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04:魔法回廊③


 空間把握魔法で視る世界は、目で見る世界よりも色鮮やかだ。むしろ、鮮やかすぎる。

 全ての魔力あるものは色を持ち、あるものは漂い、あるものは軌跡となって視界を“塞ぐ”。視界外へ流すように払い、必要な色を追う。

 探すのは個人――その大元。ベルゼート・ネクロ。

 昔、遠くから一度だけ視たことがある。一度きりのそれで、色は覚えていた。その嫌な感覚を覚えていた。


 ――『ベルゼート・ネクロ。みつけた』


 秘匿回線で報告する。

 遠く、視たその色。アレクは自身の魔力の波の先、先へと意識を移す。瞬きごとに距離は詰められ、今、ここに身体があるとするならば、目視圏内にその背はある。


 ――『動く死体、動かしているのは、やはりベルゼートだ。魔力の色が一致する。座標(アンカー)、刺す』


 アレクは指に挟んだアンカーをベルゼートの背に飛ばした。

 刺さる、刺さった――座標(アンカー)を共有――その瞬間、ベルゼートはぐるりと振り返った。その顔は満面の笑み。素早いその手は、アレクを指差す。


 ――気付かれるとは思ってた。


 ベルゼートのアンカーが雨のようにアレクを襲った。が、それを防ぐ術がアレクにはある。実体無くとも、アレクは障壁の展開を可能とした。


 ――アレク・アリーズは先天的に空間把握魔法の適正が高い。高いなんてものではなく、高すぎて、幼い頃から常時発動状態にあった。魔力の波に流され、意識を遠くに追いやられるなんてことは、数えきれない程あった。

 後に、適正者の少ない空間把握魔法使いの中でもさらに、魔力の波に乗せる魂の一部――意識の容量が重すぎることも判明した。

 魂の重さは、行動の幅と座標(アンカー)の性能に繋がる。実体なく障壁の展開が選択肢にあるのはそのためだ。


 アンカーを全て防いで見せたアレクに、ベルゼートは、それこそ嬉しそうに、素敵な玩具を見つけたかのように、子供じみた笑い声をあげ、


「!!」


 瞬間、アレクの腕を掴んだのは、幼子。しかしその顔はベルゼートのそれだった。

 防御行動は間に合わず、腕に深々とアンカーが刺さる、痛みと同時に、アレクは引きずり倒された。

 今、アレクに触れられるのは、魔力で構成されたもののみ。そして、この痛みは、魂を侵食し実体にまで影響を及ぼしているということ。


 アレクは声をあげない。呻き一つなく、ただ目だけはベルゼートを視ていた。


『良い目だな、素晴らしい、』


 地に伏せられても尚、自分を視るその目を、ベルゼートはうっとりと見つめ返し、その目が映す最期が自分であろうと決めた。

 ベルゼートは、また、アレクを指差す。

 その指先が、右目の端に向けられ、ゆっくりと、左目の端へ、一線、




「―――っ!!!」


 戻された、無理やり。視界を遮り、意識を引き戻す何者かの手を視た。


 アレクの意識は今身体にある。

 戻ったのは自分の意思ではない。戻るより、視ることを優先していた。


 無理に戻されたからか、空間把握魔法使い同士の、実体無き“引き合い”の戦いが原因か、眩暈がひどい。痛みもある。


 アンカーを刺された腕を見れば、しっかりと穴が開いていた。この血のにおいは、自分のものだろうか、とアレクは思う。


 腕を抑え、治癒魔法を使いながら周囲を目視に近い視界で視た。

 曇った視界には誰もいない。しかし、何者かに無理やり戻されたのは事実。目を攻撃される直前だった。潰される覚悟で追っていた。

 視ている間恐怖は無かったが、戻った今になって、恐怖の実感がある。はは、と自嘲気味にアレクは笑った。


 ――目ぐらい、別に失ってもいいだろう。追いきれたのなら。


 ただ、戻した相手が誰かわからない。

 リベルやシズ、ヴィオの居場所兼生存確認のため下ろし、共有している座標(アンカー)はここにない。


 ――いったい誰が、僕の代わりに攻撃を受けた?


