捌頁目 炎の魔物
〜〜とある夜〜〜
暗闇の中で炎が揺れる。
鳥籠の如き角灯の中に囚われた光焔が、
使用者の歩幅に合わせて揺れていた。
角灯の持ち主は二人組の冒険者。
彼らは現在、ある魔物の討伐依頼を受けていた。
「道が狭いな、左右は断崖絶壁か」
「おまけに月が雲に隠れてとにかく暗い!
なぁ……やっぱり日中に来るべきだったんじゃ?」
「いや、この暗さが逆に良い」
冒険者の一人はそう言うと
角灯の明かりで手元の手配書を照らす。
紙面にあるのは懸賞金と魔物の肩書き。
本名不明のその魔物に付けられた名称は、
炎の魔物――通称『焔魔』。
「明かりが見えたら、そいつが敵だ」
手配書を年季の入った剣と持ち替えて、
冒険者は暗く細い道を進んでいく。
そして彼らが揺らす角灯の火を、
焔魔もまた、遙か遠方から覗いていた。
「「――ッ!?」」
異変に気付き、冒険者たちは咄嗟に構える。
が、次の瞬間には飛来してきた炎の弾が、
戦士の内の一方をその防御ごと貫いた。
残された一人は燃える仲間の死体に一瞬怯むが、
すぐに角灯を投げ捨て物陰に身を隠す。
敵には遠距離攻撃の手段があると分かったからだ。
角灯を持ったままでは良い的になるだけだろう。
またそれと同時に冒険者は冷やせを垂らす。
彼には遠距離の敵に対する手札が無かったのだ。
前時代的な冒険者の武装は愛用の剣一本。
男は今日まで、それだけで戦ってきた。
「すぅぅぅ、ふぅぅぅ!!」
渇いた喉に水を流し込み、戦士は遂に覚悟を決める。
そして素早く月明かり一つ無い闇へ飛び出すと、
彼は炎の魔物への急接近を試みた。
(射撃位置は把握した……!
移動した可能性もあるが、大方の方向は判る!)
一歩踏み外せば滑落してしまう細道を、
視覚以外の全てを総動員させて爆走する。
やがて彼は途切れた道を躊躇無く飛び越えて、
獣道すら無い傾斜の激しい斜面を駆け抜けて、
遂に炎の魔物が居た射撃位置まで到達する。
(気配がする! 居やがるな!?)
力強く大地を蹴飛ばして、
彼は上空から敵の姿を視界に捉える。
がその時、雲の隙間から月がその顔を覗かせて、
冒険者の瞳に魔物の全容を照らし出した。
「え――」
気付けば男は気の抜けた声を上げていた。
何故なら彼の眼下には、巨大な穴蔵の中には、
彼の何倍も大きな口を開けた黒い竜が居たからだ。
直後、吐き出された無数の火炎弾が
暗い空を灼き焦す。
〜〜翌朝〜〜
日もすっかり高くなった頃、
長閑な草原の道を二人の人影が進む。
否、彼らは決して『人』では無い。
親子の如く並んで歩くその影の正体は
魔物の仔ベリルとその保護者ギドであった。
「この丘を越えれば噂の『廃城』ですね
どうします? 一旦ここらで休みますか?」
「いい。それより本当に居るの、炎の魔物?」
「居てくれなきゃ困りますねぇ~
でないとシェナさんの怒りが収まりませんから!」
困った困ったとギドは笑う。
またそんな彼に対してベリルは、
怒らせたのはギドじゃん、と内心呆れていた。
それは、遡る事数時間前――
~~ベリル宅~~
「見てください二人とも! 遂に完成しました!」
何時になく声を弾ませてギドが二人を呼んだ。
彼が招き入れたのは家の地下に増設された氷室。
魔物が計画的に過ごしていくための食料保管庫だ。
ギドは御手製の冷凍室の壁に触れながら、
満足げな笑みと共に二人に語る。
「月に大人一人分。節制すればそれで十分です」
「え、そうなの?
