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ラスボス育成観察録  作者: 不破焙
第弐號 閃滅翠聖/葬蒼凶機
56/58

弐拾陸頁目 ラストエンペラー

 ~~~~



 チョーカ帝国直系の皇族。

 その四男としてソダラはこの世に生を享けた。

 上の兄弟たちと比べて王位継承権の低い彼は

 幼い頃から帝王学とは離れたの所におり、

 政治家というよりむしろ武人としての道を進む。

 それは本人の気質とも非常に良く適合しており、

 いつしか彼は玉座への興味を完全に失う。


 否――最早それは嫌悪の域にすら在った。


 兄たちよりもいくらか才能のあった彼は、

 皇族として身内の殺し合いを間近で見て来た。

 親戚同士が牽制し合い、蹴落とし合う様を

 これでもかと見せられて来た。

 なまじ能力が高いばかりに、

 時には自分もその仁義なき陰謀に巻き込まれ、

 あわや逆賊として処刑されかねない窮地に

 立たされた事もあった。


 ソダラは醜い政争にほとほと疲れ果てていた。

 国境での対魔王軍戦で戦果を挙げても、

 むしろそれが邪魔と言わんばかりに

 口さがない者たちからの嫌がらせは続く。

 殴って終わり、が出来ない輩を

 相手にするのは面倒だ。


 故に彼は、王位継承権の放棄を宣言した。


 そこからの生活は事前の予想以上に快適だった。

 王家でありながら責任の大半から逃げられて、

 ただ最高級の住居で最高級の生活を送る。

 武人としての鍛錬や実戦は過酷なれど

 生活を程よく引き締めてくれる役割を果たし、

 心身共に満ち足りた人生を送る事が出来た。



(フン! 未だ権力に固執する俗物は愚かだなぁ

 俺は一足先に清廉潔白な最適解に辿り着いたぞ)



 齢が六十を過ぎた頃、

 特に彼が熱心になったのは後進育成だった。

 元々貴族の剣術指南はしていたが、

 更に幼い子供たちを集めて

 武勇伝と共に技を伝授するのが楽しかった。


 その中でも目を掛けていたのは

 血筋的に自分の孫にあたる双子の王子。

 いつでも一緒で仲が良く、

 共に切磋琢磨し合う可愛い子供たちだった。

 剣術においてもそれは同じで

 二人は同程度の練度まで成長し、

 阿吽の呼吸を以てコンビ技まで習得した。


 初孫の可愛さに上限はない。

 それが自分を慕っていて、

 尚且つどんどん成長していくのだから、

 もう下手な娯楽よりも楽しくて仕方がない。

 双子の王子はソダラにとっての誇りだっ――



「弟を処刑しろ」



 ――孫の成長は恐ろしく早い。

 そして、人の心の移り変わりもまた早い。

 気付けば王位継承権の真ん中に居た双子は、

 互いの存在がこれ以上ないほどに

 疎ましく感じていた。


 加えて双子の兄は皇族としての体裁や

 有力貴族とのパワーバランスに苦しめられ、

 ソダラ同様権力に興味などなかったのに

 玉座を奪い死守するために躍起になった。

 その最果てが弟の処刑命令。

 そしてその結果が――



「兄の首を城下に晒せ」



 弟による反逆と返り討ち。

 聞けば最後の直接対決での決め手は

 ソダラから密かに教わっていた

 鍔迫り合い時の崩しの体術。

 道楽で教えた、殺しの技術だった。


 そしてその弟も、

 別の王位継承権所有者によって

 いとも簡単に毒殺される。

 再び玉座は空白を招き、

 血で血を洗う権力争いが始まった。


 現在から見て、

 ほんの十数年前の事である。



(なんでこうなった?)



 原因を探し、己に問う。

 幾度となく行われた戴冠の式典会場で

 次に死ぬ皇帝の笑顔を見届けながら、

 枯れた武人は虚ろな瞳を

 濃いサングラスで隠しながら自問する。



(何故双子はあんな最期を遂げた?)