 アレクは秘匿回線に疑問を投げ掛ける。


 ――『誰か、僕の近くにいた?発動中に、無理やり、身体に戻されたんだけど、』


 ――『いや、いないはず、だけど……何があった?』

 ――『俺もそこはいない。……アレク、お前大丈夫か』

 ――『声が死にそうだぞ』


 ――『いない、か……じゃあ誰だ、目、潰されてたはずなのに、……って、ああ、くそ、……だよなぁ、』


 アレクが憔悴しきった声で言う、その発言に言及する時間は残されていないようだ。


 ――座標(アンカー)は全員が共有していた。

 ベルゼートの座標(アンカー)が今、大きく動いているのを皆が気付いた。一直線にアレクの方へ向かっている。


 ――『僕、腕に座標(アンカー)刺されたから、』


 ――『待ってろ!俺が行く!』


 リベルは、座標(アンカー)を追った。

 空間把握魔法を使うその性質上、戦闘で最も狙われるのはアレクだ。その存在がある限り、全ての敵に全ての魔法が自動追尾を可能とする。ゆえに、自身の目を誤魔化すほどの隠蔽魔法を使い隠れていた。その居場所が今、割れてしまった。


 ――『動きが早すぎる!空間転移の妨害はやったはずだ!』


 リベルが叫ぶように言う。

 空間転移の妨害は、防衛において基礎中の基礎といっていい。

 空間転移は場に座標(アンカー)を必要とする。そのアンカーと、転移特有の魔力の流れを合わせ攻撃するよう設定した魔鉱石や、ヴィオのもどきは各所にあった。それが発動した手応えは一つだ。どうやってすり抜けている?


 ――『この動き、移動距離は一定じゃないな、』


 ――『わかった、死体だ、死体を座標(アンカー)にしている。存在ごと潰しているのか、ベルゼートに重なった座標(アンカー)が消えていく、』


 ――『悪趣味なことを…!』


 まずい、間に合わない。

 転移するしか、いや、ベルゼートが近くにいるこの状況、それこそ的にしかならない。リベルは走るしかなかった。


 そして、アレクの位置と座標(アンカー)が重なった。



『貰い受けに来たぞ、その目を』



 混線するように聞こえた、下卑た声を最後に、アレクの位置にあったはずの座標(アンカー)が消えた。繋がっていたはずの通信も、途切れ――


 ――『え、』


 ――てはいない。

 アレクは、呆けたような声をあげた。

 対峙したベルゼートの首が飛んだからだ。その目を、と言い終えた瞬間だった。

 それだけではない。その頭は燃え転がり、身体には無数の黒い刃が刺さった、刺さった、刺さった。執拗なそれはベルゼートの身体を肉塊にし、溶けるように消える。


 ――『アレク!何があった!』


 アレクは、自分の名を呼ぶ通信を聞いていたが、目に映るものが信じられず、反応出来なかった。


 崩れた肉塊の後ろに人影があった。

 血を浴び汚れた金髪と、幽鬼のような、昏くどろりとした、しかし爛々と見開かれた赤い瞳。

 その身を汚す血は他者の物だけではない。呼吸は荒く、肩で息をしていた人影は、ふらつき、地面に突き刺した剣で己を支えていた。右腕はただ繋がっているだけといったようで、真っ赤に染まっていた。


「キオン、」


 アレクは名を口にする。領主城にいるはずの者が、どうしてここにいる。


 ――『キオンが、いる、なんで、なん、僕を引き戻したのは、まさか……!』


 駆け寄るアレクに、キオンは何も言わない、言えない。“設定したのは戦闘許可のみ”。


 キオンは剣を構成していた魔力を溶かし、動く左手でアレクの手を取った。

 負傷により流した血の跡で確認し辛いそれを、アレクの目はしっかりと、何であるか認識する。


 召喚印があった。魔法生物の主を示すそれがあった。

 魔法に造形が深い第一部隊所属だからこそ、説明せずともわかってしまう。


「これは、召喚印……!?バカ!無茶なことを!あの腕輪で勝手に主設定をしたのか!腕輪の消滅に紐付けて強制召喚も……!」


 ――『魔法生物としての強制召喚か。人の身でそれは……普通に死ぬ負荷がかかるぞ』

 ――『腕輪に仕込んでたのはこれか……』


 キオンはアレクの手を離し、己の喉を指差した。

 ――召喚主の許可を得なければ話せない、というように。

 近くで見てよりわかる、身体を染める赤色は、かぶったベルゼートの血より、キオン自身の出血の方が多かった。


「話して、いいから……!こんなぼろぼろになって、今治癒魔法を、」


 治癒魔法を発動させようとしたアレクの手を払い、キオンはそれこそ食い付くような勢いで、アレクの肩を掴んだ。ひっ、とアレクから小さな悲鳴がもれる。



 ――『なにがバカだ!!!聞こえてますか!聞こえてるよな!!なにがバカだふざけるな!バカはそっちだ!こっちの気も知らないで!!バカは皆さんの方だ!くそっ……、くそっ!!罵倒が出てこない!』



