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ラスボス育成観察録  作者: 不破焙
第弐號 閃滅翠聖/葬蒼凶機
40/49

拾頁目 前夜祭

 ~~チョーカ帝国内・とある道~~



 日は高く、森はさざめき、

 雨上がりに泥濘んだ道の上では

 小鳥がかくかくと首を振る。

 首都ラクアと比べて発展途上の田舎道。

 左右を木々と田んぼに囲まれた、

 細い細い土色の道であった。


 そんな狭い道を、二騎の騎馬兵が爆走する。

 対面から来るかもしれない通行人など知らず、

 道中蹴飛ばし殺した小鳥の事など露知らず、

 特段焦った顔をしている訳でもないのに

 ただスピードだけ出して走行していた。



「連絡が途絶えたっつぅ屯所はこの先かぁ?」


「ああ。まぁどうせ定期連絡を忘れただけだろ

 連中は前も酒でなんか問題起こしたらしいし」


「だりぃ~! 僻地の暇人どもがよぉ!」


「フッ。たんまり()()()()を貰わないと、だな」



 それは彼らなりの仕事のやり方。

 気怠い雑務にも元気が出てくる魔法の薬。

 その味を一度知ってしまえば最後、

 美味すぎて、自然と広角も上がるというもの。


 八千の年月を経て腐った帝国では、

 このようなやりとりも最早日常茶飯事。

 正道で無いという自覚すらなく、

 ズレた当然が深層心理で幅を利かせた。


 だがやはり、それでは()()()()()()というもの。

 絶対王政の統治下で蓄えられたその

 数千年分のフラストレーションは

 既に――国を割るほどの力を得ていた。



「「ッ!?」」



 設置されていた罠に気付き手綱を引く。

 が、勢いの付き過ぎた馬はすぐには止まらず、

 前方を走っていた一騎がワイヤーを蹴った。

 直後、田舎道には不釣り合いな爆発が生まれ、

 後方の騎馬兵は吹き飛ぶ同僚を目に焼き付けながら

 迫る焔に巻かれて落馬した。


 燃える馬は正気を失い駆け出して、

 自ら炎の中へと突っ込み崩れる。

 一連の出来事は兵士の予想の外にあり、

 彼はしばらくの間、己の負傷も気付かず

 ただ炎を見つめて「え?え?」と

 壊れた人形のように呟き続けるばかりだった。


 だがそんな彼の正気を取り戻させるように、

 一本の矢が炎の向こうから男の肩を射抜く。

 その痛みでようやく現実に戻ってくると、

 彼は泥道をのたうち回って発狂した。

 その無様はさながら陸に上がった無力な魚。

 彼を仕留めに漁師たちも集ってくる。



「ひっ!? な、なんだ貴様ら!?」


「あー外した。おいこいつまだ生きとるぞぉ?」

(農奴の服……! 地元の人間か?)


「どうする皆ー? 一応とっ捕まえとくか?」

(なぜ平民が帝国軍の俺を襲う!?)