 親戚のもやし野郎が王冠を被り

 卑しい笑顔で民衆に手を振っている。

 二週間後、彼の自室で遺体が発見された。



(何故権力なんて物を欲しがっている?)



 知らない髭親父の演説を聞いた。

 かなり遠い血筋という肩書を引っ提げて、

 翌日には移動中の馬車ごと爆死した。



(何がお前たちをそうさせる?)



 絶世の美女が先王を誑かし玉座を取った。

 その腹の中にいる子供をダシに、

 血塗れの玉座に我が物顔で腰掛ける。

 そして彼女もまたいつの間にか死亡して、

 最後には十歳の子供がその『責』を負った。



「あぁ、そうか……()()だったのか」



 傘寿の齢を過ぎてようやく、

 ソダラは世の理を理解した。



「誰かがやらなきゃいけなかったのか……

 その『席』に、誰かが座らなきゃ……!」



 醜い権力争いを繰り広げていたのは

 何も欲に目が眩んだ俗物ばかりでは無かった。

 むしろそういった手合いに渡さぬために、

 自分なりに護ろうとする者が大半だったのだ。

 偶然それが最初から間違った道であったり、

 途中から邪道に墜ちてしまっただけで、

 少なくとも彼らは愚者で卑怯ではあったが

 国家を動かすその席からは逃げなかった。


 才能があったと言われてきたソダラには

 その現実がとても重い後悔としてのしかかる。

 もし自分が王位継承権を放棄しなければ、

 もし兄たちも喰い破って玉座に着いていれば

 国をもう少しだけマシに出来たのではないか。

 少なくとも子供たちが権力争いで死ぬような、

 そんな最低の国にはならなかったのではないか、と。


 そんな国になってしまったのは自分のせいだ。

 アルカイオスなんて十歳の子供に

 王位を()()()()()()()()()のは自分のせいだ。


 ――自問はやがて、自責に変わる。



「まだ、間に合うか?」



 かくして、

 帝国の青き逆鱗と恐れられた武人は、

 かつて逃げ出した政争の場に乗り込んだ。

 押し付けてしまった最低最悪な玉座の責を、

 幼子から引き受けるために。



 ~~現在~~



「けほっ、ごほっ! な、なんだァ!?」



 長い夢のような意識の混濁から抜け出して、

 ソダラは壁に凭れて咳を吐く。

 ここは帝国博覧館(パビリオン)最上層。

 手にした天命理書は彼を拒絶し、

 鮮緑の爆発を以てその無礼を罰した。


 衝撃波によって吹き飛ばされた体は

 欠損こそないが既に満身創痍。

 立つ事もままならないようなので、

 ソダラは魔力を纏い浮遊する天命理書に

 只々睨みを利かせる事しか出来なかった。



(俺には、結局資格がなかったか……!)


「ソダラ公! ご無事ですか……!」


「おうお前ら。すまん……しくじった」



 爆発から立ち直った兵士たちの注目は

 当然ボロボロの主人にばかり向く。

 だが実はこの時、この階層では、

 宰相から逃げて来た幼帝アルカイオスが

 壁の後ろから公爵たちの様子を伺っていた。


 オリベルトに下は危ないと忠告を受け、

 言われるがまま上がって来たまでは良いが

 この場において結局彼は孤立無援。

 ソダラ公を敵と認識している幼子は

 侯爵が来るのを息を潜めて待つしかない。



(それか……ベリルが来てくれたら――)


「――お。皇帝じゃん」



 そんな幼子の背後を取って、

 不遜にも話しかけて来たのは別の敵。

 赤いマントを羽織る、銀髪の青年。



「イオス兄様!?」


「じゃ、行こっか?」



 直後、容赦ない裏拳が幼帝を襲う。

 殴り飛ばされたアルカイオスは

 ソダラたちのいる大広間まで吹き飛び、

 またそれに合わせて抜き身の剣を携えて

 イオス伯もまた天命理書の前に現れた。



「イオスっ!? それに、アルカイオスも!」


「よぉーソダラ爺様! ボロボロですね?

