108.砂漠のベッド
――気がつくと、砂まみれだった。
砂漠の熱気が肌を焼くように襲ってくる。
頭、腕、背中……全身が、まるで火であぶられているように痛む。
その感覚は、だんだんとリアルになっていき――
「……ぐっ……がっ……あああっ……!」
声にならない呻きが、喉からこぼれた。
意識が朦朧とするなか、誰かの声が耳に届く。
「おい、小僧!! 立ち上がらんと――死ぬぞ!!」
「……死ぬ!?」
その声で、全身に電流が走ったように目が覚めた。
カイは思い出した――今日から、クルドによる訓練が始まったのだ。
初日の訓練場所は、レクサイドから三日ほど砂漠を歩いて移動した場所にある巨大な渓谷。
そこは、鳥型の大型魔物の巣だった。
「……こんなとこに……くるんじゃなかった……」
それが正直な感想だった。
この渓谷には、この大陸にいるグリフォンの約8割が生息しているという。
つまり、敵だらけということだ。
渓谷に足を踏み入れた瞬間から、四方八方から襲いかかるグリフォンたち――
鋭利な羽を飛ばし、炎・氷・風といった属性魔法を連発、
翼の一撃は岩をも砕き、爪は鋼鉄すら貫く。
「……っ、ぐああああっ!!」
休む暇もない。
逃げる余地もない。
攻撃を避けるだけで精一杯。
防げば魔法、魔法を避ければ斬撃――
「やっぱり、俺は……まだまだだった……!」
痛感させられた。
まさに地獄。
戦闘というより、ただの“殺される側”だった。
聖剣ポチでなんとか攻撃を防ぐが、攻防のタイミングを掴むことすら難しい。
そして何より……グリフォンは魔法防御まで使ってくる。
「チートかよ、お前ら……!」
カイの一撃は、一発たりとも当たらなかった。
正面だけではない。横から、後ろから――連携して襲ってくる。
そして、それを追い打ちするように、この灼熱の気候。
体力が、ゴリゴリ削られていく。
そのときだった。
背後から飛びかかってきたグリフォンの爪が、カイの背中を大きくえぐった。
「……ッッ……!」
叫び声さえ出ない。
息が詰まり、視界が暗転していく――
――ドサッ。
崩れ落ちるカイを、遠くから見ていたクルドは、ようやく腰を上げた。
数体のグリフォンを一撃で撃退し、カイを回収する。
「やれやれ……最初から無茶させすぎたな」
渓谷から少し離れた小さな洞窟に避難させ、クルドは最低限の回復魔法を施した。
そして、目を覚ましたカイに言う。
「小僧。お前自身で、回復魔法をかけろ」
「えっ……? 俺、回復系は……」
「覚えろ。お前は、“攻撃系の戦士”であり、“魔法を使う者”でもあるべきだ」
「…………」
カイは、震える手でヒールの詠唱を始めた。
「ヒール……」
傷口の出血は止まった。だが、それだけだった。
痛みも残り、体力も戻らない。
「これが……俺の……限界か……」
その言葉を聞いたクルドは、顔をゆがめて叫んだ。
「限界じゃない! 今が“始まり”だ!」
「!」
「お前には、普通の戦士にはない素質がある。
魔素の流れ、気配の掴み方、潜在能力――どれも異常値だ。
それを使いこなすには、地獄をくぐるしかないんだよ、小僧!!」
カイは歯を食いしばった。
「……お願いします、クルドさん。俺を、強くしてください……!」
「よし。なら、明日は地獄の二日目といこうじゃないか」
そう言って、クルドはにやりと笑った