110.突破口
――何日が経ったのだろうか。
昼は灼熱の砂漠、夜は氷のような冷気。
カイは毎日、グリフォンとの戦闘に身を投じていた。
だが、結果は惨敗続きだった。
攻撃はすべてかわされ、魔法も通じず、反撃すらままならない。
ただ逃げ、受け、耐えるだけの日々。
聖剣ポチを握りしめる手にも、力は入らなかった。
(……異世界転生って、もっとこう……ズルいくらい強くなるもんじゃないのか?)
無意識に、心が弱音を吐いていた。
現実逃避するように、目を伏せ、空を仰ぐ。
(俺も、都合のいい力を手に入れて、魔王倒して英雄になって――そんな展開がよかった)
(なのに……なんで、俺はこんなに、つらい思いしてるんだろう……)
その瞬間、意識が遠のいた。
限界だった。
視界がぼやけ、地面に倒れ込んだその体を――
「ヒール」
クルドの簡易回復魔法が優しく包んだ。
「……あぶなかったな、小僧。もう少しで、あっちに逝くところだったぞ」
「すみません……」
カイは、ぎりぎりのところで息を吹き返すと、聖剣ポチを強く握り直した。
まだ終わっていない。
――風を切る音。空を裂く鳴き声。
またグリフォンたちが襲いかかってきた。
「考えろ……逃げるだけじゃ、ダメだ。何か、突破口があるはずだ……!」
カイは息を整え、魔素を集中させた。
目を閉じ、精神を一点に絞る。
そして――
「ポチ……頼むぞ……!」
聖剣ポチに、ありったけの魔素を流し込んだ。
刃が薄く青白く光る。
さらに流し込むと、赤く染まり、
さらにさらに流し込むと――
震えるように刃先が共鳴を始めた。
(……これは!)
共鳴の波が全身を包み込む。
ついには、剣全体が白い光に包まれ、刃が数倍にも膨れ上がったように見えた。
その瞬間――
「うおおおおおっ!!」
叫びと共に、迫るグリフォンに向かって剣を振り下ろした!
白い閃光が、空を裂く。
一閃。
グリフォンの片翼に風穴が空き、体勢を崩す。
さらに、刃は地面へ到達し、渓谷の地面を大きく裂いた。
カイ自身が驚いていた。
「……これだ……!」
確かな手応え。
魔素と剣が完全に一体化した感覚――。
「もっと……もっと流し込む!」
カイは再び、すべての魔素を剣へ注ぎ込んだ。
剣は再び震え、共鳴の音が空間に響く。
その姿は、もはや“聖剣”というより、雷鳴を宿した神の刃。
そこへ、再びグリフォンの群れが襲いかかってくる。
そのうちの一体――明らかに他よりも大きく、威厳すら漂わせる“リーダー個体”が、鋭く翼を広げた。
「来い……!」
カイは、一歩も引かず、迎え撃つ構えをとった。
――空の王者との、真の一騎打ちが始まる。