ!?」


「ち、ちがうわよっ!」


少し目を泳がせながらも、誤魔化そうとするダ女神。


まぁでも、この世界で目標ができたのは事実だ。今まで訓練はしてたけど、何のためにやってるのか分からなかった。でも、ようやく理由ができた。


「やっとできたよ、目標がさ・・・お手伝いだけど・・・」




数刻後。俺は縁側で風に当たっていたが、ふと思い出したことを口にした。


「ところでさ、フェイ。俺、魔法が使えないんだけど、それってどういうこと?」


ダ女神は顔を上げ、まるで“え、それ今言う?”みたいな顔をした。


「魔法が使えない……? ちょっと見せてみて」


ダ女神はゆっくり立ち上がり、俺の前にやってくる。手のひらから青白い神聖な光が生まれ、俺の胸元をなぞるように移動していく。


「うおっ、なんかくすぐったいな……」


そのとき、ダ女神の表情が固まった。


「ん? どうした、ダ女神?」


「フェイちゃん、またなんかやらかした?」


「わ、私のせいじゃないもん!!」


一歩下がるダ女神、顔は真っ青。


「……まさか、また……」


「このおっぱい女神が!!」


「だれがGカップ美巨乳ダ女神だってのよ!!」


(いやいや、間違ってないし……なんなら誇張もしてない)


「で、どうなってんの? なんで魔法が使えないわけ?」


ダ女神は口ごもりながら言った。


「あのね……ほんとに言いにくいんだけど……」


「いいよ、言ってみな? おじさん怒らないから」


「……転生時に、ちょっとだけ……間違えて転生させちゃったの……」


「おいぃぃぃ!!!!!???」


「本当は、隣にいた人を召喚する予定だったんだけど、カイを巻き込んじゃったの……」


「で?」


「で……転生のとき、なんか異物があって……その影響で魔法特性が転送されなかったみたい……」


「異物? もしかして……カツ丼か?」


「そうです! カツ丼です! それが魔力の流れを……」


「威張るなよ! このバカチンがぁぁぁぁ!!!!」


「つまり、俺はずっと魔法が使えないってことか?」


「はい、たぶん……無理です……」


「女神だろ!? なんとかできないのかよ!」


「できねーっス!!」


「でもね!」フェイが顔を上げて言う。


「元の世界にいるカイは、魔法が使えるはずよ!」


「……ちょっと待てい! そっちの俺、まだ存在してるのか!?」


「はい、あなたは“半分ぐらいだけ”転送されたの」


「ぐらいってなんだよ、ぐらいって!」


「だから、年齢も体力も半分くらい……でも、魂のつながりはあるから、こっちのカイが死んだら向こうのカイも死ぬの」


「え? ってことは、あっちの俺が死んだら……?」


「それは関係ないです」


「なんでだよ! ややこしいだろ!」


「でもでも、こっちであなたがパワーアップすれば、あっちのあなたも強くなるの!」


「なんだそれ!」


「これは、神様からのギフトというか……謝罪ってことで……」


「こっちの俺に直接謝れよ!!!」


「ごめんなさいいいいいい!」


俺は頭を抱えて空を仰ぐ。


あぁぁぁぁぁぁあ、

ほんと、ダメだこの女神。――ダ女神だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