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04:魔法回廊⑥


 同じ、第一部隊だったから懐いたのか。


 アレクの問いかけに、キオンはすぐには答えなかった。

 そうでもあるし、そうでもない。

 同じ第一部隊だから、を否定することは出来ない。ただ、それだけではないと断言もできる。


 キオンはシロを見、シロもまたキオンを見ていた。そして、お互いが頷く。



「お察しの通り、俺達は、ジュードさんや、ミラさん含めた、第一部隊の皆さんと、魔王を殺すまでの数日間、……皆さんが死ぬまでの数日間、一緒にいました」



 ――二年前、勇者の資格を持つキオンは、シロと共に、魔王討伐のため魔族領にいた。

 その日、空間把握魔法を使っていたミラは、魔族でない二人の存在を視認した。不思議そうに自分を見る二人に、にこやかに手を振れば、二人もおずおずと手を振り返す。

 その行為を面白がったミラは、すぐに二人組――キオンとシロに声をかけた。そして連れ帰った。

 引き合わせたのは、同じく魔王討伐に向かう第一部隊とジュード。


 魔族達に囲まれたキオンとシロは、まず、敵意がないことに驚いた。好意的に話しかけられたことに困惑した。


 食事を共にした。沢山話をした。

 おやすみ、おはよう、を、お互い以外に言うのは初めてだった。“人として”、歓迎されたのは初めてだった。


 例え、二人を放っておくには危うすぎる強さだと一目で悟られたことが始まりでも、利用されていたとしても、キオンとシロは、そんなことはどうでもいいと思えるほど、その数日が楽しかった。


 他者との繋がりがほとんどお互いだけだった二人が、初めて、存在を許されたと感じた。



「……俺達は、こうだから、怖がられて、真正面から人に構われることが少ない。ほとんど無かったと言っていい。けれど、二年前、魔族領で、俺達はミラさんに声をかけられた」


「私たちは、同じ目的だからと、行動を共にすることになりました。美味しいご飯を皆で食べて、知らない土地の話や、知らない魔法、好きなものの話、沢山聞かせてくれました」



 懐かしむように、シロが続ける。

 しかし、これは別れにも繋がる記憶だった。キオンは一度、口を結び、また開いた時、少しだけ声は震えていた。



「楽しかったです、たった数日でも、俺達は幸せだった」



 アリーズでの出会い、二人の警戒心の薄さに説明がついてしまった。


 二人にとって、この出会いは二度目だった。


 友好的に、人として接してくれた。拠点に招待され、食事と、会話と、寝床。

 敵意もなく、ただ、気遣いはあった。


 それはまるで二年前の、宝物のような数日の記憶の再来だった。


 そして、ジュードが言っていた通りだと思った。


 “君たちの強さを恐れない良き友人達が、良き隣人達が、必ず出来る。”



