弐拾壱頁目 ベニザクロ
魔物――
其れは単なる害獣に非ず。
其れは人類史上最大の敵対者。
どこか一国だけで対処出来るはずもなく、
人類全体で立ち向かうべき共通の敵。
中でも統率の取れた魔王軍は人とは別種の、
知性ある侵略者の集まりだった。
魔王軍の基本戦術はシンプル。数で押す。
繁殖力の高い種族が血肉の荒波となって
まずは敵の魔力と体力を削り、
疲弊しきったその者を真の強者が叩くのだ。
真の強者。即ち、魔王軍の幹部レベル。
末端は各砦を守る大型の魔物から始まり、
中堅は各種族の族長やその補佐レベル。
そして最上は――魔王直下の『四天王』。
魔界最大。暗黒元帥『オブシディアン』。
魔眼輝く紅一点。傾国の『セルス』。
果て亡き混沌。終滅卿『ジプサム』。
呪いの碩学。嘆きの『アルバ』。
多くの冒険者パーティは初動で食い破れるし、
やや強いパーティでも強者が倒してくれる。
例え相手が一国の軍隊になったとしても、
数の利は基本的に魔物が取っていた。
そう――数の利。
元来、魔物の強みは基本的にそこにある。
これは現代を生きる魔物たちには無い強み。
そこに更なる強者を束ねたのが魔王軍であり、
長らく魔王が君臨してきた由縁でもあった。
そんな魔王軍の基本戦術を、
今、この帝国万博で再現せんとする輩がいた。
「避けろレオナルド!」
聖騎士の声が響く。
直後、不気味な駆動音と無数の炸裂音とが
大地を叩き割りながら彼らに迫った。
溢れ出るのは機械生命体の群れ。
犬を模した物、鳥を模した物、単純な兵器の物。
姿形も様々な兵器が一個体の如く列を成し、
二人組の聖騎士を狙って銃器を放った。
しかしそれはあくまで誘導或いは囮。
本命の一機を立たせるための単なる前座。
陣営入り乱れるこの帝国万博において、
唯一無差別攻撃を続ける魔導機構軍は
魔王軍の基本戦術を再演する。
「先輩っ、上ッ!」
「ッ――来るか!」
飛び出して来た『危険個体』に狙いを定め、
巨大斧を担ぐ聖騎士が構えを取った。
しかしそんな彼の四肢を
周囲に散らばる残骸たちの腕が掴み、
聖騎士の反応を僅かに遅らせてしまう。
――しまった、という声が消えた。
代わりに轟いたのは鋼鉄が落ちた破壊音。
立ち上る砂煙が晴れたその後には、
大の字でクレーターの中央に倒れる聖騎士と
その上で立ち上がる『危険個体』の姿があった。
右腕には聖騎士の鎧も貫く鋭利な大刃が
そして左腕には歯車の飛び出た巨大な盾が、
まるで籠手かのように肉体と接合され、
全身には真鍮らしき黄金の装飾と
無数の歯車で構成された外骨格が伺えた。
明らかに機械。明らかに魔導機構。
体の一部を覆う鱗と呼吸する皮膚が無ければ、
レオナルドもそう断定していた事だろう。
(つまりは……機械化した魔物って事か!
冒涜的、というかそれ以前に禁忌の類だろ!)
