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ラスボス育成観察録  作者: 不破焙
第弐號 閃滅翠聖/葬蒼凶機
44/49

拾肆頁目 龍璇殿

 それは今から数十分ほど前の出来事。

 ベリルは大公の指示によって

 前夜開会場から追い出さてしまう。

 子供はもう寝る時間だから、ではなく、

 彼が大公の忠告を無視してしまったから。

 問題を起こすなという命令だったのに、

 聖騎士団長ラルダと踊ってしまったからだ。


 無論それは不慮の事故。

 ベリルが故意に狙った訳でもなければ、

 まだ『問題が起きた』といえる程でも無い。

 が、大公の肝が冷えたのもまた事実。

 密かに魔物を従属させている彼からすれば

 エルザディアの聖騎士団長など

 大金を積まれても会いたくない人種である。


 そんなこんなで追い出されたベリルは、

 自室を目指して迎賓館の階段を上る。

 何やら出かけると言っていたギドは

 もう戻っている時間だろうか。

 そんな事を考えながら館内を行く少年を、

 突如として無視できないモノが襲った。



「ん……トイレ」



 魔物であってもーー尿意はある。

 むしろ人肉は月一で足りる事を考えれば

 便意よりもその周期は人間に近い。

 会場でしっかり飲んでいた分、

 ベリルは今トイレを探す必要があった。

 目的地の自室とは違う、この階層で。


 見渡せば、ここは自室のある階層と

 物の配置や構造がよく似ている。

 客室となっている層はどこも

 ほとんど同じ作りをしているのだろう。


 であればトイレの場所もなんとなく分かる。

 十分に余裕を以て間に合う程度の距離。

 ベリルは大して慌てる事なく移動を開始した。

 が、ここで予想だにしていない問題が発生する。

 トイレを目指して進むベリルの足を、

 警備員と思しき男が制止した。



「止まれ。ここからは立入禁止だ!」



 呼び止めたのはT字の廊下に立つ男。

 服装を見るにチョーカ帝国の兵士。

 それも恐らくかなり皇帝に近い、

 所謂近衛兵のような風貌の男であった。


 兵士は立入禁止の理由を語らなかったが、

 会場での出来事を思えば想像はつく。

 恐らく幼帝アルカイオスがこの階に居るのだ。

 理由を言わないのも、中途半端な階層に居るのも、

 全て所在を隠す暗殺対策と思えば合点も行く。


 ラルダとの接触を流石に反省していたベリルは

 瞬時にそれらを見抜く程頭も回っていた。

 が、それでも引けない理由が彼にもあった。



「トイレ!!」



 予想外の足止めでピークが近い。

 ベリルは年相応、よりも少し幼く

 名詞のみで用件を告げる。

 しかしそれで通してしまっては

 近衛兵などやってられないのだろう。

 男は子供相手にも容赦なくノーを示した。



(子供を使った暗殺の噂も……よく聞くしな)


「良いじゃんちょっとくらいぃ~!

 すぐそこの廊下にあるんだからさぁ~!」


「ダメだ。この廊下は誰にも使わーー」



 その時だった。発生したのは異音。

 方角は話題に上がる廊下の方。

 ベリルが目指すトイレの真正面。

 幼帝がいると思われる部屋の中だ。

 ゴトン、と何かのぶつかる音が一つ。

 状況が状況なだけに兵士の男は停止した。


 それを好機と捉えベリルが駆け出す。

 彼にとって幼き皇帝など興味の外。

 今はそれよりも早くトイレに行きたい。

 他の所を探していては間に合わない。

 何も問題を起こそうという訳では無いのだから、

 きっと少し注意されるくらいで済むだろう。

 そんな淡い期待を、開く扉が妨げた。



「え?」



 中から出てきたのは、否、

 ベリルの方に倒れ込んで来たのは

 目の焦点が合っていない皇帝の専属メイド。

 彼女はそのまま少年の上に倒れ込むと、

 目、耳、鼻、口――体中の穴という穴から

 突然ドロリと鈍い血を吹き出した。



「なっ!?」


「にぃ――!?!?」



 不幸だったのはそれがベリルの方へ

 倒れ込んだ後に起きた出来事であった事。

 慌てて駆け込む警備兵の目には、

 ベリルと触れた瞬間に吐血したように

 映ってしまった事だった。



「警報を鳴らせっ――! 誰も外に出すな!