 頭に響くような叫びが、秘匿回線に乗り全員に届いた。その剣幕にアレクは狼狽え、ヴィオは目を泳がせ、リベルはそっとその場から離れようと踵を返し――その進行を妨害するように地面が削れ、ひっ、と足を引っ込めることとなった。


 ――『アレクさんが持ってた皆さんの座標(アンカー)は、今、奪いました。ねぇ、来て下さいよリベルさん。ここから、ほら、こんなにも近い、それとも俺から、出向いた方がいいですか……?』 


 ――『怖い。キオンくん怖い、すごく怖い、あの、そちらに行くのでその、遠隔で魔法は、アブナイ……』


 ――『僕、座標(アンカー)奪われた感覚も秘匿回線に侵入された感覚も無いんだけど……! 


 ――『まさかこの類いの通信形式で話すようなやつが、俺達の他にもいるとはなぁ』


 まるで現実逃避でもしているかのように、ヴィオはしみじみと言った。

 秘匿回線は、音声で話すことをしない、思念での通信だった。口を動かさないために読まれることもなく、一般的な通信ではないために傍受されることもない。気付けば自然と行えた、四人だけの通信形式だった。


 四人は、どのようなものだと疑問に思われ、試しにと他者に同様の通信を行ったことがある。

 結果、口を動かさず話すことを気味悪がれ、第一部隊隊長であったミラにですら、“ちょっと吃驚させるから他のやつにはしないこと”と釘を刺されたのだ。


 ――『そこのヴィオはさぁ!一人だけ離れてるからってしみじみ言わないでくれる!?――そういえば、シズのやつ、なんで黙って……座標(アンカー)は持ち場から動いていない、まさか……まさか、』