直後、レオナルドにも危険個体の凶手が迫る。
クレーターから跳躍一回で距離を詰めると、
兜も無い青年の眉間に大刃の刃先が迫る。
が、流石は素顔を晒せる騎士というべきか、
神政法国の中でも特級のエリートは
迫る刃を手にしたレイピアで見事に弾く。
彼はそこから更に追撃まで狙っていたが、
それは危険個体が盾に着いた歯車の隙間で
レイピアの刀身を巧みに折った事で防がれた。
代わりに食らわされた肘鉄二回が、
無防備なレオナルドの顔面を赤く染める。
そうしてよろめく彼の背後から、
他の魔導機構たちが一斉に襲い掛かった。
先陣を務める一部の個体からは、
危険個体を似た魔物の皮膚も視認出来た。
(複数いやがる、のか……)
鼻から血を噴き出しながら
レオナルドは背中から地面に向かう。
無力な彼の背を、雑兵たちの刃が狙う。
「――なら一機でも多く削っとくか」
背中が地面に叩きつけられるその寸前、
青年の身体は反射的に弾けた。
両手が大地を押し、背を反らして弧を描き、
レオナルドは見事なバク転を決めていた。
――否、それだけではない。
彼は迫る敵の体をも土台とすると
鋼の軍勢の上を飛び越えてその背後を取った。
懐より、愛用の二丁拳銃を取り出しながら。
「技術革新は、お前らだけの特権じゃねぇぞ?」
歯車の意匠が施された黄金銃が、
輝く光の弾丸を解き放って
機械たちの動力源を正確に撃ち抜いた。
威力は武器由来なれどその精密性は彼の技。
エルザディアの若き精鋭はその後も
圧巻の身のこなしと見事な射撃技術で
瞬く間に雑兵どもを駆逐する。
彼の弾丸を見切って反撃を与えたのは
やはり先程の危険個体のみだった。
(ぐッ!? やはりコイツだけは別格……!
他との違いは素体の性能差か?)
「グォォオオオオオオ!!」
「へっ……! どっちだって構うもんかよ!
どたまブチ抜きゃ全部同じだろうが!!」
レオナルドは自身に掴みかかる危険個体の
その頭部に銃口を突き付けた。
だが丁度その時、彼は視界の端に
先程殺されたと思った先輩騎士の姿が映る。
しかしその動きは明らかに援護ではなく、
後輩を何かから庇わんとする動きであった。
「避げろッレオ゛ナルドォオオ!」
「!?」
先輩騎士が青年を突き飛ばし、
危険個体から彼を引き剥がした。
そしてその直後、危険個体諸共に
真横から白い暴走車が突っ込んで来た。
「なんだと!?」
それはあまりにも一瞬の出来事で、
だからこそ強烈に脳裏に焼き付いた。
光を拒むように鋭く反射する白銀の外殻。
飛翔のためではなく威圧のために在る刃の羽。
機体全体は有機的な曲線と幾何学的な鋭角が混在し、
金と橙の導線が絡みつくように走る胴体には
祭具にも似た神聖さが降臨している。
ナバール王が手繰る神代兵装『オル=ヴァリス』だ。
『おぉっと!? 何か轢いちまったか!?
ハーッハッハッ! 俺様の進路にいるのが悪い!』
(超古代文明兵器、ナバールか!? いやそれより!)
レオナルドは轢かれた騎士に駆け寄った。
しかし今度こそ、その息は途絶え
物言わぬ肉塊へと変わり果てていた。
本来ならば聖騎士の死亡は大事件。
若い騎士にとって初体験の出来事だ。
が、そうは言っていられないのが現状。
ショックで固まっていた彼の隣で、
先輩騎士と同じく暴走車に引かれた
危険個体が立ち上がった。
(こいつ! なんて硬さだ!)