 もしかして、あれです? 失敗しました?」


「チッ! 外様のガキが!」


「そぉんなボロボロで威圧されても

 痛々しいだけですよ。それにホラ――」



 イオスは持ち込んだ物体をソダラに投げた。

 ぐしゃりと落下したのは聖騎士の首。

 泥のような禍々しい魔力に汚されて、

 苦痛に歪む強者の亡骸の一部であった。



「ッ……聖騎士を破ったのか!?」


「メッッッチャ時間喰われましたけどね

 相性有利で辛勝。いやぁ俺にとって実質ラスボス」


「っ……怯むな掛かれぇッ!」


「ま、おかげで後は消化試合――」



 飛び掛かるソダラ兵たちを、

 イオスは己の魔術で一掃する。

 光沢のある黒い泥の激流で押し流し、

 彼は一瞬でこの場を制圧してみせた。


 それは聖騎士も討ち取った伯爵の術。

 他者の魔力を喰らって生み出される黒泥は

 やがて兵士たちの生命を喰らい尽くす。

 そこに費やす時間は、あまりに一瞬。

 精鋭たちが瞬きの間に殺された様を目撃して、

 ソダラは重たい瞼をかっぴらいて戦慄した。



「これほどまで、とは……!」


「フッ、若者を侮りすぎですよ、お爺さん」



 まだ息のあった兵が立ち上がり、

 ソダラを逃がそうと決死の突撃を行う。

 だがそれすらもイオスは容易く受け流すと、

 鮮やかな剣技を以てその首を刎ねた。


 妾の子にして、王位継承権第一位。

 赤黒き青年を帝国中枢の人々は

 侮蔑の念を込めてこう呼んだ。

 穢れた血の伯爵――『赫衊伯(カウント・バスタード)』と。



「さて」



 直後、イオスの興味がアルカイオスに移る。

 満身創痍で動けそうもない老いぼれよりも、

 まだ行動可能な現行勢力の象徴を優先した。


 それに気付いたアルカイオスもまた

 すぐに逃げようと身を捩るが、

 動けるイオスの速度に敵うはずもなく、

 即捕まり、幼帝の首に剣が振り下ろされる。



「ッ――!!」



 甲高い音が響き渡り、剣が止まった。

 伯爵の刃はアルカイオスの首には届かず、

 その直前で別の刃物によって防がれた。

 護ったのは、満身創痍のソダラ公。



「……何故?」


「がっ……ふぅーッ! あたりめぇだろ

 こちとら元々宰相の首、一点狙い……!」


「っ!」



 帝国の青き逆鱗と謳われた猛将の大剣が

 赫衊伯の剣を押し返す。

 そしてソダラ公は血を吐く喉を酷使し

 帝国を脅かす小僧に怒鳴った。



「ジジイより先にガキが死ぬ国はもうたくさんだッ!

 俺の政権交代(さんだつ)を、邪魔すんじゃねぇよッ!!」


「「っ――!?」」



 老兵の魅せた信念の咆哮に、

 アルカイオスもイオスも同時に怯む。

 それは追い込まれた猛獣が如き覇気。

 その思いの乗った拳はイオスの顔面を直撃した。


 殴り飛ばされたイオスはよろめき、

 その隙にソダラは再び大剣を強く握りしめる。

 もうほとんど無い余力を振り絞り、

 彼はイオスの首を狙う。

 が――



「意外だな。そういうタイプでしたか!」



 イオスは満面の笑みで猛獣(それ)と斬り結ぶ。

 単純な馬力で言えばソダラ公が優勢。

 しかしやはりボロボロの体では

 その優位が明確な差を生む事は無く、

 むしろ速度で勝るイオスの連撃と

 そこに上乗せされた黒泥の妨害とが

 徐々に徐々にソダラ公を追い詰めていった。


 斬り合いの最中に斬撃の余波が柱を砕き、

 床にはどろりと黒泥が溢れ出して

 アルカイオスの逃げ場もついでに塞ぐ。

 一進一退の攻防はやがて安全な足場を奪い、

 遂にソダラ公を壁際にまで追い詰めた。



(いや、だがまだ勝機はある!)



