117.王家の財宝
長く大きな階段を下りきった先――
そこに広がっていたのは、まるで神殿だった。
「なんじゃこりゃ!」
驚愕とともに声が漏れた。もう何度目かもわからないが、今回ばかりは桁が違う。
隣で足を止めた人物もまた、言葉をなくしていた。
眼前には、高くそびえる円柱群、金属と石材が組み合わさった異形の天井、
そして何より、荘厳な輝きを放つ巨大な宝物庫が鎮座していた。
中心には、かつて王が玉座として使ったであろう黄金の椅子がある。
それを取り囲むように、積み上げられた財宝の山。金貨、装飾品、武具、防具――
どれも現代の王国ではお目にかかれないような、逸品の数々だ。
「……っ」
圧倒され、思わず足がすくむ。
目から入ってくる情報量に、脳が処理を拒んでいた。
それほどに、世界が違っていた。
まるで、ここだけ時間が止まっていたかのようだ。
いや、時間そのものが崇められていた――そんな錯覚すら覚える。
二人はしばらく無言だった。
荘厳という言葉でさえ足りない、歴史と魔力の残響が、空気を重くしていた。
「……あの玉座……本当に王がいたんだな」
「ここは“墓”であり、そして“記録”だ。栄華の記憶を後世へと残すために、こうして存在し続けているのだろう」
沈黙。
どこかで風が抜ける音がした。だがその風さえ、異なる時代の匂いを纏っているようだった。
「でも、なんでこんな場所が……誰も知らなかったのか……」
「知る者はいただろう。しかし、語られることはなかった。“王家の財宝”は、選ばれし者の前にしか現れぬ、という言い伝えがある」
「選ばれし……俺が?」
「勘違いするな。私がいたからだ」
「そっちかよ!」
思わず突っ込むが、それでも少し、胸が誇らしい。
ふと、奥に一際異質なものが見えた。
宝物の山の中――黒ずんだ棺が、まるで一体の守護者のように横たわっていた。
「……あれは?」
「恐らく、この霊廟の“本当の主”だ」
空気が変わった。明確な“殺気”が感じられた。
「来るぞ。まだ、試練は終わっていない」
緊張が一気に高まる。
背筋を伸ばし、剣を握る。
風が鳴き、金属が軋む音が地下神殿に響いた。
そして――静寂が破られる。