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119.古代の守護神

 何かが来る。


 空気が震えているのが分かる。体の奥がざわつくような、あの感覚――。

 ゾクゾクと全身に戦慄が走った。


 カイは咄嗟に聖剣ポチを握りしめた。

 隣では、いつの間にかクルドが杖を構えている。


 ――そういえば、クルドが戦闘前から杖を構えるのは初めてだった。


 それだけで、ただ事ではないとわかった。


 王家の墓を飾る美しい装飾品が、一斉に震え、倒れ、音を立てて床に転がる。

 そして――巨大な影が奥の闇から、音もなく姿を現した。


 それはゴーレムだった。しかし、ただのゴーレムではない。

 全身が黒い金属で覆われ、長年放置されていた証拠のように、ところどころに緑の苔が張りついていた。


 しかし、何よりも異質なのは――その巨大さ。


 「でけぇ……!」


 カイが呆然とつぶやく。


 「こいつは“ガーディアン”だ。王家の守護兵……最強の自律戦闘兵器だ」


 クルドの口調もどこか硬い。


 逃げるか。戦うか。


 二人の脳が、高速で選択肢を処理する。しかし答えは、自然と一致していた。


 「……やるしかねぇ」


 轟、と音を立てて振るわれたガーディアンの拳が空気を裂く。

 その一撃を、ギリギリでかわすカイとクルド。だが、床の金装飾が粉々に砕けた。


 「もったいないな、おい!」


 叫びながらもカイは剣を握りなおす。


 「カイ! ここでは剣は効かないぞ!」


 クルドが叫ぶ。


 「分かってるけど、持ってないと落ち着かないんですって!」


 「私が魔法で援護する。その隙に、一撃だけでも叩き込め!」


 「いや、無理じゃないかな!? って、やってみなきゃ分かんないか!」


 クルドの杖から火炎魔法が放たれ、ガーディアンの装甲を包む。

 たちまち黒煙と共に火は広がったが……すぐにかき消された。


 「やっぱり、耐性あるな……!」


 その隙を狙い、カイが跳び上がる。渾身の一撃で聖剣ポチを振り下ろした。


 ――カァン!!


 鋭い衝撃音と共に、金属の手応えが腕に伝わる。

 跳ね返された衝撃で、剣を握っていた右腕が痺れた。


 「ちくしょう……ッ!」


 まともに握ることすらできない。


 呪いの影響か――。

 ここでは剣技も魔法も、本来の威力が発揮できない。


 クルドの魔法も、風・炎・雷・氷と連発されていくが、効果は薄い。

 いずれ魔力切れを起こす。時間との勝負だ。


 ――なんとかしないと。


 痺れる腕を見つめながら、カイの脳裏にある「戦法」が浮かんだ。


 「クルド先生! 氷系魔法を連発してください!」


 「氷か……!? 理由は?」


 「説明してる暇はないっす!」


 クルドは一瞬の逡巡の後、うなずいて魔法を繰り出す。

 氷の槍、氷の壁、凍結の波――魔素が空気を急激に冷やし、空間そのものが変わっていく。


 カイの息も白くなり、ガーディアンの装甲には霜が付き始めた。


 「もう少し、あと少しでいい……!」


 金属が軋む音。わずかに動きが鈍った瞬間、カイが跳び上がる。


 「先生、ありがとうございます!!」


 凍りきったガーディアンの胸部――

 そこへ渾身の一撃が振り下ろされた。


 ――ドゴォン!!


 音が違った。鋭い金属音ではない、鈍く沈んだ破砕音。

 装甲に亀裂が入り、裂け目が走る。次の瞬間、胸部が爆ぜるように割れた。


 「……やったか?」


 ガーディアンの動きが止まり、膝をつく。


 内部から異音が鳴り、ギィ……と音を立てて崩れ落ちた。

 残骸は白い光に包まれ、霧のように消えていく。


 その場に残されたのは、ひとつの輝く球体――宝珠のような、光るコアだった。


 「これが……王家の守護核か」


 カイがそっと拾い上げると、コアは心臓のような脈動を刻んでいた。


 「どうしてあんな戦い方を?」


 クルドが尋ねると、カイはニッと笑った。


 「前の世界の“友だち”が言ってたんです。『冷やした金属は脆くなる』って」


 「なるほど……氷で装甲を脆くして、剣で断ち割るか」


 「そういう理屈です。多分、こっちの世界の魔物には通じないと思ってたけど……やってみたら、いけました」


 クルドは呆れたように、だがどこか満足げに笑った。


 「常識に囚われず、信じて試す。それが術者としての器だ」


 砕けた守護者の残骸の奥、緋色の扉が静かに開かれていく。

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