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109.傷が治らない

――眠れなかった。


全身がズキズキと痛む。

身体は重く、砂漠の冷え込みが骨まで染み渡っていた。


焚き火のそばにしゃがみ込む。

かすかに薪が爆ぜる音が、静寂の中で反響していた。


(……昨日はボロボロだったな)


地獄のような初日。

あらゆる角度からの攻撃を受け、逃げる間すらなく、最後は意識を失って倒れた。


クルドの簡易的な回復魔法で命は取り留めたが、

「自分の回復は、自分でやれ」と言われたカイは、

魔素を全開にして、ひたすら《ヒール》を自分に打ち込んでいた。


しかし、効果は薄い。

魔素はあるのに、制御と集中が甘く、出力が分散している。


(……悔しいな、まだ俺のヒールじゃ、傷もまともに治せないのか……)


カイが歯を食いしばっていると、クルドがぽつりと口を開いた。


「小僧……町にいた時から、少し気になっておったんだが」


「はい?」


「お前の影から、不穏な魔素の気配が出ておる。……なにか、思い当たることはあるか?」


その言葉にカイは一瞬きょとんとしたが――すぐに、思い出した。


「……あっ、そうか。あいつ、いたんだ」


カイは魔素を操作し、右手をかざした。


「来い、ヴィーブル!」


空間が歪むように、影が波打つ。

そこから一体の黒い鎧の騎士が現れた。


――首のない騎士、デュラハンのヴィーブル。


それを見たクルドは、目を丸くして驚いた。


「こいつは……デュラハン!? しかも……元・人間の……!」


「はい、大迷宮で出会って、契約しました。いまは旅の仲間です」


「……なるほどな。デュラハンと《従魔契約》をするとは……とんでもないやつだ、お前は」


カイは静かにヴィーブルを戻しながら言った。


「俺、仲間がいたからここまで来れたんです。あいつも……俺の命を何度も救ってくれた」


しばらく焚き火を見つめたまま、沈黙が流れた。


だが、次の瞬間、クルドが――「くくくっ」と笑い出した。


「……小僧、もしやヒルダにやったファルコンを超えるかもしれんな」


「……は?」


「この渓谷でな、グリフォンと従魔契約してみろ。できるならの話だが」


「……まじですか!? グリフォンって、そんな簡単に従魔契約できるもんなんですか?」


「簡単じゃないからこそ、やる価値があるんだよ」


「でも、あれは……鳥系最強でしょ? そんな……」


「いいから聞け、小僧。昔な――この渓谷で修行した奴がいた。お前の師匠、ヒルダだ」


「えっ、ヒルダ先生が……!?」


「そう。あいつもここで修行して、グリフォンに挑んだ。何度も、何度もな。

だが、結局――従魔契約はできなかった」


カイは驚いて口を開けたまま、しばらく黙った。


「それでな、あいつは諦めてエルフの国に渡り、そこでコンドルという魔物と契約した。

その魔物が、後のファルコンだ」


「……ヒルダ先生でもダメだったんですね」


「だからこそ、小僧。お前がグリフォンを従魔にできたら、あいつ……絶対に悔しがるぞ」


「……意外と、そういうとこあるんですか? ヒルダ先生」


「あいつは負けず嫌いだからな」


そう言って、クルドは豪快に笑った。

カイも、痛みで動かない身体のまま、ニヤリと笑い返した。


目の奥には、確かな光が灯っていた。


(ヒルダ先生を超える……そのためにも)


(あのグリフォンを――俺の従魔にする!!)

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