 ()()()()()()()()()だーッ!」



 兵士の怒号が階層に響き渡る。

 耳をつんざくような、怒りと焦りの声。

 混乱したベリルにはそれを遮る事も、

 ましてや身の潔白を証明する事も叶わない。


 ついでにメイドの血に紛れているが、

 既に限界だった膀胱は

 此処を果ての地と決めていた。



 ~~~~



 死者は一名。皇帝専属のメイド。

 下級貴族の生まれで家は常に財政難。

 一族の地位向上と教養の成熟を目的として

 我儘な幼帝(ガキ)への怒りも笑顔の下に私蔵する。

 いや、今となってはそれも死蔵。

 死人に口無し。今や布に巻かれた骸一つ。


 故に目を向けるべきは此岸の住人。

 事件の目撃者となった二人の近衛兵。

 一人は代々近衛兵を輩出する名門家系の男。

 もう一人は中級貴族の、家督を継げない次男坊。

 どちらも宰相自らが厳選した精鋭であり、

 幼帝の居る部屋を挟んで、

 互いが互いを監視し合う形で警備していた。


 動機、状況、立場のどれも潔白。

 故に最も疑わしいのはやはり

 近衛兵に接近してきた一人の部外者。



「この少年、という訳か」


(あぁ面倒くさい事になったし……服替えたい

 血で隠れてるけど、漏らした事バレないよね?)


「ふん。ションベン臭いガキじゃないか」


(……どっちだこれ?)



 連れ込まれた別室にて宰相の言葉が少年を刺す。

 彼の言葉にはどうにもプレッシャーがあり、

 中には一文字一文字が紡がれる度に、

 圧力が掛かるような錯覚を覚える者もいた。

 が、緊張を隠せない他の者とは違い、

 ベリルは緊迫しつつも焦ってはいない。

 服の事ばかり気にかけていたからではなく、

 この部屋には彼の味方がいたからだ。



「それで? これと知り合いというのは本当か?

 オリベルト候?」


「ええ。宰相閣下

 彼はオラクロン大公国に属するただの子供です」



 身元を保証してくれるオリベルトは

 とても落ち着いた様子で流れるように語る。

 余程余裕があるのだろう。

 彼はテーブルの上にあった飲料と片手で開けると

 同じくテーブルのコップに注いで飲み始める。

 宰相への緊張も無ければ、敬意も無い。

 従者に「氷は無いか?」と尋ねつつ、

 彼はベリルにとって都合の良い提案をくれた。



「大公もこの子が見当たらずさぞ不安でしょう

 問題なければ僕がこのまま引き取りますが?」



 どうやらすんなり解放されそうだと

 ベリルが安堵したのも束の間、

 侯の提案は否の一言で否定された。


 が、それを発信したのは宰相に非ず。


 オリベルトの意見を真っ向から否定したのは

 突然部屋に侵入してきた二人組の片方。

 一方は銀髪に赤メッシュの青年、イオス伯。

 そして発言したのは青服を纏うソダラ公。

 前夜祭会場から直接乗り込んできたのだろう。

 ソダラに至ってはまだ酒の入ったグラスを

 持ったままの入室であった。


 そんな二人の侵入に宰相は溜め息を漏らし、

 睨むような眼と共に声を掛けた。



「貴殿らを呼んだ覚えは無いが?」


「別にどこに出向こうと自由だろ。それにーー」



 金髪の老爺は宰相に顔を近づけ、

 サングラスの下から睨み返す。



「平民風情がでしゃばるな」


「宰相の権威は陛下からの賜わり物

 私への侮辱は、陛下への侮辱です」


「ハッ! その幼い皇帝陛下のピンチだから

 わざわざこうして出張って来たのよ!

 それで~?」


「っ……!」



 グラス内の液体をゆらゆらとかき回しながら、

 ソダラ公はまっすぐベリルに接近した。