 キオンがここにいるということは、と冷や汗だらだらのリベルは、そっと、秘匿通信に、呼び掛けた。


 ――『あの、シロちゃん、もしかして、その、シズの所に、いらっしゃったりします……?』


 ふっ、と笑い声が聞こえた。

 冷えた笑いだ、背筋の凍るような、底から冷えるようなシロのそれが言葉を紡ぐ。



 ――『どうしてくれようか、そう思っています。私もキオンも、今、とても、怒っています』 



 ――『キオンが召喚での強制転移。座標(アンカー)を場に下ろし、そこにシロが空間転移か。確かに一つ、空間転移を妨害した、反応、が……』


 冷静に話しているかに思えたヴィオも、その言葉尻は息を飲んだように途切れる。妨害の威力は、創った本人だからこそ知っていた。


 ――『痛かったです、すごく。けど、謝らないで下さい、……あの、私に、治癒魔法を向けないで下さい。嫌です、シズさんから治癒魔法を受けたくありません』


 シズが黙るわけだ、とリベルは思った。

 対外敵を想定とはいえ、敵味方の判別なんて出来ない。空間転移の妨害は、リベル達四人が設置を決めた。それが攻撃魔法としてシロに向けられたのだ。

 酷い怪我をしているだろう。それを目の前に、治癒魔法を拒否されるシズの心境を考えると――吐きそうになる。


 ――『ベルゼートの空間転移は、死体を潰しての転移だ、で合っている。実際に、出現を見た、ここにも、来ていた、』


 シュカと喧嘩し、“お兄ちゃんなんて大嫌い”と言われた後でも、こんなに生気の無い声をしてなかった。リベルは後にそう語る。


 ――『出現後、すぐに、何か言うわけでもなく、ベルゼートは地面に叩き潰されて、……シロが、血まみれの身体で俺に、グルルルと、唸って……』


 グルルル、ってなんだろう。

 アレク、ヴィオ、リベルは思った。まさかシロが、まるで機嫌がすこぶる悪い時のクロツグのような唸り方をするなんて、そう思った。


 ――『機嫌が悪かったので唸りました。竜化すると発声が上手く出来ないので、吠えますし唸ります』


 ――『え、シロちゃんは竜族、ってこと?』


 ――『はい。だから自己回復力は魔族の皆さんより上です。耐久だって上です。だから治癒魔法は嫌です』


 ――『うっ……うう……』


 諦めず治癒魔法を試みていたシズはまた拒否されたようだ。

 シズの治癒魔法は早い。三人は、シズより上手く治癒魔法を使う者を見たことがない。

 そのシズの魔法を発動前に拒否するということは、相当警戒し威嚇しているに違いない。


 ――『リベルさん自分で言ってたろ。みんな、わるーいお兄さん、なんだ。悪いってんなら、俺達が何をしようと勝手だ。言うことなんて聞かない。聞きたくない』


 あの、ゆるふわの、確かに少し怖い所もあったが、明るい声音で、友好的に接してくれていた二人の辛辣な言動は、四人を深く傷付けた。外傷の方がマシだ、と全員が思う。


「でも、」


 アレクは、キオンに負けじと見返した。

 例え怒っていようが、キオンの身体には強制転移の負荷が残る。呼吸は安定せず、出血からか顔色も悪かった。右腕に至っては全く動かせないようだ。

 アレクは知っている。右腕は、目をかばって引き戻した時の傷だ。


「せめて、治癒魔法はさせてくれ。何度だって謝るから、止血ぐらいはさせてくれ」


 アレクはキオンの右腕に治癒魔法を展開した。今度は払われることはしなかった。

 しかし、アレクはその人生で初めて、治癒魔法が弾かれるという現象を見ることになった。


「え」


 キオンはアレクの肩を掴んでいた手を離し、


「キオンくん、」


 そっと後退し、


「キオン」


 視線どころか、顔をそらし、答えた。


「……俺、人からの治癒魔法を弾く特異体質でして」


『バカ!!!大バカ!治癒魔法を弾く特異体質!?そんな身体でなんでこんな無茶をした!』


 ――『そんな体質でこんなことを!?信じられないバカじゃん!』

 ――『いや、治癒魔法が効かないって……なぜにそんな無茶を』

 ――『アレクの治癒魔法が効かないって、これ、俺のもってことか……?』

 ――『キオンは例えシズさんの治癒魔法でも弾きますよ。……私に効くか勝手に試すの止めて下さい、次は噛みつきます』

 ――『……すごくつらい』


 通信越しの散々な言われように、キオンは少し不貞腐れているようだった。


 ――『その代わり、自動修復するので問題ありません。常時、治癒魔法が発動している状態です。転移した負荷の回復は行われています』



 確かに、キオンの様子は酷くなっていない。

 顔色は良くはないが、段々と呼吸は落ち着いてきているような。であるならば、どうして、腕は動かないのか。


 右腕を見るアレクの、その視線の意味に気付いたのか、キオンは何もいわず、また、アレクを指差した。

 その位置は目。一瞬、キオンの赤が、誰かを重ねるように揺らぐを、アレクはみた。


 ――魔力が、キオンによって散らされている。

 声を通信に乗せないための、一言限りの空間が展開された。


「二度目は、嫌です」


「二度、目……?」


 聞き返すも、キオンはそれ以上何も続けず、目の揺らぎは見間違いだったかと思うほどに、すん、と仏頂面になった。