モルガナと居たときはもっと食べてたけど?」
「それは恐らく死体の保管が出来なかったからと、
人間の感覚で補給ペースを考えていたからですね
仮に我々が毎日人間を食べなければならないのなら、
魔物のほとんどは何百年も前に餓死していますよ」
「それもそっか……」
モルガナと暮らしていた頃は
与えられた人間の死体を無我夢中で喰らった。
しかしそれが過食だったと知ったベリルは、
要らぬ苦労を掛けていたと悟り気分を落とす。
対してギドはそんな少年の機微に気付きつつも、
一切口調を変えずに捕食計画を話し続けた。
「今後は月一で最低一人、街の外で旅人を襲います
襲撃にはシェナさんも協力してくださいね?」
「えぇ、構わないわよ」
「それは良かった!ではシェナさんには有事の際の補助役も任せます。具体的には私が敵の奇襲に遭った時や、想定よりも敵が強く手間取った時などですね!幻惑の煙や格闘戦などで適宜サポートしてください。そうして捕らえた獲物は、まずシェナさんの幻惑で無力化した後、同じくシェナさんの記憶捕食で廃人にしてから運びましょう。私は索敵をしますので運搬はシェナさん、頼みます。また標的とは別の目撃者が居合わせた場合には勿論記憶を捕食出来るシェナさんの出番です。……あぁ!あとついでに平時で私が留守の際のベリルの世話も引き続きシェナさんに一任しま――」
「ちょっっっっと待てや!」
シェナは激怒した。
「残念ですねベリル
どうやら貴方の相手はしたくないらしいです……」
「別にそこは良いわよ! ……いや良くもないけど!
重要なのはそこじゃない! 私一人の仕事量!」
「現状我々しかいないのですから仕方無いでしょう?
加えてベリルはまだ幼い。適材適所ですよ」
「人材不足なら増やしなさい!」
~~~~
かくして男衆は新たな仲間の確保に赴く事となる。
第一候補は最近噂になっている『炎の魔物』。
南の廃城に棲み着いているという怪物であった。
「はぁ……せめて話の通じる方なら良いのですが……」
「あんまり乗り気じゃ無いね、ギド?」
「ええ。確かに人類への復讐に人手は必要です
が、今はとにかく『溜め』の時間でもある……
また秘密は共有する者の数だけ脆弱になります」
「計画、僕にすら教えてくれてないもんね?」
「………………聞きたいですか?」
「いや、別に良いかな」
明らかに言いたく無さそうなギドの声色に、
ベリルは気を遣い、以降は丸投げする事にした。
どの道人類との生存競争は長期戦。
今聞いた所で何にもならない難事より、
数分後には使えるであろう情報の方が優先される。
「計画にセグルアへの復讐が入ってれば何でも良い
……それより今は、炎の魔物について教えてよ」
「ふふっ、承知しました」
幼子の要望に応え、ギドは魔物の情報を共有する。
曰く、炎の魔物の正体は全くの『不明』。
存在は認知され討伐依頼も出されてはいるが、
誰も情報を持ち帰る事無く敗北している。
唯一分かっているのは、炎を使うという一点のみ。
「しかしこれは何の手掛かりにもなりません」
「なんで?」
「炎が特徴と言える魔物は極めて数が多いからです
操る、ならまだしも、火を吐く、まで数に入れると
その候補数は最早、絞り込めたとは言えなくなる」
「つまり……今ギドは無策?」
「誠に遺憾ながら!」
満面の笑みを青空に向けながらギドは言い切った。
またそれと同時に二人は目的地へと辿り着く。
その瞬間、ベリルは思わず息を飲んだ。
視界一面に広がっていたのは激戦の痕跡。
迷路の如く四方へ伸びる真っ白な道の左右は
谷底が見えないほど深く深く抉り抜かれ、
あまりにも激しいその高低差はまるでこの地が
空の上にでも浮かんでいるかのような
奇妙な錯覚を来訪者たちに植え付けていた。
そして壊れた石段の道が収束する遙か遠方には、
崩壊が激しすぎて最早剣山か何かのように
刺々しい見た目となっている『廃城』が在った。
「復習ですベリル。この土地は元々何でしたか?」
「……魔界領域?」
「その通り。廃城は前時代の最前線です」
龍の背のような細い道を進みながら、
ベリルは傷跡から当時の状況を想像する。
人と魔の戦争。こうも地形が変わるほどの激戦。
今の自分の力量では想像出来なかった情景が、
ふと目を閉じた瞬間、瞼の裏に鮮明に
浮かび上がってくるようだった。
「因みにさ? ギドはどんな魔物だと嬉しいの?」
「炎の魔物の正体が、ですか? そうですねぇ?