「いや要らんね。このまま焼いちゃおう」

「っ――!?」



 差し伸べられた手は逆光で黒かった。

 それが言い様も無いほどに恐ろしくて、

 兵士は泣き喚いて逃走を図る。

 が、知性をかなぐり捨てた動きは鈍く、

 また逃れようと足掻くその両足に

 既に黒い血痕の着いた鍬が振り下ろされた。


 肉と骨とが農具によって耕され、

 周囲を囲む人間たちからの追撃が

 高価な鎧の上から全身を叩きつける。

 やがてぐちゃぐちゃにされた体が担がれ、

 ごうごうと燃える焚き木の方に放られた。

 しばらくの間男の悲鳴も聞こえた気がしたが、

 数秒で聞こえなくなったので問題ない。

 下手人たちは、人を焼いた焔で暖を取る。



「ちょうどいい。少し休憩していこか?」


「なー、こっちの看板なんて書いてあるんじゃ?」


「武器の扱い。もっと上手くならんとなぁ……」



 各々別の事に興味を移し、

 思い思いの方法で寛いでいた。

 今しがた人を殺めたばかりその現場で、

 四十名以上の男たちが談笑している。

 ――やがて、彼らもまた移動を再開した。

 その目的地は口にする必要もない程ただ一つ。

 黒く燃える業火へと振り返り、

 最後尾の若者が吐き捨てた。



「わしらの怒りじゃ。思い知れ皇帝」



 ~~同時刻・首都ラクア~~



「……そうか」



 白亜に彩られた行政の砦、帝国宰相府。

 その最深部である宰相室にて

 部屋の主が吐息を漏らす。

 受け取った文書をサラリと読み流すと、

 彼は早々に蝋燭の火でそれを消した。



「報告を。万博は?」


「はい。テストランは予定通り本日で終了

 本開催も日程通りに進められそうです」


「各国の要人は?」


「多くは既にラクアに入られていますが……

 ナバール王のみまだ入洛されていません」


「フン。であるか」



 どこか呆れも混じった声と共に、

 宰相は己の席から立ち上がる。

 そして部下の間を堂々と進み抜けると

 不意に立ち止まり彼らへ振り返って言った。



()()()()()()()()()帝国万博は()()する」



 突然の言葉に部下たちは目を丸くして、

 気の利いた返しもなくその場しのぎの応答をした。

 とはいえ彼らの発言にはハナから興味無し。

 そんな面持ちで帝国宰相は部屋を出る。

 何か、恐ろしく大きな野望を秘めた面持ちで――



 ~~~~



 帝国万博のテストランは無事終了した。

 何やら警備室が慌ただしい一晩も存在したが、

 報告書には「問題無し」を意味する文言のみが

 上席者から更なる上席者へと伝えられた。


 そんなテストランからは既に二日が経過して、

 万博本開催までの余暇も残す所あと二日。

 三日後には遂に万博初日を迎える事となっている。


 だがしかし、ベリルたちの表の任務は

 その本開催期間中の大公の護衛のみであり、

 魔物として密かに狙っている目標もまた

 本開催期間中にのみ展示される『天命理書』。

 それ以外にやらねばならない事は特に無く、

 この二日間は彼らにとってフリーの時間となる。



「だから休めると思ってたんだけど……何これ?」



 不満たらたらの顔を見せ、

 ベリルが傍らに立つセルスにボヤく。

 そんな彼の今の姿は格式高い黒の燕尾服。

 普段とはまるで違ったおめかしだ。



「うーむむむ……悪くは無いが妙に気になるのぉ」


「セルス様〜?」


「ベリルちゃんの丸い顔と服が合っとらんな

 服に着られとる感が強いから違和感があるのじゃ

 もっと可愛げが要る。……よし、膝小僧出すか」


「あのー?」


「安心せい! 服はこれでもかと用意しておる

 妾がどこへ出しても恥ずかしくないような

 立派なイケショタにしてやるでな!」


「趣味に走ってる?」



 求めていた回答が得られなかったベリルの

 疑念と呆れに満ちた瞳がセルスに向いた。

 そんな彼らの近くにある椅子の上では、

 ペツとヘリオが書面を見つめて談笑している。



「迎賓館にて明日開催! 『帝国万博()()()』!

 各国のお偉いさんを集めたパーティっすか!」


「豪華な食事の他、舞踏会も開かれるとか

 なるほど。セルス様のやる気の源はそこですか」


「え? セルス様、前夜祭に出るの?」


「当然じゃ! 人間どもの社交界は妾の独壇場!

 何より魔王軍でもそういう催しはあってな、

 魔界随一の美女である妾もよく出てやったわ!」


「へー……そうなんだ」



 今吐いた声は軽い驚嘆。

 だがそれはセルスの経歴についてではなく、

 彼女の語った『魔王軍』についての驚きだった。

 その言葉に荒々しい印象を抱いていた彼は

 社交界も開催されていたというその情報に

 大きなギャップを感じていたのだ。

 が、そんな彼の心中を見透かしたように、

 たった今入室してきたギドが会話に混ざる。



「彼女の言っている事は事実ですよ

 魔王様は結構そういう行事がお好きでしたから」


「おうギド。大公との密会は終わったか?」


「密会だなんて人聞きが悪い……

 明日の外出許可を貰いに行っただけですよ

 交渉の末、夕刻の数時間を貰えました」


「あれ? ギドは前夜祭行かないの?」


「はい。皆が帰ってくる頃には戻ってます」


「あー……そういう事でしたら当方も不参加で」


「ペツも? 何か用事?」