「俺達が皆さんを好きになった理由は、俺達を、人であるとして、接してくれたから」


「私達が第一部隊の皆と死に別れた後、二年経って、次に声をかけてきた魔族が、同じ第一部隊に所属していた、というのが正しい、かなと」



 人である、なんて当たり前のことが、二人には特別だった。


 第一部隊に所属している四人には心当たりがあった。


 第一部隊は、魔法に特化した部隊だ。先天的に、常人から外れた感覚の上で生きている者が所属している。

 ゆえに、畏れの視線には覚えがあった。


 アリーズの四人は、最初から、同じような世界に生きる幼馴染みがいた。同じでなくても、ただの人として接してくるシュカもいた。


 小さな村から外に出れば、自分達と似たような者、上を行く者がいることを知った。自分と同じである者たちの方が少数であることも知った。


 話してみると、案外人なんだな。その類いを言われた等の話は、第一部隊に所属する誰もが経験をしていた、ありふれたものだった。

 気にしていなかった。その発言に納得もしていたからだ。四人ですら、初めてミラを見た時は、本当に人か?と思ってしまった。



「……そうだな、お前らは、形が整いすぎてるから、余計に、だったろうな」



 ぽつりと言うのは、ヴィオだ。

 人並外れた整いすぎたその外見と、人から外れてしまったその感覚。四人から見てもかなり浮いていた、その雰囲気。


 どんなに鈍くても、ただの人でないことは、見てわかってしまうだろう。


 ――そりゃあ、何も知らない相手には怖がられるだろうよ、とヴィオは思う。



「僕、意地悪な聞き方をした。ごめん……」



 アレクの消え入るような声での謝罪に、キオンとシロは首を振る。



「……いえ。元々、ほら、俺達がすごく、ちょろかったって話ですし。な、シロ」


「そうだね。それに、第一部隊の人だからさらに、だったことには代わりないし」



 話を聞いていたシズは、罪悪感に耐えるように、口元を押さえ、訊く。



「……どうして、それだけの力があって、暴こうとしなかったんだ。俺達は……いや、俺は、シュカの安全を考えて、騙してまで、お前たちを領主城に」



 キオンとシロは、顔を見合わせることなく、穏やかに、同時に、答える。



「「好きだったから」」



「邪魔したくなかった、俺達がいなくてもやり遂げてしまうとわかってしまうから」


「嫌われたくなかった、私達が、また好きになれた人たちだったから」



 二人の返答に、シズは息を詰まらせ、空を見上げ、



「泣きそう」

「僕も」

「…………、俺も」



 凄まじい罪悪感に三人は撃沈していた。

 キオンとシロは眉を下げ、言葉を選ぶように口を開き、探せなかったのか何も言わず閉じる。


 そんな湿りきった空気を払拭するように、ぱん、とリベルは手を叩いた。明るい声音で、はっきりと提案する。



「よし!みんなで花火でも打ち上げようぜ!フォスクロード全域に見えるぐらい、盛大に、きっらきらに、魔法回廊を壊そう!……その後にさ、みんなで話をしよう」



 リベルは過剰のない、素の笑みを浮かべた。

 笑顔にしてはあまりにも淡い変化を、キオンとシロは微笑みかけてくれている、と認識した。


 それは、素の表情変化が乏しいために、過剰に表情をつける癖を持つリベルからの誠意。



「俺達も、キオンとシロ、二人のこと、気に入ってたんだ。またゆっくり話せたなら良いのになぁ、って思ってたんだよ」



 その言葉に、キオンとシロは、泣きそうに、笑う。



「「はい!」」



 その姿にまた目頭が熱くなるシズも、切り替えるように息を吐き。



「花火か、同じ爆発なら、綺麗な方が良い。魔力の質で火花の発色が変わるんだったか」


「昔作った連射のやつ、綺麗だったよね」


「あれか、構築式残ってるぞ」



 アレクも続け、ヴィオがその場に広げたのは、魔法回廊に構築した自壊の魔法の展開図だ。

 絡み合う複雑な魔法陣に重なるように、新たに小さな魔法陣と、さらに小さいアンカーが刺さる。



「さーて、キオンくんもシロちゃんも~!破壊のためだけに魔力を流すだけじゃないぞ。手分けして魔力に色付けだ!」



 リベルは、指先に灯した魔力を七色に光らせて遊ばせていた。

 誰かと共同で大きな魔法を発動するのも、ましてや打ち上げ花火など、キオンとシロは初めてのことだった。

 