やはり最低でも『知性』は持っていて欲しいです」
「……無い魔物もいるの?」
「むしろ魔物はそちらが大半ですよ
そして無計画に本能のまま暴れられると我々も困る
場合によっては、処分すら有り得ます」
「処分……」
物騒な台詞にベリルは反応を見せる。
ただでさえ数の減った同族を
自らの手で殺める可能性を嫌ったのだ。
しかし同時に、年齢に反して聡い子でもある彼は
ギドの言い分にも理解を示し閉口してしまった。
――次の瞬間、二人は突然熱気を感じる。
二人の現在置は廃城の入口付近。
そして肌を撫でるその熱の出処は真下。
塵と共に突き上がる激しい突風が、
底の見えない亀裂から強い熱を運んで来た。
「隠れますよベリル!」
少年の襟を鷲掴みにすると
ギドは乱暴に彼を廃城の中へと放り込む。
それほどまでに切羽詰まっていたのだろう。
長身の魔物も屋内に避難したその直後、
彼らの居た場所は現れた巨軀によって崩壊した。
谷底から天空へ、その魔物は上昇する。
それは黒い靄に身を包まれた巨大なドラゴン。
赤い瞳と漏れ出る焔を光らせた破壊の権化だった。
「ギド! あれは!?」
「竜種ですか……大ハズレですね」
物陰に身を隠したままの状態で、
ギドは大空を飛び回る竜の様子を観察した。
どうやら彼らの接近に気付いて飛び出したものの、
姿までは捕捉出来ずに探し回っているようだ。
「知性は無い感じ?」
「はい。知性を持つほど長生きした個体は
とっくに勇者たちの手で討伐された後です」
「そっか、じゃあ……」
「ええ。帰宅の邪魔なので処分しましょう」
既にギドは愛用の剣に手を掛けていた。
その事にやはり抵抗感を覚えつつも、
ベリルもまた自陣の都合を優先し立ち上がる。
「分かった。じゃあ倒そう」
魔物の少年は黒き翼を解放した。
そして丁度いい風を背中で感じると、
そのまま流れに乗って大空へと飛翔する。
自ら竜の注意を引き付ける役を買って出たのだ。
それを理解してギドもまた動こうとする。
が、その時、彼はふと近場の壁面に付着していた
大量の『黒い汚れ』に気付いて体を停止させた。
そして指先で汚れを拭い取りしばらく観察すると、
彼は何かに気付き口元に笑みを浮かべる。
「ギド! 何してるの!? 早く来て!」
「すみませんベリル! やっぱり私は不参加で!」
「……は?」
「課題です! 単騎でソレを撃破して下さい!」
「はあぁぁ!!!?」
「必要と判断すれば助けます
大丈夫。空での戦いなら貴方は負けませんから」
笑顔でそんな言葉を残したかと思えば、
絶叫するベリルを他所にギドは
そそくさと廃城の更に奥へと隠れてしまった。
またそれと同時に彼らの喧騒に気付いた黒焔竜が、
その何倍も大きな咆哮を轟かせて襲来する。
「ふざけるなぁぁあーーーーーー!!!!」
ベリルは怒りで涙ぐみながらも
