表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/15

第9話 聖女エイミ(2)



「言い分は分かった。ひとまず、その意見を受け入れることにしよう。現状を起点とした最善策を模索することを優先し、いまゲンダイへ帰還させる案は保留とする」

「やったあ!」

「ただし!」


 ドン、と杖の底で床を突き、ギルバルトは厳しい眼差しを向けた。


「万一、スキルが開花せず、あるいは命の危険が迫った場合は、お前の許可を得ずに容赦なく送り返す。いいな!?」

「ええー? さっきのアタシの話聞いてた? アタシのことはアタシが決めるつったじゃんよー」

「安全が確保された上での自由意志だ! 際限なく権利を振りかざすな!」

「おぢさん心配症だねー。また白髪増えるよ? ダイジョブだって、なんとかなるなる!」


 エイミは笑顔でダブルピースする。ギルバルトは反論するように口を開きかけたが、気力が尽きたのか首を振って息を吐くだけだった。


「言い合いはやめよう、不毛だ。とにかくこちらはお前の安全性が確保できればそれでいいのだ……」

「おっ、ギルが譲歩したぞ。あの泣く子も黙る絶氷公ギルバルトが。エイミはなかなかすごい聖女になりそうだな」


 感心したようなシスレーの言葉にエイミはガッツポーズを取り、ギルバルトはますます疲れた仕草でこめかみを押さえる。


「まずは、こちらにいると決めたのならその『おぢさん』というのを、やめろ」

「じゃあ何て呼べばいいかな。ヘイカ? ギルバルト?」

「ギル、でいい」

「分かった! じゃあアタシはエイミね! 性格は合わないかもだけど、なるべく仲良くやろうよ! よろしく、ギル!」


 明るく笑ったエイミに、ギルバルトは複雑な表情を浮かべる。

 だが静かに跪くと、黒い手袋をしたまま、彼女の右手をそっと取った。


「……召喚者と聖女は感覚が繋がり、運命共同体に近いものになるという。これから先、私とお前は苦難と喜びを分かち合うことになる」

「えっ、あ、うん……」


 唐突な行為にエイミは飛び上がりそうになった。

 なになに、いきなりなんかちょっと雰囲気変えないでよ。ドキドキする。


「私は召喚者にして守護者だ。聖女の務めを果たすと決めたお前を、この身に変えても護ると誓おう。聖女エイミよ……我が帝国に護りと癒し、そして健やかな未来を与えたまえ」


 驚くエイミの手を、ギルバルトは自分の額に軽く近づけた。

 瞬間、天使の輪のような、魔法陣のような光の渦が二人を取り巻く。


 エイミの中で何かが開き、閉じる。

 ほんの少しだけ世界が新しくなったような、そんな気がした。


 そうだ。大体の聖女は世界を救うために召喚されるんだ。


 お姉ちゃんのこともあるし、まずは悪者扱いの帝国を助けるために、アタシががんばらないと。

 この怒りっぽくて理屈っぽいおぢさんもまあ……ついでに助けてやるか。


「大丈夫、なんとかするよ! その代わり、ギルも素直になって、苦虫かみつぶさないで、前向きに、こっちの話もちゃんと聞いてよね! あと怖い顔もしないで! なんでもひとりで決めちゃわないで!」

「……注文が多いが、努力はする」

「あれ、意外と素直じゃん」


 ギルバルトは憮然とした表情のまま、重い動作で立ち上がった。


「この後は宮中を案内してもらうといい。シスレーに任せる」

「ギルはどうするの?」

「特別議会や承認すべき案件が山積みだ。召喚式が長引いてしまったため、皆を待たせている」


 広い部屋、空いたドアの向こうには幾人もの人の気配がある。ギルを待っているのかもしれない。

 何しろ皇帝なんだもんね、とエイミは納得した。なんの仕事をするのか良く分からないけど……総理大臣みたいなもんか。


「忙しいんだね。お疲れモードだし、早く寝なよ? 徹夜はダメだよ? 美容には睡眠が一番ってお姉ちゃんが言ってた」

「子供に諭されるようでは世も末だな。聖女はまず自分のことから考えるといい」

 

 では、と身をひるがえして去っていく。

 背の高い、黒い姿が遠ざかっていくのをエイミはしみじみと眺めていた。

 去り際はあっさりと、挨拶もない。


 召喚者と聖女って、普通はどんな関係なんだろう。

 こんな風に衝突したりケンカばっかりなんだろうか。それとも。


 よし、とシスレーが元気に指を打ち鳴らす。


「私たちも行こうか。広ーい宮中を案内するよ! エイミの部屋もあるし、夕食も用意してある」

「マジで!? 実はお腹減ってたんだよね~」


 途端にエイミのお腹が鳴った。あまりの素直さに自分で笑ってしまい、ついでに緊張も完全に溶けたようだ。

 ふう、と息を吐いたエイミに、シスレーは優しい笑顔を向けてくれた。


「疲れたよね、異世界から来てすぐに王子とギルに詰められたわけだし」

「いやホント、ちょっとは女子をいたわってほしいよ。なんなのあの男子二人は?」

「ごめんごめん、ギルにはよく言っておくから」


 あ、そうだ、とエイミは後ろの、荷物の山を振り返る。


「アタシの荷物ってどうしたらいい? いまんとこ全財産なんだけど」

「うおーーー宝の山!! ……じゃなかった、そのままでいいよ、侍従に運ばせる。後でいらないものくれると嬉しい」

「りょーかい」


 まずは、とシスレーは軽く笑った。


「宮中案内と、食事と、服を着替えて、君の部屋にも行こうよ。ここからは楽しいぞーついてきて!」

「わーい! お楽しみタイムだ!」


 魔法椅子は滑るように動き出したが、シスレーは少しだけ振り返り。


「聖女エイミ、わがシヴァルディス帝国へようこそ! 大歓迎するよ!」


 それからニヤリと笑う。


「……後ほどでいいので、そのスマートフォンも見せて……そんで解体させてくれないかな……研究のために……」

「ダメダメ、それはダメでしょ! 二度と戻せない気がする!」

「ええーダメかあ……そこをなんとか」


 二人で大騒ぎしながら歩き出す。

 よし、テンション上がってきたぞ! 異世界探検だ!

 エイミは軽い足取りで、シスレーに続いて部屋を出た。 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