 魔法回廊を破壊する構築はすでにある。四人が昔作ったという花火の魔法構築は、自壊の段階に合わせ打ち上げられるようだ。


 キオンから見ても、自壊するよう働きかける魔法は問題はなかった。

 魔法回路との、リベル、アレク、シズ三人の繋がりも解除されている。

 キオンはシロは、共に魔力を色づけし、頼まれるがままに魔力を流し込めていった。


 しかし、一つ気になる事がある。

 四人が気付いていないわけがなく、現に、魔力を流し終えた今、六人は連れ立ってアリーズから離れるため夜の山道を登っていた。

 六人の周囲は、魔法で形成された複数の明かりが先行、追従し、照らされていた。


 キオンはちらりと、背後を、アリーズの村がある方向を見る。

 魔法回廊を自壊させるための爆発は、アリーズの村ごと巻き込み消し飛ばすことになるだろう。


 アリーズは、四人やシュカの故郷だ。

 キオンやシロに故郷は無いが、知識として、本人にとって、大事な土地であることは知っている。



「……気にしないでくれ、このために残った住民は移住させたんだ。それに、村が吹き飛んでも、俺達がアリーズ出身であることに変わりはない」



 二人の、アリーズを気にするような視線に気付いたのか、シズが言う。

 同調するように、他からも気にするなと声が上がった。



「ま、お前にとっちゃ、柱に刻んだシュカの成長記録が吹き飛ぶのは惜しいと思うだろうよ、って、」



 ヴィオの軽口に、シズは目をそらした。その反応に、まさか、と顔をひきつらせる。

 視ていたアレクは答えを口にする。


「それね、魔力流し歩いてる時、転写してたの視たよ」


「柱ごと持ち出さなかっただけ自重はしてるな……相変わらずシスコン度が高い」


「俺はシスコンじゃない」



 キオンとシロはくすくすと笑う。この適当な雑談も、聞いていて楽しく思えた。


 爆発の範囲外、遠隔起爆の予定位置として座標(アンカー)を下ろしていた、木々の少ない開けた場に到着した所で、シロがキオンをつついた。

 言わんとしていることをその表情から察し、キオンは頷いた。



「おやおや、何か企んでる~?」


「へへへ、秘密です。な、シロ」

「そうだね、秘密秘密」



 リベルは、悪戯っこのような幼さが残る笑みを見せた二人に、少しばかり、蓄積していた罪悪感ダメージが減るのを感じたが、秘密という単語により、思い出してしまう。



「え~、秘密気になっちゃうな~、秘密、ひみ、ぐああ!そうか花火!連絡はいれないと流石にまずい!」


「確かに領民からの問い合わせがいくのは、各村町の警備部門で、繋がるのは領主城か。攻撃と思われても困るからな……」


「綺麗とはいえ、今回のは音もすごいからね」



 シズやアレクも通信を入れる必要性に同意し、しかしその顔はリベルと同じく気が進まないといったもの。

 独断専行、立派な軍法違反をやらかした身の上、領主への連絡には相応の覚悟がいる。


 ヴィオといえば、無言で通信回線を飛ばしていた。

 繋がったそれをこの場にいる全員に繋げる。


 通信回線の接続に気付かないわけがなく。三人は石化したかのように固まり。


 通信回線が繋がった先は、何も言わなかった。しかし、感じる魔力に覚えがある。怒気も感じる。



「……ヴィオさんや」


「なんだ」



 リベルは、わかってはいたが、ヴィオに聞く。



「何も言わずにこの野郎、通信を繋げてくれたけど、相手様はどなた様でしょうか」


「領主様のエルティア様」



 違っていてほしかった。と、言いたげにリベルは一歩後退る。

 自分で通信を繋いでおきながら、ひきつった半笑いのヴィオと、顔を覆うアレクと、冷や汗だらだらなシズを見て、リベルはそっと拳を掲げた。



「じゃんけんで負けたやつが報告しよう。キオンくんとシロちゃんは負けたやつの応援をしてあげて」


「よし、勝つわ。優勝するわ」

「まぁ、公平っちゃ公平か……」

「うっ……僕じゃんけん弱いんだよな……」



 ヴィオ、シズ、アレクはそれぞれ自身の運に祈り、応援の任を受けたキオンとシロは力強く頷く。



「いくぞ!じゃーんけん、」



 リベルの熱いじゃんけんコールと共に、今勝敗は決した。

 そしてこの会話は全て筒抜けである。



『――それで、誰が負けたの』



「リベルさんが今膝から崩れ落ちた所です」


 