レオナルドは再び二丁拳銃を構える。
だが危険個体の興味は既に彼にはなく、
去り行く暴走車の背を黙って見続けていた。
かと思えば、危険個体は突如として、
それを追って駆け出した。
一瞬の安堵を覚え、
聖騎士は思わず胸を撫で下ろす。
だが優秀であるが故に彼はすぐに察した。
ナバール王の暴走車と機械化魔物の危険個体。
彼らが向かったその先に、何があるのかを。
「――! まずい、この方角は!?」
~~~~
最初に気付いたのはギドだった。
突出したヘリオとも
そして近場で共闘するセルスとも離れて、
一人屋根の上で北限解放軍を斬っていた所、
遠方から迫るその存在を目撃した。
白銀の外殻、刃の羽。
ナバール王の超古代文明兵器である。
「この方角、狙いは公国博覧館ですか」
首を絞めあげていた敵兵を投げ捨てると、
白衣の魔物は屋上から躊躇なく飛び降りた。
そして屋根伝いで一気に距離を縮めると、
その黒刀で白亜の装甲に斬りかかる。
オル=ヴァリスはその攻撃に火花を散らす。
(硬っ、剣技だけでは無理ですね)
『なんだぁ!? てめぇはよぉ!』
刃の羽が駆動して、間近のギドに斬りかかる。
ギドはそれを難なく回避して見せたが、
今度は両羽の間で黒い円環が浮かびあがり、
円を形作っていたその黒い粒子が
まるで触手のようにギドの腹を打ち抜いた。
白衣の魔物はそのまま宙を飛び、
建物に激突して砂煙の中に消える。
しかし狙っていたのか否か、
ギドはそのまま敵の視界から消えた。
『? 逃げやがったか? 何だったんだ?』
刹那の攻防では魔物とは悟られず、
ナバール王はすぐにギドへの興味をなくし
再び公国博覧館がある方角を進む。
そしてそんな敵の背中を見送って、
ギドは満面の笑みで再び姿を現した。
「あーあー、大変ですねぇ大公陛下?」
心底楽しそうにギドはそう呟いてほくそ笑む。
彼の狙いは大公オスカーに迫るその脅威を
わざと見逃す事だった。
「私は一応戦いましたから、これも致し方――」
しかし、策士気取りの魔物を罰するように、
別の脅威が彼の背後を陣取った。
「――え?」
それはナバール王を追ってやって来た異形。
機械化魔物の中の危険個体。
ギドはその存在に気付いて目を丸くした。
そして彼の姿を認め、思わず口が動き出す。
「ジプサム……様……?」
~~~~
日没から約一時間後。
最短直線距離をブチ破り、
神代兵装が公国博覧館に到達した。
建物を破壊しながら進む事で警備網の背中を突き、
周辺の保守派帝国兵は一瞬で薙ぎ払われた。
次に兵装へと立ち向かったのは
雇われの冒険者たち十数名。
しかし彼らが公国博覧館に居たのは
ほとんどが避難目的。
魔王軍滅亡から十五年以上たった今、
まともな戦闘経験を持つ者の方が稀だった。
そんな状態なので戦いになるはずもなく、
むしろ半錯乱状態の会話内容から
避難民たちの位置情報が漏れてしまった。
(はんッ! 張り合いもねぇ!)
コックピットの中でナバール王がニヤリと笑う。
装甲内は全方位が視認出来る状態で、
兵装の索敵機能にも
避難民たちの生体反応が映し出された。
がしかし、ナバール王はそんな物に興味はない。
この場に来た彼の狙いは、彼の標的はたった一つ。
王位継承戦と化した帝国万博という混乱下で、
消しておきたいたった一人の重要人物。
言うまでもなく、オラクロン大公オスカーである。
(仮にチョーカが取れずとも、
オラクロンが落ちればその後はどうとでもなる!)
一国の王は、最初から戦後を見据えていた。
そして生体反応と冒険者たちの発言から
オスカーの位置を正確に割り出すと、
またも最短距離、最高速で車輪を回す。
~~~~
「ッ――!?」
施設内の奥に細長い一室にて、
大公は迫る脅威を前に飛び退いた。
彼を警備していた親衛隊員は位置が悪く、
白亜の装甲が壁を突き破ると同時に絶命する。
そして瓦礫と石礫が蝋燭の火を消し去り、
室内は月明りのみに照らされた闇の空間と化す。
「っ……随分とやかましいノックだな」
『居留守を使われちまったら溜まんねえから、な
見つけたぜ。オスカー・フル・ビクスバイト』
(反響で聞き取りずらいが……この声、この状況
考えるまでもなく乗り手はナバール王か)
『昼間や前夜祭で見た連中が居ねぇな?
