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第1話 家無しギャル、異世界に飛ばされる。


 ――現代、日本。


 川崎の夕暮れは、いつでも騒がしい。

 小島エイミは駅前のフェンスに寄りかかり、両手の荷物をゆっくりと下ろした。


「よっこらしょっと……」


 思わず漏れた声に自分で笑いそうになる。アタシはおばあちゃんか。 


 背中のリュックとでかいバッグ、パンパンのキャリーカートがエイミのすべてだ。

 今朝、アパート管理の不動産屋に「家賃払えないならいますぐ出ていけ! 警察呼ぶぞ!」って言われて、慌てて全財産をかき集めてきた。


 いや思い出したらアイツまじムカつくわ、不動産屋。

 唯一の家族であるお姉ちゃんがいなくなったばかり(といっても三ヶ月経ったが…)しかも春休み初日の女子高生ギャルを部屋から追い出すなんて。人のココロはないんかっつーの。


 それにしても。

 しみじみと、ピンクのド派手キャリーカートやらバッグやらを見る。

 このデカい荷物を持ったまま、これからどうしよ。


 そもそもお金もペイもないし、電気が止まってたから充電もしてない。

 電池が切れる前に、なんとか今夜泊るところを……。


「あれっ、もしや……家出ギャル!?」


 突然話しかけられて、またしてもため息が漏れた。

 出たよ、駅前名物ガラの悪いナンパ男。

 

「どしたのー、ロング茶髪のギャルJKちゃん。今日は私服? スカート短いねー! てか、結構カワイイね!? あとメイク薄い? ナチュラル系? 白ギャル?」


 早口と食いつきがすごい。


 そもそもメイク薄いとか余計だっつーの。あまりに急ぎすぎて眉とリップしか書けなかったから伊達メガネでごまかしてるんだって。


「あれあれ、もしかしてなんか困ってる感じ? 話聞こっか?」

「あ、いやー……人待ってるだけなんで……」

「友達? 良かったらこっちも野郎呼ぶからカラオケでも……」


 いやさすがにコイツのお世話になるのは勘弁。

 仕方ない、ここは特殊スキル発動だ!


 エイミは自然なしぐさで、あっ、とスマホを見る。


「あ、彼ピから着信だ! ……もちもち、エイミだよ!ごめんごめんチョー!!いまどこいるぅ? エイミは駅前にいるょ! うんうん、おうち行くピ!」


 効果はバツグンだ! ナンパ野郎が舌打ちし、イヤな表情で去っていく。ビッチかよ、って捨て台詞もマジ川崎。


 震える手でスマホを下ろそうとして、別な通知が来ていることに気づいた。


 マッチングアプリだ。


「……そういや、先週入れてたっけ」


 『1件のマッチングがあります』の通知。

 アプリ名は『神マッチング』。


 失踪する前のお姉ちゃんもコレを入れてたんだ。

 銀座で真面目にチーママしてたお姉ちゃん。

 彼氏にも下僕にも困らないって言ってたモテモテのお姉ちゃんが、どうしてマッチングアプリなんか入れてたのか、それは分からないけど……。


 このままだと家を追い出されそう、と思った一週間前に、エイミも登録しておいたのだ。

 まあ一泊くらいなら、ヤらなくても泊めてくれるような神はいるかなと期待を込めて。なにしろ神マッチングだけに。


 いや、その条件でマッチングしたってことは……マジで神が降臨した!?

 慌ててアプリを開くと、確かに申請が来ている。


『条件に合うマッチングが 1件 あります』

『――OKしますか?』


 エイミはごくりと唾を飲みこんだ。

 どうしよ……。


『神マッチング』は少々おかしなマッチングアプリだった。


 趣味や年齢を入れるのはマチアプの基本だけど、なりたいモノとか、得意なコトとか、これから頑張りたいコトなんかも記入欄があった。


 まるで履歴書だな、と思ったのを覚えている。

 ついついノリで『運命を変えたい!』とか入力したが、それはエイミの正直な願望だった。


 パパは小さいころに消えて、毒ママに虐待されて育った。

 登校拒否になって、なんとかヤル気を立て直して、ようやく優しいお姉ちゃんと二人暮らしを始めた。

 このまま平和に過ごせるといいなーと思ったら、三か月前にお姉ちゃんも蒸発。

 バイトの掛け持ちじゃ生活費と家賃は払いきれず……ついに家を追い出され。


 いやー、変えられるなら変えたいでしょ、運命なんて。


 あれ、でも。

 そんなアタシのプロフ見てOKだった奴がいるってこと……?


 じゃあどんな人なのか、一回会ってみても良くない?

 キモ客だったら遠くから見るだけで逃げればいいし。そうじゃなかったら泊めてもらえるかもだし。


 昔の記憶がよみがえる。


 ――エイミちゃん、暗いもんね~。

 ――あんな陰キャで何が楽しいんだろ。

 ――お姉ちゃんはあんなに可愛くて……ギャルすごいけど。

 ――全然似てないよね。



 エイミは首を振り、きっぱりと顔を上げた。


 自分の運命は自分で変えるしかない。

 そのためには、どんな出会いだって試してみるしかないんだ!



『――OKしますか?』


「まあなんとかなるっしょ!」



 それはエイミの最大限の強がりであり、本音でもあった。

 なんとかなればいい。


 いや、なんとかする! アタシ自身で!


 その勢いで『OK』のボタンをポチる。

 途端に周囲が光に飲み込まれ……。





 まさかそれで異世界に飛ばされるとか、フツーは思わないじゃん?



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