 呆れたように言うエルティアに、シロが伝えた。

 勝利に喜ぶ三人と、ストレートで負けたリベルは咽び唸る。

 長いため息をつき、「よし!」と気合いを入れ、リベルは会話が筒抜けであるということをわかった上で、無かったことにする程度の面の皮の厚さを発揮した。



「……はい、エルティア様。こちらリベル・アリーズ。第一部隊四班四名、全員無事です。キオンとシロも元気に、びびりながら報告する俺を応援中です」


『リベル、あなたの面の厚さを三分の一まで削りたいんだけど、いいかしら』


「勘弁して下さいって!頭ごと無くなりそう!」



 ケラケラと笑い軽口を叩くリベルに、長いため息が返ってくる。『まったく、』とエルティアはぼやき、きいた。



『ベルゼート・ネクロは』


「殺しました。報告書に全容あげます」


『魔法回廊は』


「自壊させます。ついでに花火も仕込んだので、領主城からも、花火が見えると思います。攻撃の類いではないので、通達、よろしくお願いします」


『花火、花火ね……いいわ、見てやろうじゃない。出来によっては始末書の枚数減らしてあげる』



 お、とリベルは目を輝かせた。



 ――『……ちょっと追加でまた仕込みに戻る?』


 ――『せっかくだしもう少し弄るのもアリだな、やるか』


 ――『昔のを大きくしただけだしね、派手なものを何個か追加するとして……』


 ――『いや……そもそも、戻って追加するような時間はないだろ。エルティア様が許すわけがない』



 賛成のヴィオ、アレク。反対のシズである。

 が、もちろん、そのような考えもまた筒抜けだった。



『まさか追加で何かしら、だなんて考えてないわよね。さっさと打ち上げて帰ってきなさい。私にアリーズまで乗り込まれたいの?』


「五分以内に打ち上げさせて頂きます!!」



 エルティアならば来る。一切冗談として受け取ってはならない脅しに、リベルは姿勢正しく、“来ないで下さい!”の意で返した。



『報告が以上なら、私から最後に、言っておくことがあるのだけれど』


「そっちの魔法回廊の穴はイツカのやつが塞いでるとキオンくんから聞いているので、余裕で大丈夫そう~って思ってるぐらいですね。これ以上の報告は無しで」


『そう。……ねぇ、あなた達。客の二人が、魔王を殺したフォスクロードの恩人たちだとはもう知っているでしょう?」


「はい。俺達の命の恩人要素も増えちゃって」


『……帰るまでに、二人に、絶対に、謝っておきなさい。どうせ聞かされてないのでしょう。でも私は言うわ。私自身が腹を立てたから言うわ』



 エルティアは語った。

 己の感じた怒りを隠さず、二年前の、第一部隊の所業を。


 リベル、アレク、ヴィオ、シズの四人は、明確に顔色を悪くさせていった。


 キオンとシロは何も言わず、静かに聞いていた。



 二年前。

 キオンとシロは、ミラが主導する第一部隊の面々と約束をした。断ったが、頼み込まれ、好きになってしまっていたからこそ、渋々頷いてしまった約束だった。


 それは、魔王の隙を狙うために、姿を隠し続けるということ。何があっても、何を見ても、行動を許されるその時まで、何もしてはいけない。



『言い出したのはミラよ。そして第一部隊、あなた達の先輩達も、……お父様も賛同したわ。二人を不意打ち要員として使うための、最低な約束。こんなの、死ぬのを見てろ、ってことじゃない……』



 リベルはその言葉を覚えていた。また、通信を聞いていた三人も。


 “俺達に、死ぬのを見てろってことですか?”


 キオンはそう言った。

 これも二度目であったことに、四人は気付いてしまった。

 リベルはそこからの自身の返答を思いだし、知っていたエルティアの剣幕を思い出し。



『酷い拷問よ、助けられる力を持っているのに、手を出す事を禁じられ、見殺しにするしか出来ない。……そこから、また、例え知らなかったとしても、よりにもよって、同じ第一部隊のあなた達が、』


「エルティア様、……その、怒ってくれて、ありがとうございます。けれど、二年前の事は、俺達も納得しているんです。魔王は強かった、不意打ちは確かに成功しましたが、仕留められなかった。俺達も死にかけるぐらい戦って、ようやく、殺せたんです」



 間に入ったのはキオンだ。

 キオンもシロも、言葉に偽りなく、当時の約束を納得していた。

 魔王は、そうしなければ勝てないような相手だった。



「勝ち方として、ミラさんや、第一部隊の皆さんは正しかった。真正面から、私達の存在を知られている状況で戦ったとして、……今考えてみると、私達の方が分が悪い。……負けていたかもしれない」