あれか? お前らはお前らで暗躍してんのか?
ま、お陰でこっちが楽でいいけどよ!』
一人の人間に対し、過剰な兵器の刃が向いた。
『大した軍事力もねぇくせに
小賢しくも三大国を相手に足元見やがって
テメェのその傲慢さが敗因だ』
(傲慢、か)
羽の合間で、黒い粒子の塊が渦を巻く。
それはバチバチと紫色の雷撃を纏い始め、
やがて大公を狙うエネルギー弾へと変わった。
そんな閃光と衝撃に晒されながら大公は
――フンと不遜に鼻を鳴らす。
「私のこれは信望だ」
『ハッ! ほざけぇ!!』
禍々しい雷電を纏う黒弾が、
生身のオスカー目掛けて解き放たれた。
それは狂いなく標的の眼前に迫り、
そして――
「せぁあ!」
――割り込んだ何者かの腕の一振りに弾かれた。
真横から速度を加えられてたエネルギー弾は
標的を見失い崩壊した壁から
外へと抜け出し爆風へと変わる。
操舵席よりその一部始終を見届け、
ナバール王はゾッと背筋を凍らせる。
何故なら弾を弾いたその人物もまた生身で、
防御に使って衣類が破れたその腕には
何の装備もついていなかったからだ。
(肉体強度だけで弾きやがった!?)
「早かったな。親衛隊長」
ナバール王とは対照的な落ち着いた口調で
大公はその人物の役職名を口にする。
直後その巨漢は躊躇い無く敵へと駆け出し、
刃のついた羽の一枚に飛びついた。
「いいえ陛下! 遅くなり申し訳ございません!」
(グっ! そういやこいつが居たな!)
「このガラクタは! 私が処分しておきます!」
(親衛隊長――『武神』ガネット!)
速度と自重のみで神代兵装を傾けて、
ガネットは敵車両の態勢を崩す。
そして獣の如き咆哮と共にそれを担ぐと、
屋外に向けて景気よく投げ飛ばした。
遠投と回転による衝撃に晒され、
コックピットのナバール王にも負荷が掛かる。
幸い、兵装の態勢維持機構によって
そのまま再起不能という無様は回避するが、
次にモニターに目を向けた時に彼が見たのは
背丈の数倍はある瓦礫を持ち上げ
月を背にこちらに飛び込む武神の姿であった。
「――『紅石榴』ッ!」
投擲された岩石はあまりの速さに赤く染まり、
見る見ると体積を減らして一本の光の筋となる。
最早それは高出力魔法や光線銃の類。
生身の人間がその体一つでビームを撃った。
困惑が先に勝ち、ナバール王は反応が遅れる。
代わりに防御したのは自動防衛機構。
対攻城兵器用の防御プログラムが走っていた。
(マジか……!? まさかこれほどとは!
とんだ傑物を抱え込んだなオスカーめ……!)
(一気に攻める! 反撃の隙はやらん!)
(だが悪ぃな。それでも勝つのはナバールだ!)
懐へと果敢に飛び込むガネットに、
刃も砲撃もきっと間に合わないだろう。
やがて武神の拳に溜められた魔力が熱を帯び、
橙色の闘気に輝く鉄拳と化した。
が、その拳が振り降ろされる事は無かった。
ガネットの全神経が前方へと向いたその時、
兵装に操られた黒い粒子が彼の腹を貫いた。
「ヅブ!? がぁ、これは!?」
『神代兵装「オル=ヴァリス」……
その最大の武器はァ、この砂鉄操作だ!』
「砂鉄だと……!」
気付けば兵装の後方には
まるで仏の後光が如き黒い紋様が浮かんでいた。
その一粒一粒が全て砂鉄なのだとすれば、
ガネット一人では手に負えない量がそこにはある。
この事実が相当に堪えたのか、
力の抜けた両膝が容易く地面に付いた。
『ハーハッハッハッ!
