104.クルド
カイは慌てて脱衣場に逃げてきた
「あせった・・・」
備え付けのタオルで体をふきながら、思っていた。
しばらくすると、浴場の方から、老婆が身体を洗っているだろう雰囲気はわかった
カイ「この国の人たちは、あれが普通なのかぁ・・・・」
身体を拭き終わり、魔法袋から着替えを取り出そうとしたが
袋が反応しない、
「あれ?」
なんども手を突っ込んでみたが、なにもない袋になっていた。
風呂上りなのに、汗が噴き出してきた。
「あれ!?これってやばくねー!?」
この袋から服を出さないと・・・やばいことになる・・・・
そしては、あの老婆がやってくる
カイは魔素をありったけ流してみたが、袋はただの袋のままだった。
「や。や。やばい!」
この世界にきて一番のてんぱり具合だ。
あたふたしていると、さっきの老婆が脱衣場へとやってきた。
「あ!」
慌ててタオルで大事なところ隠す。
しかし、様子が変だ。
先ほどの老婆とは打って変わり、長い緑髪のクルクルと巻き髪、身長は高く、スタイルもよい
顔を確認すると、おそらく20代ぐらいの女性が立っていた。
「声にならない声が、腹から出た」
それをみたその女性はニッコリとほほ笑んだ。
そして、カイを挑発するかのうように、備え付けのタオルとり
つけていたタオル生地の下着を脱いだ
思わず、目を背けるカイ
女性は身体を拭き終え、髪を風魔法で乾かしていた。
直接は見てないが、女性が服を着たのはわかった。
そして、ゆっくりと振り返った。
「あら、着替えないのかしら?」
カイは驚き、袋から服を出すゼスチャーをした
それを見た女性は、魔法袋を見せろと言う
よくわからない間に、手渡した
すると女性は袋に手をかざし淡い光を放った。
カイは驚き、気が付いた。
(魔法……! まさか、この人……)
女性は微笑んだまま、袋を手渡してきた。
「はい、もう大丈夫よ。中を見てごらんなさい」
カイはおそるおそる袋に手を入れる。
すると、そこには――先ほどまで入っていたはずの、着替えと装備がきちんと戻っていた。
「戻ってる……!」
カイが顔を上げると、その女性はもう一歩近づいて、静かに口を開いた。
「驚いた? あなたが困っていたから、ちょっといたずらしちゃった」
「い、いたずら!?」
顔を真っ赤にして叫ぶカイ。
それに対し、女性はクスクスと笑う。
「ごめんなさいね。ちょっとあなたの反応が見たくて。でも――」
女性は一瞬、表情を引き締めた。
「あなたが“カイ”という名前で、とある魔法使いのことを探していると知って、ちょっと気になったのよ」
カイは眉をひそめ、身構えた。
「あなたは……誰なんだ?」
女性は、少し得意げに胸を張って答えた。
「私の名前は、クルド。――まあ、今はこの姿を使ってるけどね」
「……え?」
カイの脳が情報を処理するまで、少し時間がかかった。
「く、クルド!? え、あの!? 四大魔女の師匠!? っていうか、さっきの老婆!?」
「正解。さっきはちょっと試したの。あなたがどんな人なのか知りたくてね」
カイは膝から崩れ落ちそうになりながら、頭を抱えた。
(なんてこった……初対面があれかよ!!)
クルド――かつて四大魔女を育てた最強の魔法使いが、目の前でニヤリと笑った。
「さて、カイ。話したいことがたくさんあるの。ちょっと散歩でも付き合ってもらえる?」
カイは疲れ切った表情で立ち上がり、無言でうなずいた。
(俺の旅……波乱しかない……)
クルドはそんなカイを見て、言った。
「服は着ないのか?」
裸で外に出ようとしている自分と、裸をずっと見られていた自分
それだけでパニックだった。
クルドは楽しげに笑いながら温泉から出ていった。
――砂漠の町レクサイドで、運命の出会いが幕を開けた。