「だから、いいんです。……二年前と違って、今度は間に合った。生きていてくれた、死なないでいてくれた。それだけで、俺達は、」



 キオンの瞳が滲み、ぽろりと一粒、涙が溢れた。慌てて拭う様に、四人の罪悪感はついに天井を突き破り、真っ先に倒れたのはリベルだった。

 両手で顔を覆い、仰向けのリベルは指の間から「謝ってすむものじゃない……」と、かすれ出していた。



『私は、あなた達が許したとしても、その約束も、その戦法も、絶対に認めないわ。ここはフォスクロード、私は領主。私が認めないんだから、この四人には心から反省してもらいます。わかったわね』



 しん、と静まり返っていた。

 誰しもが物音一つ立てず、風すら止んでしまっている。四人は揃ってキオンとシロを見ることが出来ず、エルティアは、現場の空気をわかった上で続けた。



『通信は以上よ。お通夜みたいな空気になろうが知ったこっちゃないわ。――キオン、シロ。聞いているわね。良い?これが我を通すってことよ、私を見習ってぶつかりにいきなさい。欲しいものは掴んでいくの。いいわね』



 キオンとシロは顔を見合わせ、エルティアが好きにしろと言っていることに気付き、笑って「はい」と答えた。

 聞き遂げたエルティアは、満足げに通信を切る。



 残されたのは精神が瀕死の魔族が四人。

 あまりにも、土に還ってしまいそうなぐらいに落ち込んでいる四人を見て、キオンとシロは、なんだかとても面白く思えてしまった。



「シロ、この状況って、謝罪の代わりに、何でもしますな権利をもらえるチャンスなのでは?」


「!!それ知ってる、“今、何でもするって……?”ってやつだ……!」



「…………やめなさい、そのネタはやめなさい」

「……二人にこのネタを教えたやつ誰だよ……殺そう」

「物騒なこと言うじゃん……でも殺すしかないな」

「…………僕だけ知らないの嘘でしょ。詳細詳細」


「「「断る」」」


「えー……」


「冗談なのに。何でもするなんて要求が通るなら、俺、また主従の従やりますなんて言い出しますよ」


「今度は私も従側やりたいなぁ」


「やめて」

「だめです」

「要求が怖すぎる」

「本気の目じゃん」



 口では冗談と言いながら、キオンとシロの目は全く冗談ではなく、残念だ、というようにまた口元を綻ばせ、空を指差した。



「ほら、花火。打ち上げましょう。――謝罪は十分すぎるほどもらいました。皆さんの魔力、酷いことになってますよ」



 どんよりと、めそめそと。

 キオンとシロの目は、悲壮感溢れる魔力を視ていた。その主達も魔力同様、言葉を探しながらどんよりとしている。

 どの魔力も、ごめん、と言っていた。これ以上はいらないと二人は考えていた。



「なんでも、視えちゃうからなぁ、良すぎる目ってのは、」



 アレクは目を閉じた。

 一つ、魔法回廊に変化があった。

 魔力の流れを遮断するように下ろされていたアンカーが、溶け消える。

 爆発を防いでいた、四のうちの一だった。

 続いて指先を払うように、ヴィオが魔力を飛ばし、また一つ、アンカーが消える。



「ごめん、なんて言葉じゃ足りない気がしてさ。まさか軽口として使った“悪いお兄さん”発言が、自覚無く、そのままの意味になってるとは……」



 仰向けに転がりながら、リベルは空に向けぱちりと指を弾き、また一つ。これで、三のアンカーが消え去った。

 最後の一を担う、やっと二人の顔を見れたシズの目元は、少しだけ赤かった。



「空、見ていてくれ」



 そして、最後のアンカーが消え去った。

 魔法として完成したそれが、魔法回廊を破壊すべく、発動される。


 爆音と共に魔力の爆風が山道を駆け登り、空には。


 鮮やかな火花が大輪の花となり、夜空を彩っていた。


 連続して聞こえる爆音は、自壊の音だ。良くないものが壊れていく音だと言うのに、その音一つ一つが、空へ咲き乱れる花へと連動している。


 キオンとシロは、身体の内から揺らすような爆音と、空に咲く花と、落ちてくる、火弁がそれこそ、手を伸ばせば届く程の距離であることに興奮していた。


 魔力で構成された火の花びらは、触れると熱い。