 そして思いっきり膝を曲げて腰を落とすと、

 少年の眼前で髭面の笑顔を見せつける。



「ハッ! 確かに大公の傍にいた小僧だな!」


「ビクスバイト殿の?」


「お? なんだイオス? 興味あんのか?」


「こんな小さい子が来てればそりゃあねぇ?

 続き柄は? まさか隠し子とか?」


(――?)


「いや、大公(ヤツ)は親戚のガキだっつってたぜ?

 ま、本当かどうかは今となっては眉唾だがな?」


「っ……ソダラ公。この子を疑うのですか?」


「おう疑ってるぜ、子供好きのオリベルト殿」



 そう豪語するとソダラは

 体の向きごとオリベルトに標的を変える。

 自身の持っていたグラスを飲み干して、

 まるで給仕に渡すかのような態度で

 ソダラは空のグラスを彼に押し付けた。


 流石の行動に候も不快感を覚えたらしく、

 ムッとした表情でソダラのグラスを凝視する。

 が、彼はそれ以上の争いごとを避け、

 差し出されたグラスの(ステム)を指の合間に入れると、

 落とさぬようボウル全体を掌で支えに行った。

 ベリルの視線はそんな候の方に向いていた。

 が、その間に再びソダラの接近を許した。



「実はこのガキは訓練された少年暗殺者でした

 あのビクスバイトなら()()()()()だろ?

 何より、状況から見て犯人はこいつしかいない

 そうだろ? 我らがアドルフ宰相閣下?」



 今度は決して目を向けない。

 ソダラはあくまで宰相に背を向ける形で、

 彼の次の発言に全神経を尖らせた。

 ソダラだけではない。

 宰相の言動には傍観者のイオスも、

 手荷物を片していたオリベルトですらも

 その動きをぴたりと止めて待機する。

 やがて現場の空気が最高潮に達した頃、

 緊張の糸を断ち切るように宰相は開口した。



「数ある可能性の一つ、だ」


「はぁ!? んだその曖昧な回答は!?」



 ソダラの語気が一段と強まった。

 まるで落雷があったかのような錯覚。

 同室の臣下も一部が腰を抜かす。

 だがそれでも眉一つ動かさない宰相に

 ソダラの苛立ちは更に刺激される。



「さっき遺体を運んだ兵士から聞いたぜ?

 仏さん、()()()()()()()らしいじゃねぇか?」


「だから?」


「間違いなく他殺! それも毒の類じゃねぇ!

 血を吹いたタイミングから考えても

 どう見たってベリル(こいつ)が犯人だぜ!」


「かもしれん。が、凶器は無かった」



 故に証拠がない。

 宰相はそう言いたげな様子だ。

 事実それは従来の捜査であれば

 犯人だと決めつけられない理由としては十分。


 しかしこれが皇帝暗殺未遂事件と考えると

 また話が少しややこしくなる。

 皇帝の命は平民の人権の上に存在する物で、

 疑わしきは罰するのが道理。

 魔法ある世界でこれだけ状況が揃っていれば

 宰相権限で監獄にブチ込むなど造作も無い。


 が、宰相はやはりそれをしない。

 やがて拷問をするだ、しないだと

 ソダラとの口論が始まりしばらく経つと、

 痺れを切らしたかのように

 今度はイオスが会話に割って入った。



「宰相閣下は犯人を捜す気がないらしい」


「なんだよイオス? 今は大人の会議中だ」


「おっと左様でございましたかぁ!

 建設的な議論とは、こうも見苦しいのですね」


「あ゛?」


「期間中勾留してれば良いだけの話でしょう?

 公国の連中のご帰宅と一緒に解放すれば

 大公殿の不興を買う事も無いのでは?」


「……ふむ」



 僅かな沈黙の後、

 最終的に宰相はイオス伯の意見を取り入れた。

 オラクロンとの不要な対立も避けつつ、

 目の前の不穏分子も隔離出来る。