「いえ。人間が集まる場所はやはり苦手で……

 いつでも動けるように待機しております我が君」


「そっか。じゃあ三人だね」



 そう言うとベリルは

 不参加を表明しない仲間たちに目を向ける。

 ヘリオとセルス。攻防のバランスは良い。

 恐らく前夜祭で何か事件が起きたとしても、

 このメンバーなら対処は可能だろう。


 そんな事を考えてベリルは安心していたが、

 それに対してセルスの顔は

 見る見る深刻なものとなっていた。

 彼女の不安の目が向いていたのはただ一点。

 粗暴な鮫の魔物に対してだった。



「ヘリオ。貴様、社交界でのマナーは?」


「んあ? なんすかマナーって?」


「知っとる訳なかったか……仕方無い

 お主は装飾の一部が如く突っ立ておれ

 妾たちの華麗なダンスでも眺めながらの」


「あ、それなんだけどセルス様」


「ん? どうしたのじゃベリルちゃん?」


「ダンスは僕も踊れないよ?」



 セルスの脳天に雷が直撃した。

 次いでその視線は怒りを宿しギドに向く。



「ギドォオオオ! おいギドォオオッ!」


「はいギドォオオです。なんですか?」


「貴様どんな教育しとったんじゃァ!?」


「どんなって……普通に武芸と学業を……

 それだけあれば十分でしょう?」


「そうだよセルス様

 魔物が人間のダンスなんて踊れなくても」


「あぁ!?」


((顔こっわ……))



 釘付けの魔眼によって

 セルスは男共の視線を瞳に集約させる。

 そのバッキバキに血走った眼と

 擬態能力によって作った鬼の形相は、

 見る者全てを震え上がらせた。



「もしダンスのお誘いを受けたらどうする気じゃ!

 淑女(レディ)に恥を掻かせるような事があってはならん!」


「子供の僕を誘うその人の方がやばいでしょ」


「うるさい! とにかく妾の上に立つ者が

 無様な醜態を晒す事なぞ許さんぞッ!」



 前夜祭は明日の夜。

 今日の午後と明日の午前が残り時間。

 それをタイムリミットと定めたセルスは

 ベリルとヘリオを睨み付けた。



「付け焼き刃でも無いよりマシ……じゃな」


「「え?」」


「来い! 妾がたっぷり調教してやる!」



 喚く二人を引き摺って、

 セルスは部屋を後にした。

 そんな彼らの姿を残る魔物は、

 生暖かい目で見送ったのだった。



((不参加にしといて良かった))



 密かに胸を撫で下ろしながら。



 ~~LESSON・1~~



「王族の前では言葉遣い一つで命運が変わる!

 どれ、妾を王族と思って喋ってみい!」


「うっす! セルス様マジ尊敬っす!」


「こ、この度はお日柄もよく、あ、でも夜だ

 暗がりも良く? 絶好の襲撃日和で――」


「先は長そうじゃの」



 ~~LESSON・2~~



「大事なのはパートナーとの距離感!

 ダンスも踊れん場違いは美女より目立つぞ!」


(頭が全く覚えようって気にならない……)


「なーセルス様~? 完璧なダンスより、

 失敗した時の対策とかなんか無いんすか?」


「黙って優雅に笑ってろ」



 ~~LESSON・3~~



「所作は印象を変える最強の武器!

 中でも微笑みは社交界の剣じゃ!」


「へー……なら真顔は?」


「ふむ。盾じゃな!」


「じゃあ変顔はぁ~?」


「普通に戦争じゃろ」



 〜〜〜〜



 魔物たちが密かに努力するその裏で、

 あっという間に時間は流れて過ぎ去った。

 時は前夜祭当日、日没を越えた先の夜。

 迎賓館には各国の要人たちが

 続々と乗り込んでいった。


 ある国外領地の主。ある部族の長。

 果てはある国の王や貴族たちに至るまで、

 大小様々な『権力』がその重たい腰を持ち上げ

 吸い込まれるように入館していく。

 流石は腐っても人類圏最大国家のチョーカ帝国。

 その名が有する集客力は未だ健在だった。


 だが彼らよりも厚遇で迎えられたのは、

 帝国各地の上流貴族たち。

 中でも特に好待遇だった人物が二名。



「オリベルト候! お待ちしておりました」


「やあ男爵。警備の方はどうなってる?」



 皇帝の親族に名を連ねる存在であり、

 万博の雑務も一任されていた者。

 緑のローブのオリベルト候爵。

 そして――



「よーぉ優男! 相変わらず線が細えな!」


「! これはこれは、ソダラ公……」



 必要以上に巨大な馬車から

 行列を引き連れ現れたのは同じく皇族。

 帝国万博テストランにて

 警備室に割り込んで来た恵体の老爺。

 青いコートのソダラ公。

 服と同じくらい青いサングラスの下で

 偉丈夫はギロリと『政敵』を睨み付けた。



「万博テストラン。無事終了したらしいな?」


「ええまぁ……お陰様で

 警備室に活を入れてくださったとか?」


「ハッハッハ! なんの事やらぁ!!」



 同じ皇族。階級の差はあれど横並び。

 両者は互いの間合いを保ちつつも

 二人ならんで迎賓館の入り口を抜けた。



「では僕は先に。挨拶回りがあるので」


「そういや、今日あのガキは来るのか?」


「……誰の事です?」


「あいつだよ、あいつ……」



 サングラスを外し、ソダラ公は呟いた。

 声のトーンを何段も低くして。



()()()()()()()()()()だよ」


「……ええ。いらっしゃるはずですよ」