火力は人外じみてたが耐久力は人並みだったな!』
「こんな、所で……」
『あー立つな立つな! お前は何やるか分からん!
恨み節すら残さず死ねッ!』
火力よりも速度を重視し、
ナバール王はアクセルを踏み抜いた。
このままガネットを轢き殺す腹積もりだ。
遊びも無く、派手さも無く、故に確実。
そう思われた突進を、碧い魔法陣が防御する。
『チッ、今度はなんだぁ?』
「――困りますね〜何処かの国の誰かさん
共に弱者を保護する役目の戦士を潰されては」
『ヒュー。てめぇ……枢機卿か?』
「はい! 神政法国エルザディア枢機卿
アメル・ディスト。以後お見知りおきを――」
深々と頭を下げたのは
紫髪と褐色の肌を持つ胡散臭い聖職者。
モノクルより覗く瞳は嫌らしく三日月を描き、
笑みを浮かべた口は今にも殴りたくなる。
が、今の彼はガネットにとって味方。
エルザディア聖騎士団は中立を守るべき存在だが
それはあくまで国内のいざこざに対してのみ。
「各国の避難民が集うこの公国博覧館を襲うとか
議論の余地も無く我々の介入案件ですよ」
「枢機卿……! 避難民の護衛は!?」
「ウチの可愛いアイリスに任せてあります
そもそも、最大戦力の貴方が急に飛び出したので
何事かと思って付いて来たのですよ?」
「うぐ、それは失礼」
「ホラじっとして。私の術ですぐに治療します
……ほー? 急所は辛うじて避けれてますね?
これならまだ貴方に前衛を任せても良さそうだ」
「は、えぇ!?」
「当たり前でしょう? ワタシ、プリースト
何よりホラ、大公陛下もご覧になっておいでです」
「――!」
枢機卿が示す方向には、
確かに戦いを見守るオスカーの姿があった。
親衛隊長ガネットの忠義を捧げる先。
守るべき存在を再確認し、武神は立ち上がる。
エルザディア枢機卿アメルと、
オラクロン大公国親衛隊長ガネット。
陣営を越えた二人が白亜の戦闘車両の前に並んだ。
「さぁーて!
ノコノコ前線に来ちゃったからには頑張るぞー!」
『はぁ……いいぜぇ。二人まとめて相手してやる』
「――笑止」
白亜の車体が砂鉄を纏い、唸りを上げて飛び込んだ。
吹き荒ぶ黒き砂嵐に映るその姿はまるで異形の獣。
その突進を枢機卿はまたも結界で押し留め、
彼の背後から飛び出したガネットが拳を叩きこむ。
車体は揺れ、大きく後退し、再びエンジンを噴かす。
尚も追撃をやめない二人の影が重なり迫るが、
孤独な操者はアクセルを踏み抜く事で
その全てを正面から受け止める覚悟を示した
『オラオラ潰れろ! お前らの次はオスカーだ!』
「貴様なんぞ、大公陛下には指一本触れさせん!」
「へぇー? 車旅の目的地は国盗りなんですね?
なんて盗人根性。そのお車も盗難車ですかぁー?」
『ハッ! なーにを寝ぼけた事言ってやがる?
そもそも国なんざぁ盗ってなんぼの景品よ!』
大地を抉るドリフトが、強者二人を押し退けた。
『王族ってのはなァ!