 宰相としては拒む理由の方が見当たらない。



「そういえば、陛下は今どこに?」


「……気になるか?」


「そりゃあ、一応兄貴ですから」


「……既に龍璇殿(りゅうせんでん)にお戻りになられた

 そろそろ到着なされた頃だろう」


「それはそれは随分と()()ですねぇ閣下?

 今回の事件、陛下の孤立を狙った陽動である

 そうは考えなかったのですか?」


「フン。皆、ベリル(かれ)の対応に異論はないな?」



 応答の代わりに嘲笑に似た鼻音を鳴らし、

 宰相は同室の者たちに確認を取った。

 本来なら意見など聞かなくとも良い連中を

 納得させつつ自分の懸念も取り除ける。

 イオスからの提案という事が些か気になるが、

 十分及第点を出せる結論であった。


 もしお粗末な点があったとすれば、

 その議論を当人の前でした事くらいだろう。



(え、これってつまり……)


「期間はビクスバイト殿がお帰りになるまで

 今より一週間弱の勾留だ」


(僕()()()()()()()()!?)



 瞬時に少年はオリベルトに目を向ける。

 がしかし、彼は申し訳なさそうに

 手を顔の前で合わせるのみ。

 謝罪を意味するそのジェスチャーに

 ベリルの視界はぐにゃりと歪むのだった。



 ~~帝都(ラクア)内・とある一室~~



 ベリルが連行されたのは

 迎賓館とは別の建物に設けられた一室。

 どうやら元は外交官のための休憩施設として

 設計されていた部屋だったそうだが、

 今では“拘置”の名のもとに使われている。


 故にか、石牢のような冷たさはない。

 壁は淡い灰色の漆喰で塗られ、

 天井には繊細な木彫りの(はり)が走っている。

 窓は高く、外の庭園を見下ろす位置にあり、

 視界を妨げる曇りガラス越しではあるが、

 月の光が冷たく差し込んでいた。



「とりあえず、身の危険はない、か……」



 目に見える監視や拘束の類もなければ、

 衣類の交換すらされていない。

 少年のサイズに合う服が無かったので

 今は替えの服が届くの待ちなのだ。

 しかもボディーチェックは任意であり

 ベリルが拒否すると監視係はすんなり引いた。



(僕が大公の関係者だから政治的配慮が働いた?

 それとも――)


「コン、コーン! ベリルさん居ますかー?

 替えの服をお持ちしましたー開けてくださーい」


「……内側から開くわけないでしょ、()()()()


「おっと。もうバレてしまったか」



 小包を抱えて侵入してきた男は、

 扉を閉めると同時に人型の擬態を解く。

 緑色の粘体は上下に伸び縮みを繰り返し、

 やがてベリルの膝下にも届かない

 スライムとなって語り出した。



「大公は怒っておったぞ? あとが怖いな」


「……僕の進退はどうなったの?」


「流石の大公でも帝国宰相の決定は覆せんよ

 拘置所(そこ)で反省してろ、と言伝を貰った」


「ぅ……」



 事実上万博への不参加が決定した事に

 ベリルは深くダメージを負った。

 大公を殺すチャンスも、技術を得る機会も

 全て水泡に帰したのだと理解したのだ。

 が、裏を返せば帰還時にはまた合流できる。

 公国から完全に縁を切られた訳ではないのだと

 むしろ安堵するべきと考え、心を守った。



「ごめんなさい。万博はみんなで楽しんで――」


「――そしてこちらが、()()()()()()()


「!?」



 一枚の紙をセルスは吐き出し手渡した。

 そして少年がその内容を確認している間に、

 彼女は返答を予見し再び擬態を始める。



「外でヘリオも待機しておるぞ」