 視線を逸らし、表情を隠し、

 声を均してオリベルトは応答する。

 そうして「その名」が出た事で乱れた心を

 数歩の間に押し殺して整えると、

 彼は社交の剣をソダラに向けるのだった。



「服装は、いつもの真っ赤なマントですかね?」


「ハッ! あのセンス悪ィ奴な!」



 互いに交わした剣を別れの挨拶に

 両者は大した言葉も無く別方向に歩き出す。

 きっと彼らには派閥という物があるのだろう。

 別れた瞬間二人に群がる人集りを見てそう思う、

 とある少年の視線にオリベルトは感付いた。



「や。ベリル君! 似合ってるね!」


「お、お褒めいただき、光栄に存じます!」



 深々と下げた頭を

 ベリルはゆったり優雅に持ち上げた。


 そんな彼に今回用意されたのは、

 執事服と軍服を掛け合わせたような黒服。

 細部にはオラクロン大公国を意識した

 金の装飾と歯車の意匠まで施されていた。

 だがふとももから膝小僧までは大きく露出し、

 またその華奢な肉体に反する無骨な黒のブーツが

 子供特有の可愛らしさとシックな格好良さを

 絶妙なバランスで両立させていた。


 ある種「見事な仕事」と呼べる

 その調和のコントラストに

 帝国随一の文化人は明らかに反応していた。



「あはは! しっかり()()して来たんだね

 そちらの御仁は初めましてかな?」



 オリベルトが次に語り掛けたのは

 褐色肌の美しい金髪の好青年。

 ベリルと合わせて基調はモノトーン。

 上は白いシャツに黒のベストが合わせられ、

 下もスラリと長い脚が映える黒スーツ。

 深いネイビー色のグローブにネクタイ、

 そして貝殻を模した白金のブローチからは

 彼の雰囲気に合う「海」の気配も感じさせた。


 惜しむらくは彼の態度。

 殿下の前で上着を肩に担ぎ、

 屈託の無い笑みで白い歯を見せるその姿は

 せっかくの良い仕事を水に流していた。



「しゃす! ヘリオっす!」


「……部活かな?」


「た、大変失礼しました、候爵殿下!

 ほらヘリオも! 謝って!」


「おっす! たしか九十度だったすっね!」


「あはは……彼は猛将の類いなんだねきっと」



 躾けの間に合わなかった無礼者に、

 オリベルト候は最大限のフォローをくれた。

 彼が心の広い王族であって本当に良かったと

 この時ばかりはベリルも安堵に包まれる。


 やがてそんな彼らを呼び戻す言葉と共に、

 オラクロン大公オスカーも参上し、

 その場は一瞬にしてパキッと

 凍るような緊迫感に包まれるのだった。


 だがそんな空気の中でも会話を続けるのは

 真顔の大公と笑顔の候爵。

 セルスから社交界で使える数々の小技を

 教えられた今のベリルには最早、

 彼らの談笑が達人同士の攻防に見えていた。



(慣れてる人は凄いなぁ……)



 苦労を知ったからこそ芽生える感情もある。

 それをベリルは身を以て体感した。

 やがて彼らは前夜祭の会場前まで足を運ぶが、

 そこで突然、人々の驚く声が響く。


 貴族たちの足が止まったのは

 会場目の前に置かれた階段の前。

 彼らの瞳が向くのは正にその階段の先。

 コツコツ、という足音と共に下る美貌。

 興味を示したベリルも覗いてみれば、

 其処には人々の目を引くセルスがいた。


 顔には魔眼隠しの黒い目隠し。

 着飾るドレスは泡立つクリームのような薄黄色。

 自慢の緑成す黒髪と喧嘩する事なく、

 むしろ互いを引き立て合って調和を魅せる。

 そして大人の色香たっぷりの着こなしが、

 彼女の内にある自信と余裕を

 これでもかとふんだんに醸し出す。


 服一つとってもこの仕上がり。

 顔を目隠しで一部隠しているというのに、

 いやむしろそれがこの瞳魔に

 更なるミステリアスな魅力を付け加え、

 美のなんたるかを周知させるが如く

 魔物が脚を動かす度に虜が一人増えていく。



「おぉ……なんという美女……!」

「オラクロンの方ですか?」

「亡き皇太后様とどちらが上か……」



「ふ。どうじゃ? 妾の魅力は?」


「綺麗で、格好いい」


「ふふふふふ! ふふふふふ~ん!

 やはりお主はギドとは違うのぉう!

 ベリルちゃんも、すこぶる似合っておるぞ!」


「えへへ。ありがと」


「ヘリオもどうじゃ? 上手くやれておるか?」


「うす! 今日のオレっちゃんマジ絶好調っす!」


「おお〜そうかそうか!」


「さっきも完璧な()()が出来たっすわ!」


「早速やらかしておるではないか!?」



 怒れるセルスの声に

 ヘリオはギョッと飛び退き丸まった。

 そんな二人のやりとりがあまりに平和で

 ベリルは思わず笑っていた。

 が、そんな彼の背後にはいつの間にか、

 顔に青筋を立てたオスカーが立っていた。



「目立ちすぎた貴様ら。それと小僧」


「は、はい……!」


「私もいい加減に学習した

 貴様は生粋のトラブルメーカーだ

 この前夜祭の間は私の側を離れるなよ?」


「……了解」



 不服、という気持ちは生まれてすぐに霧散する。

 それだけ本人にもトラブルメーカーという評価に

 事実として納得出来るだけの実感があった。

 ともかく魔物の仔は大公の近くに駆け寄ると

 人間たちに紛れて会場内に侵入する。


 何も起きませんようにと、

 心の底から願いながら。