 その熱さも面白く、火花降り注ぐ中、二人は一心に空を見ていた。



「いやこれ距離!近すぎるって!火花降ってきてる!」


「ぎゃあ!あっつい!!」


「各自落下する火花には気を付けろよ、熱いぞ、あっつ!!」


「これぐらいの火傷ならすぐ治せる、浴びていけ」


「熱いのは熱いっての!ぎゃあ!なんか火花の軌道おかしくない!?俺んとこにぎゅん飛んで、って、誰だここに誘導の座標(アンカー)置いたの!この野郎アレク!」


「いやだって熱いし」


「俺も熱いんですけど!?」


「ちょ、座標(アンカー)やめ、あ"っつっ!!僕は物理防御最弱だぞ!気を遣えよ!」


「シズが治す!!」


「おう」


「熱いのは熱いから嫌なんですけど!?」



 最後の花火が空に開き、ヒラヒラと舞い落ち、アレクとリベルから悲鳴が上がり、長く思えた数分の花火と自壊は、ついに終わりを見せた。


 手の甲の軽い火傷をさすりつつ、アレクは目に魔力を灯し、アリーズから、領主城への方向を通し視る。



「もう何も無い。大丈夫、成功だ」



 魔法回廊は自壊し消滅した。

 ようやく、フォスクロードの地を脅かすものを排除出来たと、四人は安堵し、脱力するようにその場に座り込む。


 その四人の名を、キオンとシロは呼んだ。そして、空を指差し、



「俺たちから、アリーズへの手向けです」

「見ていて下さい」



 シロは空へ、魔力で構成された大弓を構えた。


 キオンは、構えるシロの手と、光の矢を撫でるように触れた。


 光の矢はその色を白銀に変え、より太く大きくなり――同時に、二人を囲むように現れたのは、同じく白銀に光る、細長い花弁のような刃だった。全てが空に向かっている。


 魔力濃度は跳ね上がっていた。普段は攻撃に使うその魔法を、今、二人は手向けとして使おうとしていた。


 攻撃性を見せないだけで、その存在は脅威。

 それは、今空に打ち上げようとする物と、キオンとシロ、どちらをも指し示している。



「実は、もう、ごめんなさいなんていらない程、俺達も、吹っ切れまして。――シロ!」


「私たちも自由にやる、だよね。キオン!」



 そして、矢は放たれた。矢に追従し、白銀の刃も空へ上り――弾け、無数の光の粒が溢れ飛び広がった。


 雪のような、純白の光の粒が夜空一面を覆い、ゆるやかに、降り注いでいく。


 それは暖かで、優しい光だった。



「綺麗だな……」

「こんなの、はは、……泣けてくるじゃねーか、」

「…………キラキラだ、すごく、優しい魔力だ、」



 リベルは、柔らかな光で満たされた夜を背にし、こちらをじっと見る二人に、この光景に言葉を詰まらせながらも、口を開く。



「キオン、シロ、ありがとな、……俺たちを、助けてくれたのも、この……アリーズへの手向けも、……最高だよ、」



「へへ、」

「ふふ、」



 照れたように笑う赤い瞳が、リベルの瞬きの瞬間、切り替わった。ぞくりと、背筋を寒気が走った。


 ――光が濃いほど、闇もまた濃くなる、というべきか。



「エルティア様が許してくれたから、私たちも、我を通すことにした。身を引くことはしたくない。だから、」



 光の世界を裏返すように、キオンとシロの赤い瞳は、どろりと淀み、昏く。まるで闇そのものだった。


 二人は順に、リベル、ヴィオ、シズ、アレクと、射るように見た。

 その目は、暖かな光の舞い散る中、キオンの穏やかで優しげな声とはあまりにも対照的な、赤だった。



「絶対に、俺達より先に死ぬことは許さない」




 後に、当時を思い出したリベルは、心臓をきゅっと握られた気がして、ちょっと怯んじゃった、と語った。





 


「あの時さあ、まさかの心臓をきゅっと掴まれ、エンドだったよなぁ……」


「しんみり終わるかと思ってたんだよ、俺は……」


「ほら、正直ちょっと怖かったけどさ、好意であることに間違いはないから!」


「あれだろ。――こうして、早死にに定評のある第一部隊の平均殉職年齢があがったのである」

 

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