降り注ぐ火炎弾を地形を巧みに利用する事で回避した。
だが全てを避けたはずなのに熱気は彼の喉を灼き、
着弾と共に飛び散った火の粉が顔に降りかかる。
溜まらずベリルは目を瞑りそうになる。
が、幼子は反射的に動く瞼を必死に留めると、
覚悟を決めて打ち倒すべき敵を見据えた。
「っ……! やって、やるッ!」
怒りに任せてベリルは黒焔竜目掛けて突撃する。
その速度は凄まじく、彼はあっという間に
竜の懐に飛び込んでいた。
――直後、黒焔竜は口では無く体から炎弾を放った。
あまりに予想外の出来事にベリルは焦るが、
それでも彼は的の小ささを利用し辛くも避ける。
熱波を避け切れなかったのは翼だけであり、
ベリルは燃える翼にも構わず、それどころかむしろ
炎の龍が纏う黒い靄をそのまま炎翼で斬り裂いた。
甲高い接触音。確かな手応え。
燃える翼の斬撃は今のベリルが繰り出せる
最も強力な一撃だった事は最早疑いようも無い。
やがて彼は背中へと流している魔力を抑制し、
街に潜伏する時のように翼を消去する事で
それ以上の延焼を防ぐと、廃城の屋根に着地する。
転がりながらも体勢を整え素早く顔を上げると、
黒炎竜は空中にてピタリと動きを止めていた。
――瞬間、彼は竜の傷口に予想外の物を目撃する。
ベリルの一撃によって斬り開かれたその部位からは、
明らかに人工物と思われる機械の部品が見えていた。
(あれは……魔導機構!?)
動揺からベリルは硬直してしまった。
またそれとは対称的に竜の傷口は黒い煙で塞がり、
そして再び首を曲げて己の標的を視界に入れる。
直後放たれた威嚇の咆吼は高温の熱波を纏い、
只それだけで廃城に根付いた草花を灼く。
あまりにも苛烈過ぎるその熱気を前に、
ベリルは体力以上に気力が先に削られた。
そして黒炎竜がその強靱な鋼の肉体で
標的の居所に突進を繰り出した次の瞬間、
衝撃によって空中に投げ出された少年は
意識と共に戦意まで手放しかける。
(無理……だ……勝てない……!)
最大級の攻撃でも鋼の肉体はほとんど無傷。
だというのに敵の攻撃はどれも凶悪。
熱気で削られ長期戦は不利であるのに、
短期決戦をしても倒せる未来が見えて来ない。
朧気な視界に映るのは黒い塵と白い廃城。
そしてその一角から戦いを見つめてほくそ笑む、
白衣の剣士の姿であった。
(ギ……ド……)
心の中で彼を呼ぶ。
きっと口元はその名をなぞって動いていただろう。
だがそれでも保護者であるはずの魔物は微動だにせず、
少年が地上に堕ちようとも助けてはくれなかった。
その事実が悲しくて、悔しくて、
そして何よりも――腹立たしくてベリルは震えた。
(何で助けてくれないの……?)
『必要と判断すれば助けますから』
(まだ必要じゃ無いって言うの……?)
『大丈夫』
(一体何が大丈夫なの……!?)