 歴戦の猛者は窮地にこそ活路を見出す。

 足場が減ったのは相手も同じ。

 むしろ動きの鈍重なソダラにとっては

 相手の速さが潰せるので好都合だ。

 満身創痍でも、単調な動きなら見切れる。

 下段からの突き上げ。中段での横薙ぎ。

 そして次は――



(上段からの振り下ろし!)


「知ってたさ。見切られてるのは」


「!?」



 突き出されたのは再び中段からの突き。

 これまでとは全く違う動きのパターンで、

 イオスの切っ先がソダラ公の腹を刺した。

 その痛みで老兵は大剣を手放し、

 滝汗の浮かぶ口元から血を吐き出す。



「残念っしたね。俺、

 本気で相手を舐める事だけはしねぇんすわ」


「あぁ、そう……結構なこった」



 だがソダラもタダでくたばる気はなかった。

 彼はほぼ素手の両手でイオスの剣を掴むと

 抜けないように腕力だけで固定した。

 掌から滴る血。腹部から噴き出す血。

 しかしそれら全てを無視して

 彼はイオス伯を押し留める。



「アルカイオスッ――!!」


「っ!?」


「天命理書を持ってさっさと行けぇ!」


「チッ、そんなに俺の国は嫌ですか?」


「ああッ! 御免被るねッ!

 お前はここでしばらく俺と――」


「いや。それも御免被る」



 イオスは親指で、自身の剣に着いた機構を弄る。

 それは剣に付いたギミック暴発防止用ロック。

 カチャリと音を立てると同時に伯爵は、

 ソダラを突き刺す刀身から小剣を引き抜いた。

 それはマトリョーシカの如き奇巧兵器。

 刀の中に更に一本の剣が納められた子母剣だ。



「なに!?」


「さらばだ、ソダラ公!」



 再び自由となった刃を振るい、

 イオスはソダラ公の首を断とうとした。

 が、その瞬間、再び天命理書が異変を示す。



「「っ!?」」



 待ち、の状態でずっと放置していたからか、

 或いはその他の要因があったのか、

 ともかく龍脈の力を宿した天命理書は

 更にその勢いを増加させて危険な状態に入る。

 衝撃波はこの場に居る全員を揺らし、

 そして地を這う黒泥の全て浄化し消し去った。


 が、それはあくまで余波。真の異常はその直後。

 幼き皇帝と王位継承権所有者たちが

 畏怖の念を以て固唾を飲むその最中、

 天命理書は轟音と共に突如――飛翔した。


 それは博覧館の天井を容易く突き破り、

 空の彼方へと飛び去ってしまう。



「なッ!?」


「にぃーッ!?」



 〜〜少し前・万博中央部〜〜



 帝国博覧館(パビリオン)へと続く真夜中の大通り。

 其処を博覧館とは真逆にとぼとぼと進む影が一つ。

 血の付いた鎌槍を引きずって音を鳴らし、

 脱力感の乗った背中を丸めて歩くのは黒髪の少女。

 エルザディア聖騎士団長、ラルダ・クラックだ。


 彼女は好感を抱いていた少年ベリルが

 魔物と判った瞬間に即、叩いた。

 それは聖騎士、否人間として正解の行動で、

 彼女自身その事に関しての後悔はない。


 だが、だがそれでも彼女は疲れた。

 精魂果てて気怠げに、亡者の如く大路を歩く。

 途中各勢力の兵士と遭遇した気もしたが、

 それらは彼女がラルダだと気付くと逃げ出し、

 また魔導機構(マシナキア)は豆鉄砲を撃った後に

 彼女の無意識な反撃によって粉砕される。


 人界最強軍団の長の道を阻める者はいない。

 少なくとも武力を以ての阻害は不可能。

 故に、彼女を止めたのは悪意無き呼びかけと

 妙に腹を刺激するラーメンの香りだった。



「食べてくか? 聖騎士団長さん」


(……誰?)