 ~~~~



 馬車の扉が音を立てて開かれた。

 どこか乱暴とも言えるその開閉音に、

 未だ迎賓館前でたむろしていた貴族たちは

 ビクッと肩を揺らして反応を示す。

 だが真に恐ろしさを覚えたのはその直後。

 降りてきた男の姿に彼らはゾッと戦慄した。



「迎賓館で御座います。()()()()()()()



 趣味の悪い真っ赤なマントを靡かせて、

 一部に赤いメッシュの入った銀髪の若人が

 堂々と迎賓館に乗り込んで行った。



 〜〜同時刻〜〜



 赤い来訪者を、館内の窓から覗く者が一人。

 チョーカ帝国の実権を握る宰相である。

 彼は警戒対象である『伯爵』の来館を

 その鋭い自らの目で確認すると、

 素早くカーテンを閉じて室内に目を向けた。


 そして彼は――すぐさま片膝を突く。



「陛下。お時間です」



 宰相の目の前にあったのはふかふかな椅子。

 周囲に侍らせたメイドたちが身支度をする中、

 深々とその椅子に座る存在は口を開いた。

 が、続く台詞は無い。言葉は無い。

 文字通り口を開いただけで、

 それはうんともすんとも言わずにそっぽを向く。


 まるで人形。比喩というよりこれは事実。

 それは宰相の傀儡にして、齢十歳の現皇帝。



「さぁ向かいましょう――アルカイオス様」


「……ふん!」



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