『空での戦いなら貴方は負けませんから』
「ッ――!!!!」
反骨心を薪に、ベリルは再び開眼した。
同時に彼を狙った火炎弾が城を吹き飛ばす。
が、巻き上がった黒煙の中から天魔は飛び出し、
そして薄ら笑いを浮かべるギドの眼前を
放たれた矢の如き速度で通過していく。
刹那、二人は互いに目を合わせた。
「ギドきらい――」
「――ふふっ」
それは一秒にも満たない意思疎通だった。
しかし再び戦意を取り戻したベリルに
ギドはこれまで以上の期待を寄せる。
竜と共に再び大空へと舞い戻った少年の姿を、
彼は物陰から身を乗り出して観察していた。
「君は今まで必要以上に人間を捕食してきました
それはモルガナの無知故でしたが……嬉しい誤算」
幼き翼と黒炎竜は暗雲渦巻く天にて踊る。
戦いを先導していたのは幼き翼。
今にも崩れそうな廃城とその周辺の地形を、
少年は大胆かつ巧妙に使って逃げ続けた。
黒炎竜は、その速度に追いつけなかったのだ。
「必要以上の栄養は君の貯金となった
気付いていますかベリル? 君はその歳で、
既に人間の大人顔負けの魔力量を誇っていますよ?」
ベリルの翼は魔力の塊。
彼の宿す強大な魔力量が外部に放出された姿。
その一薙ぎは小柄な少年の体を押し、
まるで消えたかのような加速をもたらす。
その速度を、強さを、凄まじさを、
ベリルは今日――初めて『体感』した。
「君はずっと満足に飛べない環境に居ましたね
……いや、これからもきっと魔物は自由に飛べない」
黒炎竜は堪らず炎弾を乱射した。
小粒のような的でしかないベリルに当たれと願い、
地上へ、水平へ、そして上空へ向け弾を放つ。
だがそれと同時にベリルは急上昇を開始し、
また釣られて竜も彼の背中を真っ直ぐ追いかけた。
やがて二人の体は同一直線上に並ぶ。
「けどね。ベリル――」
其れは少年の誘導。空を統べる者の罠。
突如として彼らの目指す暗雲が赤く染まる。
それは先程、竜自身が放った火炎弾が
重力に引っ張られて墜ちて来た故の変化だった。
天魔はこの状況を狙っていた。
真逆の進行方向を持つ少年と炎弾との距離は
二人分の速度が合わさり急激に減少していく。
が、其処からでも天魔の旋回は間に合った。
膨大な魔力に裏付けされた速さを持つ空の魔物は、
急停止からの螺旋移動で素早く竜とすれ違う。
その結果――火炎弾は黒炎竜とだけ向き合った。
「空での戦いなら貴方は敗けない」
獲物を灼き殺そうと開けていた大口に、
火炎弾がすっぽり綺麗に吸い込まれていく。
直後――黒い竜の全身は赤く光った。
やがて十秒にも満たない僅かな時間の後に、
内部から炎上した機械の竜は爆散する。
~~~~
「お疲れ様でした、ベリル」
疲れ果てて大の字で寝ていた少年の視界に
いつもの笑顔がスルリと入って来た。
少年は彼の姿に「ムッ」と頬を膨らませると
背中を向けて小さく丸まってしまう。
「ふふっ、成長に痛みは付きものですよ」
「……結局ギドは何してたの?」
「敵の正体について調べていました」
「あぁ……機械だったね。多分人間の兵器だ」
戦闘の最中に見た物を思い出し、
ベリルは気怠げながらに言い放つ。
そこには「とっくに知ってるぞ」という
ギドへの皮肉も多分に込められていたのだが、
彼の予想に反してギドは愉しげにほくそ笑んだ。
「いえ、あの魔物の実体は機械ではありません」
「えっ?」
ベリルは驚き、振り返る。
するとギドは既に剣を抜いて数歩進み、
そして刀身の黒いその剣を何処かへ投擲した。
刺さったのはバラバラになった黒炎竜の残骸の上。
灼けて崩れた鋼の肉塊にギドの剣が突き刺さる。
「出てきなさい『煤霊』。既にタネは割れています」
死体に向けてギドはそう叫んだ。
かと思えば次の瞬間、残骸はカタカタと音を出し、
剣の真下から小さな何かを浮かび上がらせる。
フワリと優しく浮かんできたのは小さな火の玉。
黒い煤のような煙を纏う人魂の魔物であった。
「憑依生命体『煤霊』――それが炎の魔物の正体です」