「結局やけ食いが一番気持ちいいぞ?」



 誘われたのはチョーカ料理の屋台。

 荷車の中に小さなカウンターがあるタイプ。

 しばしの沈黙の後、ラルダは暖簾を潜る。

 其処には調理を行う一機の魔導機構(マシナキア)と、

 それが提供する食べ歩きサイズのラーメンを

 客席で啜る青髪の少年の姿があった。



「ここの店主は死んでたが、材料はあったんでね

 ……結構いけるぞ、ラルダ・クラック」


「そ……じゃあ一口いただこうかしらね

 セグルアの鬼才、アクア・メルディヌス」


「うぶっ!? 俺の事知ってたの?」


「エルザディアと近い国の情報は仕入れてるわ

 ――『極位階梯』の最年少記録保持者なら猶更ね」


「ああそう、身の振り方には気を付けなきゃな」



 嘲笑するように軽く吐き捨てると

 アクアは再び麺を啜り出した。

 そんな彼に最低限の警戒は残しつつも、

 ラルダは眼鏡を外して髪を耳に掛けた。

 並べる品はラーメン、白米、水餃子。

 心に栄養を補充して気力を回復させる。

 聖騎士団長が食事にがっつく姿など

 本来人前で見せて良い物でも無かったが、

 今はただ、彼女は精神の安定に努める。



「ぷはぁ……さて、そろそろ()()?」



 眼鏡を戻すと同時に向けられた言葉に、

 先に食べ終わっていたアクアは

 空っぽの容器の底を見つめて固まった。

 肯定も否定も、何故と問う事もせず、

 ラルダの次の言葉を待っていた。



「貴方でしょ、暴走した魔導機構(マシナキア)の主

 あれって私たちにとって一番の敵だから」


「……」


「貴方の目的は、一体何?」



 ラルダは剣を抜き、アクアの首に向けた。

 が次の瞬間、彼女の意識は逸れる。

 丁度そのタイミングで天命理書が

 帝国博覧館(パビリオン)を突き破って空に飛び出したのだ。

 眩い閃光が一直線に空へと伸びて、

 ラルダはその轟音と閃光に視線を奪われる。



「あれは、いっ――」


「――俺の任務は強者の足止めだ」



 直後、彼女の脳天に銃弾が直撃した。

 超至近距離でアクアが発砲したのだ。

 衝撃で彼女は頭を大きく後ろに逸らし、

 また同時にアクアは距離を取ると

 敵真横の給仕魔導機構(マシナキア)を自爆させる。


 爆発は確かな衝撃と黒煙を生み、

 散らばった屋台の破片がパラパラと飛び散った。

 が、その煙幕の中から当代の聖騎士団長は

 五体満足の状態で歩み出る。



「ちょっと、()()()()()()()()()じゃない」


「メシで安全に時間稼ぎしたかったんだけどな

 お前と真正面から戦っても勝てる気しないし」


「あらそう? その割には結構やる気じゃない」



 アクアは背中から複数の機械腕を生やし、

 また両手には重厚な武装を装着する。

 それらは瞬間的に青い紋様を浮かべて、

 ラルダにも匹敵するレベルの

 高い魔力出力を誇っていた。



「解き放った魔導機構(マシナキア)たちは各国の客人連中に

 ちゃんと十分な恐怖を抱かせられてたか?」


「ええ、きっと彼らは帰国後セグルアも糾弾……

 もしかして――それが()()()()()()()?」


「勘が良いな。もっと喋ろうぜ?