建国時に一番強かった盗賊の名ダァーー!!』
そして再び充填されたエネルギー弾が放たれる。
枢機卿は即座に防御の構えを取ろうとしたが、
その肩を叩き、前に出たのはガネットだ。
彼にとってはエネルギー弾は一度見た技。
もう既に、技の急所は捉えていた。
「お返しする――『黒朱雀』!」
エネルギー弾に沿って両手で逆回転を加えると、
放たれた光弾は真っ直ぐ砲手の方へ逆流した。
反射という想定外の攻撃にナバール王は動けず、
まんまと真正面からその攻撃は着弾した。
超古代文明の兵器は同じく
超古代文明の兵器でしか傷つかない。
その例に漏れず白亜の装甲にもダメージが入る。
が、そこは流石、
ナバール王が自ら搭乗する特別な機体。
反応できていない乗組員に変わって、
最適な回避行動で被害を最小限に抑えていた。
「ダメか……!? もう今以上の火力は……」
「ふうむ。ガネット殿。ここは一つ――」
攻めあぐねるガネットたちと同様に、
ナバール王もまた想定以上の苦戦に眉を顰め、
操舵席の中で深々と深呼吸をしていた。
今彼らがこうしている間にも
王位継承権所有者たちは天命理書を目指す。
イオス伯の擁立を目論むナバール王にとって
こちらもぜひ顔を出したい重要イベントだ。
早い話が、こんな奴らに時間をかけたくない。
『反動がちと怖ぇが……一撃でブチ抜こうか!』
刹那、オル=ヴァリスの色が変わる。
纏うエネルギーの雷電が紫から赤く変わり、
血管のように装甲の上を走る装飾から
大量の光の粒子が放出された。
それは夜中であっても眩い光であり、
思わずガネットたちも目を逸らす。
が、体までは逸らせない。
何故なら敵の目論見を看破したからだ。
「エネルギーの充填、つまりは……!」
「ええ。十中八九、我々ごと大公を消す気だ!」
彼らの推測を肯定するかのように、
機体背後の推進器が音を立て始めた。
狙うは突貫。先方は刃の羽。
紡錘形の機体に更にエネルギーを纏い、
他の追随を許さない突破力を得た。
そして――
『穿てや! オル=ヴァリス!!』
白亜の槍が加速する。
それは最早結界一つでは防ぎきれない矛。
しかし避ければ背後の博覧館ごと
大公が消し炭にされるだろう。
退くも進むも叶わない。無策ならば――
「今だァ! 枢機卿!」
既にガネットらは勝ちの算段を立てていた。
即座に枢機卿は敵に対して結界を発動する。
が、今度のソレは些か角度が不自然。
まるで車輪を掬うような傾斜を描いていた。
「防げないなら、進路を変えます」
『なにぃ!?』
圧倒的な速度はナバール王ですら制御不能。
枢機卿の展開した結界に車輪は乗り上げ、
あっと言う間に機体は空中に飛び出した。
そして無防備となったそこを狙って、
トドメを刺しに来たのはこの男。
『武神ガネット! ……ッ、なにするものぞ!
てめぇの火力じゃこの機体はぶち抜けねぇ!』
「フン。ぶち抜かずとも、勝利は出来るさ
この――天空の戦場ならな!」
彼の言葉に全てを察した頃には時既に遅し。
ガネットは機体にある装飾を掴み、
肩に担いで狙いを定めた。
そして――
「――『紅石榴』ォ!!」
ナバール王の乗る神代兵装を、
帝国万博の外に向けて投げ飛ばす。
龍脈の力で空中に飛ぶ万博会場からの除外。
即ち、場外勝ちである。
『なぁ!? ふざっ、ふざぁッ!』
「貴様には地上がお似合いだ、砂漠の王よ」
『ふざけんなぁああああああああああ』
闇の夜空に、白亜の暴走車は消え失せた。
ナバール王の襲撃を退けて、
ガネットは館内の大公に向けて跪く。
(御身の無事こそ、我が誇り)
対する大公も、忠臣の義を認め
そっと小さく手を挙げる。
だがすぐにその手を間近の机に移すと
彼は容器に注がれた液体を口にした。
いつも飲む、赤紫色の飲料である。
「まだ死ねん、か――」