「ちょ、これ……! 本気なの!?」


「正直に言うと妾は大反対じゃぞ?

 じゃがこういう機に目敏いのはギドの方じゃ

 やる気があるならその紙を寄越せ」


「っ……!」



 覚悟を決めて、ベリルは紙を返却する。

 それをセルスは体内に呑み込み隠滅すると

 作っていた擬態の姿を完成させる。

 が、それはいつもの美女の姿ではない。

 彼女が化けたのは目の前の少年。ベリルだ。



「出たら左に曲がってトイレに駆け込め

 そこから外に出た先の門にヘリオがおる」


「う、うん!」


「あぁ、あと今着ている服は全部寄越せ

 妾の体内でついでに洗濯しておいてやる」


「すごっ、そんなの出来るんだ……」



 いい加減汚れた服も鬱陶しかったベリルは

 喜んで自身の衣類を全てセルスに渡し、

 彼女が用意してきた動きやすい服に着替える。

 いざ袖を通してみれば驚くほど肌に馴染み、

 また同時に目の前に立つセルスの姿を

 自身を映す鏡のようだと錯覚した。



「さぁあまり余裕は無いぞ! 疾く征けぃ!」


「うん! ありがとうセルス様!」



 不安と緊張を高揚感に変えて

 ベリルは扉に向けて手を伸ばす。

 その後ろでセルスは彼の服を取り込んだ。



「む、いやちょっと待てベリルちゃん」


「なに? 急ぎたいんだけど!」



 振り返るベリルに対し、

 セルスは目線を合わせてはくれない。

 目線を合わせないまま、

 彼女は体内から少年の下着を取り出した。



「漏らした?」


「ッ――――」



 ベリルは燃えるような顔を覆うと

 両の膝頭を地に付ける。



 ~~数時間後・帝都地下水道~~



「大将! 起きてください!

 もうそろ目的地に到着するっすよ!」


「ぅ、う~ん……」



 心底不快そうな唸り声を上げながら、

 水上を爆走する鮫の上でベリルは目覚める。

 前夜祭から一夜明けての朝。

 目的地に着くまでの仮眠は取れた。



「あそこの穴を抜けたら水路が滝になってて、

 目的地はその下にあるらしいっす!」


「ふぅ……今更ながら不安になってきた……」


「ハハッ! 大将なら大丈夫っすよ!」



 快活な鮫は根拠のない自信を吐露し、

 更に水上を駆ける速度を上げた。

 そして外に繋がる光がより一層と

 その輝きを増したところで、

 最終確認と言わんばかりに声を荒げる。



「チャンスは一回。思いっきり投げるっす!」


「っ……うん! お願いッ!」



 速度は更に上がり、波を裂き、

 光の中に海魔は恐れも無く飛び込んだ。

 まず感じたのは朝日の眩しさ。

 そして次に来るのは空中に出た浮遊感。

 あまりの閃光と衝撃に閉じた目を

 ベリルはどうにかゆっくりこじ開ける。


 するとその視界に飛び込んできたのは、

 氷霧の朝に、蒼天と溶け込む寒色の宮殿。

 青磁のような艶を持つ柱たちは

 淡い霧の中で幽かに光を返し、

 幾重にも重なった群青の瓦を冠に、

 銀の龍を模した装飾が四方に伸びている。

 其処は帝国の中心。皇帝の住居――



「――『龍璇殿』……!」



 ベリルが目的地を見据えるのと同時に、

 ヘリオは彼を其処に向けて投げ飛ばした。

 霧に紛れた少年の姿は発見困難で、

 警備兵たちの頭上を軽やかに抜けて

 見事、中庭への着地に成功する。



「さて、行くか……!」



 不安と緊張を高揚に変えて、

 ベリルは服の一部で口元を覆い隠す。

 この日、チョーカ帝国で最も重要な施設に

 魔物の仔が侵入した。




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