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第8話 聖女エイミ(1)



 エイミは明るく微笑む。


「さっきも言ったじゃーん。スキルだって何だって、無ければゲットすればいいんだよ。もしかしたらヨユーじゃないかもだけど、頑張らないうちに諦めるのはちがくない? せっかく世界を渡ってきたのにさ」

「それは……」


 呆気にとられるギルバルトの鼻先にびしっと指を突き付ける。


「なんもないってことは、可能性の塊なんだよ!? メイクしてない顔面には無限の可能性がある! ……ってこれはお姉ちゃんの受け売りなんだけど。つまり頑張ればイケるってコト! まあエイミに任せなよ。それに」


 エイミは真面目な顔で、ポケットからスマホを取り出した。


「……アタシのお姉ちゃんも、この世界に召喚されてるかもしんないんだよね」

「なにっ、どういうことだ!?」


 ギルバルト、それにシスレーも驚いた顔でこちらを見る。


「いや、かもしれない、っていうだけ。アタシのお姉ちゃん、三ヶ月前にいなくなっちゃったんだ。荷物も何もかも置いたまま、何も言わずにどっかいっちゃった」


 エイミはしみじみとスマホを眺めた。ボタンを押しても電源がつかない。たぶん充電切れだ。

 でも、中を見なくたって、お姉ちゃんが最後にくれたメッセは覚えている。


『今日もいつも通り帰るよ。鍵はちゃんと閉めて寝るんだよ!』


 それから三ヶ月。

 警察に相手にされなかったり、市役所で門前払いされたり、いろいろな障害にめげずに手を尽くしたけど、お姉ちゃんの行方は分からなかった。


「お姉ちゃん自身の事情や、あるいは事故っていう可能性も大いにある。でも、そういうことをするような人じゃないんだ……この世界に来てハッとしたんだけど、お姉ちゃんもちょうどいなくなる前くらいに、アタシと同じアプリをインストールしてたんだよ。召喚OKしたやつ」


 あのマッチングアプリ。

 同じアプリを通して異世界に召喚されていたなら、すべてのつじつまは合う。


「アタシと同じように召喚されていたなら、たぶんあの……なんだっけ……ファルコンスイーツ?」

極星教院ファリコンスキュールのことかな。この世界の半分に浸透している宗教組織だよ」


 シスレーの言葉にエイミは大きく頷いた。


「そうそれ。そこが召喚を扱ってるんでしょ? だったらお姉ちゃんのことも知ってるんじゃないかなって。でもそこと満足に話をするなら、やっぱり早めに条件を満たして王子をなんとかしないとーって思ったんだ。」


 やや呆気に取られていたシスレーが、改まったようにエイミを見る。


「驚いたな……ドアの外から一部始終は聞かせてもらっていたんだけれど、君はそこまで考えてあんなふうに交渉を?」

「いや、成り行きっていうか! 売り言葉に買い言葉しつつ、なんとなく思い当ったというか。そこはギャルのノリっスよ!」


 アハハ、と弁解しつつ、深い息をついた。


「でも、この世界に来たのはノリとかじゃない……あっちの世界でOKボタンを押したとき、アタシは自分の運命を変えたいと思った。世界を渡った今でも同じように思ってる」


 その言葉には迷いも軽さもない。


「アタシはこの世界でちゃんと『聖女』になりたい。この国やみんなも助けたいし、お姉ちゃんも探したい。だから、ゲンダイには戻らないよ」


 それにさ、とエイミはおどけたように笑った。


「どうせ向こうの世界には家もお金もないしね! こっちにいれば寝るところくらいは用意してくれるんでしょ、皇帝おぢさん!」

「……当たり前だ」


 ギルバルトは厳しい眼差しをエイミに向けていたが、やがて視線を和らげた。


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