11.緊急会議
自称ダメ神のフェイさん曰く、魔王討伐のために俺を転生させたと言う。
なにが緊急会議だって言うと——俺の立場が無くなった。
そもそも、異世界転生なんて奇跡的なことが起きて、何の目標もないはずがない。
訓練しながらも、ゆくゆくは魔王討伐とか、戦争に駆り出されるとかあるんじゃないかと考えていた。
でも、魔王がいない世界に送り込まれたらしいから、目標もクソもねーじゃん。
場所はいつもの小屋。
テーブルの中央にパンとスープ、そしてキノコご飯が並べられ、昼飯の余韻が漂う中、俺たちは“緊急会議”と称して囲んでいた。
「はい、それでは会議……いや、裁判を始めます!」
カイが立ち上がって右手を高く上げる。
ヒルダとミーア、それにフェイが黙ってうなずく。
フェイはなぜか正座していて、背筋をぴんと伸ばしている。
「まずは、なぜ魔王がいない世界に送り込まれたのでしょうか? 私は」
うつむいたフェイが、小さくボソボソと答える。
「この国に魔王がいるから、転生者を育てて勇者にしてから討伐する予定でした……」
「はい! 裁判長、発言よろしいでしょうか!?」
突然立ち上がったヒルダにビクっとするフェイ。
「裁判長というのは……私か、カイ?」
「はい! 裁判長でございます!」
「うむ、発言を許す」
ノリノリのヒルダが椅子に肘をつきながら言う。
「魔王がいる世界に送ったつもりが、この世界には魔王は居ないそうじゃないですか!?」
「ひぃっ!」
ビクビクと肩を震わせるフェイ。
「その……まさか数百年ずれてたとは……」
「数年……いや、数日ズレるってのは分かるけど、2百年ズレってどいうこと!?」
「そ、その……天界ですこし居眠りしてて……」
「居眠り!? どんな次元の遅刻ですかぁ!?」
「最近、異世界転生が多くて……残業続きで……」
「残業!? 天界はブラック企業ですかぁ!?」
「いや、そんなことは……」
「ブラックじゃない!? それじゃ、ただの職務怠慢じゃないんですかぁ!?」
「ごめんなさいぃ〜〜!!」
泣きそうな顔で地面に額を擦り付けるフェイ。
「ところで、俺は元の世界に帰れるんですかぁ!?」
「それは……そのー……お約束どおり、戻れないんです……」
カイがヤレヤレと大きく肩を落とす。
「それでは、私は何を目標にこの世界で生きていけばいいのでしょうか!?」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
裁判長……いや、ヒルダがゆっくりと立ち上がった。
「まぁ、仕方ないじゃないか、カイ」
「仕方ない!? だと!? このクソババァ!!!!」
ヒルダの右フックが、カイの顎を鮮やかに捉える。
カイの顔が華麗に吹っ飛び、椅子ごと床に崩れ落ちる。
「いいパンチして……やがる……」
「さて、フェイとやら。話を聞かせてもらおうか」
ヒルダの目がギラリと光る。
「まず、そもそも魔王ってのはいない。人間がありえない魔素を取り込んで魔法力の化け物になったのが魔王と呼ばれていたが、それで間違いないか?」
「はい、ヒルダ様。その通りです」
「そいつが二百年前に暴れて、それを倒したが、それに間違えないか?」
「はい、ヒルダ様」
「それでは、今後そのような魔王が現れる可能性はないのか? 人間が存在する限りあり得る話だろう」
「はい、その通りですヒルダ様。ただここから数百年の間は、そのような魔王の出現は確認されませんでした」
「そうか、この世界の平和は続くのだな」
「ただ、10年後人類はほぼ絶滅します」
「ん?」
その場が静まり返った。
パンの咀嚼音すら止まる。
「この世界にまだ人類が居ない時代に、神々により封印されたフォースドラゴンが復活して、人類を根絶やしにします」
「このダメ神、ノウノウと何を言っている」
「だから! ドラゴンの出現によって人類が滅びるんですよ!」
「魔王より達が悪いじゃないか。それを勇者とやらに討伐させれば良いのじゃないか?」
「私は、魔王担当なんで、ドラゴンや天変地異などは担当外となっております」
ヒルダのゲンコツが、フェイの頭に豪快に振り下ろされた。
「ゴンッ!」
「ぎゃふん!!!」
泣きべそをかくフェイ。
その頭には大きなたんこぶがふたつ……。
「こ……これが神罰ってやつかしら……」
天井を見つめながら倒れ込むフェイであった。