 俺は、あの()()()()()()()()()()()んだ」


「そ。じゃあ時間稼ぎに付き合ってもう一つ

 貴方の雇い主は誰? どの王子?」


「ああ、それね――」



 ~~帝国博覧館(パビリオン)・最上層~~



 第七層の外壁をドカンと突き破り、

 天命理書が消えた間に新たな侵入者が現れる。

 乗り込んで来たのは白亜の武装車両。

 神代兵装『オル=ヴァリス』。即ちナバール王だ。



『いよーイオス! まだ生きてっか?』


(ボルダーオ四世っ、直接乗り込んで来やがった!)


「大胆な登場ですねナバール王。俺は無事です」


『そうかいそうかい、そいつは良かった!

 ……と、言ってられる状況でもねぇか?』


「ええ。天命理書が消えました」



 ゴールである天命理書の消失。

 その事実は常に薄ら笑いを浮かべていた

 イオスの表情から余裕を消した。

 だがそれでもまだ手はあると、

 王位継承権第一の青年は熱弁する。



「ここにはソダラとアルカイオスがいます

 まずはここでこいつらを殺す」


『ライバル全員ぶち殺しての玉座掌握か

 おう、悪くねぇ!』


「では瀕死のソダラの方をお願いします

 俺はアルカイオスを――」


『――が、()()()()()



 オル=ヴァリスの砂鉄操作。

 それによって形成された黒い刃は、

 背後からイオスの背中を突き刺した。



「なッ!?」


「はぁ!?」


「……え?」



 王位継承権所有者たちは

 当のイオス本人も含めて全員が驚愕する。

 しかしそんな彼らの絶句を断ち切るように、

 ナバール王の笑い声が響き渡った。



『ダッハハハハ! 悪ィなイオス!』


「な、ぜ?」


『ああ? そりゃあお前ぇ、当然だろ?

 妾の子であるテメェが皇帝として即位するにゃあ

 天命理書による保証が絶対条件だった!』


「っ……!」


『それがなくなっちまった今のお前には、

 もうなぁぁんの価値も無いッ!』



 そう吐き捨てると同時に

 ナバール王は砂鉄の剣を振り払って

 イオスを屋外へと放り投げた。

 背中から刺され、最上層からの放出。

 彼が助かる見込みは限りなくゼロに近いだろう。



「ぐっ……おいナバール王ボルダーオ四世……!

 てめぇ、ちと短絡的すぎやしねぇか?」


『あ? どういう意味だソダラ公爵』


「イオスは帝国内でのお前の唯一の味方だろ

 奴を切れば、その後仮に誰が皇帝となっても

 お前は拒まれる事になるぞ?」


『ああそういう話ね。ご心配無用!

 何故なら帝国に――次の皇帝は現れない』


「は?」


『滅ぼした後の大地は好きにしていい

 そういう認識でいいんだよな、新協力者?』


「――ええ。構いませんよ」



 正面入り口から、それは堂々と現れた。

 愛用の緑ローブの尾を地に這わせて

 片手に血の付いた剣を携え、笑顔で。


 三十代前半だが立派に蓄えた顎髭からは

 男らしさや頼もしさが演出されており、

 同時に肌艶も良く整った甘いマスクからは

 底知れない親しみ易さが滲み出ている。

 それは王位継承権第三位にして、

 孤児院等にも多額の出資をしている文化人。

 現皇帝アルカイオスの従伯父兼、教育係。



 ~~~~



「俺たちの雇い主は

 ――ネーロ・(ツァイ)・パウロ・フル・オリベルト侯爵だ」



 ~~~~



「先、生……?」


「ナバール王。間違っても幼帝は殺さぬように

 何やら面倒な呪いがあるようですので、

 衰弱死するまで監獄塔で幽閉します」


「っ!? なにを言って……!」


「そんな怖い顔をしないでおくれアルカイオス

 いや――この腐った国の最後の皇帝(ラストエンペラー)



 その言の葉に敬意はない。

 あるのは嘲笑混じりの侮蔑の念と、

 これから死にゆく国への最大限の誹謗。

 そして、彼は連なる台詞の末尾をこう締める。



「我らは甘く、そして冷たい……」


「……!」


「僕は――『氷令院』だ」



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