113.新しい目標
空を裂いて舞い戻った空の王者、グリフォン――
……が、その優雅な翼とは裏腹に、やったことはひどかった。
カイの身体を、頭からガブリとくわえ込み、そのままブランブランと振り子のように吊り下げながら、レクサイドの北方にあるキャンプ地――あの洞窟へと運んできたのだった。
ズサアッと着地したグリフォンの足元に、淡く光る魔法陣が浮かび上がると、
その姿はスッ……と霧のように消えた。
残されたのは、よだれまみれのカイだった。
「……きたない」
クルドは、心底イヤそうな顔をした。
魔法で乾かし、簡易清浄術を使い、ハーブの香水を振りかけ、さらに軽く焚火の煙で燻し……
全力で「消毒とケア」をしたのち、ようやくカイの手当てに移る。
「……まったく、なんでこうなるかね」
唸りながら、よだれまみれのカイに回復魔法をかけるクルド。
しばらくしてカイが目を覚まし、むくっと起き上がる。
「うわ……クッサ!? なんか草の匂いがする……」
「そりゃあお前、グリフォンに唾液まみれで運ばれて来たんだぞ。干物になる前に手を打っただけありがたく思え」
「うぅ……せめて背中に乗ってほしかった……空の王者なんだから……」
頭を抱えるカイをよそに、クルドが真顔になる。
「さて、小僧。グリフォンを仲間にした。ここで修行を続けるのか?それとも……」
「いや……グリフォンを仲間にした以上、これ以上、ここの奴らは倒せないですよ。
倒せって言われたら……なんか親戚殴るような気分になっちゃいます」
「ふむ……ならば、次のステップだな」
クルドが立ち上がり、地図を魔法で投影した。
「ここから渓谷沿いを北へ進むと、約3日ほどの場所に、古代王族の墓所がある。
そこが次の目的地だ」
「墓……ですか?」
「風化の王墓と呼ばれている場所だ。砂に埋もれた古代の王族たちの霊が、いまだ成仏できずに彷徨っている。
この墓には巨大なグリフォン像が建っていてな……おそらく、そいつらがかつてこの地を治めていた証でもあるんだろう」
「はぁ……なんか因縁がありそうですね」
「そうかもな。ただし――ここで問題がある」
クルドは険しい顔になる。
「剣が使えん。そして、魔法の威力も半減する呪いがかけられている」
「……ええええええ!? じゃあ、どう戦えばいいんですか!?」
「どうにかするんだよ。それが修行だろうが」
「無茶ぶり……!!」
「まぁ、私も一緒に行く。ヒントくらいは出してやるさ」
苦笑しながら、クルドは焚火の火をかき回す。
「それに……“その墓”には、ただの霊だけじゃない。
王家の血に選ばれた者だけが聞こえる**“声”**があるといわれている」
「声……?」
「どこまで本当かわからん。だが――行ってみる価値はあるぞ、小僧」
カイは立ち上がり、口元を拭いながら、渓谷の奥を見つめた。
「じゃあ、行きますか。強くなるって決めたんです。俺」
「よろしい」
そう言って、クルドはひとつ背を向け、ふと振り返った。
「ちなみに、次も死ぬかもしれんぞ」
「脅しやめてもらっていいですか!!」
こうして、新たな目的地へと向かう。
“風化の王墓”への挑戦が始まった。