 目を潰されても尚、座標(アンカー)を刺した女性を、キオンは知っていた。

 二年前に出会った魔族の女性だ。第一部隊だった。好きだった。彼女は、ごめんね、と謝り、死んだ。

 その事実を、アレクは――同じ第一部隊である四人は――まだ、知らない。


 ――『よし、出血も止まった。行こうシロ、奪った座標(アンカー)を元に、視界に入る魔力あるもの全て殺そう』


 ――『殲滅だね、いいよ。任せて』


 ピクニックにでもいこうか、まるでそう言っているかのような、清々しく晴れ晴れとした声音で飛び出す爆弾発言。秘匿回線に悲鳴が飛び交う。


 ――『待って頼むから待って!』

 ――『お願いですから待って下さい!』

 ――『お待ち頂けると助かります!』

 ――『せめて俺がそっち行くまではほら!待ってよ!ね!もうすぐだから!!』


 キオンは、合流したリベルが屈み、ぜぇはぁと息を荒くするのを見下ろし、


 ――『待ちました。はい。いざ行かん』

 ――『ごーごー』


 ――『だから待てって!ごめんって!お兄さん達とちょっとお話しよ!ね!!』


「自称悪いお兄さんの言うことはきかない」


「くっ……!飛ばした軽口にぶっ叩かれてる!……わかった、わかったよ!望みはなんだ!聞くから!危ないから!見境なく突っ込んでいくのはやめなさい!」


 あまりにも必死に言うリベルの姿に、キオンは威嚇するように唸り、しかし、その刺々しい魔力を納めた。


「……じゃあ、もう一度聞きます」


「何を?」


「リベルさん、アレクさん、ヴィオさん、シズさん。俺達がもし、皆さんがやりたいことを手伝いたいって言ったら、どうしますか」


 ここまで乗り込んできて、それを言うのか。

 キオンは、不貞腐れても、仏頂面でもない。真剣に、二度目の問いかけを口にした。

 リベルは、ふ、と笑いそうになる口元を隠さず。


 ――ちょっと世話を焼いて可愛がっただけだというのに、随分とまぁ、俺達はなつかれているようだ。 


「……わかった、わかったよ、降参だ。……ではでは皆の衆。諦めて情報共有といこうか。戦力は増えた、手札がバレる前に仕留めるぞ」


 その言葉は、協力を許可した証。

 アレクの目には、キオンの魔力が完全軟化したことが映り、シロに「酷いことを言って、ごめんなさい」と謝られたシズは少し泣いた。


 ――『はーい、まずは僕から状況報告。現在、敵さんの空間把握魔法は範囲外』


 リベルの情報共有の指示により、アリーズ一帯を視野に入れているアレクが現状を報告した。

 キオンとシロで合計二個体を不意打ちで狩っている。次の個体はそう楽ではない、が共通の見解だった。


 魔法回廊の防衛として、一手に遠距離の魔法攻撃をさばいていたシズは、死体の処理についての認識を共有する。


 ――『死体が空間転移先になるとわかった以上、見かけ次第焼却を推奨。アリーズ内の死体は俺が燃やすが、外のは頼んだ』


 続いて、ベルゼートについて、ヴィオが話す。


 ――『間近で見て確信した。あれは本物に酷似した魔法生物だ。空間把握と絡めて動かしていると見ている。シズの所に座標(アンカー)もちの個体がいかなかった所から考えるに、魔力を接続して初めて魔力反応が出るようだ』


 ――『魔力接続型か~、そりゃ増えるよな。ただ、個が分裂していないのなら、大元を止めさえすれば接続先も動かなくなりそう~』


 しかしその、大元の座標(アンカー)はまだ未共有だ。申し訳なさそうにアレクは、


 ――『……いや、その……面目ない。大元の位置は視えたんだけど、座標(アンカー)を刺すまでにはいかなくて。だから、もう一度視に行ってくる』


 無理やり引き戻したことを、キオンは後悔していない。悪いとも思っていない。

 アレクとしても、座標(アンカー)を刺せたか、目を失うかのどちらかだ、“どちらでも良いと思っていた”アレクもまた、引き戻した件についてさほど気にしてはいなかった。


 ――『では俺達は、敵がアレクさんと引き合いするような余裕を無くさせればいいと。リベルさんはアレクさんと一緒にいてもらっても良いですか、アレクさん、座標(アンカー)刺されてますし』


 ――『俺が喧嘩を売りにいこうかなって考えてるんだけど、担当、逆にしない?』


 ――『むむむ』


 シロにはわかった。キオンのこの『むむむ』は、リベルの言うことは聞きたい、アレクの護衛もやりたい、けれどベルゼートも殺したい、そうした迷いの気持ちだ。

 シズの側にいたシロは、シズをつつき、魔法回廊の位置を指差す。


 ――『あの、シズさん。魔法回廊の封、術者の生存と紐付いてますよね』


 ――『ああ、そうだな』


 ――『ってことは、シズさんも、動こうと思えば動けると』


 ――『………そういうことか、いいぞ』


 シロとシズは何やらわかり合えたらしい。

 キオンはまだ迷うようにリベルとアレクを見、意を決したように“誘った”。


 ――『皆で殴り込みにいくのはどうでしょうか。俺はアレクさんの側にいられる、俺はベルゼートも殴れる、リベルさんもベルゼートを殴れる』


 リベルとアレクは顔を見合せ、様子見しているのか動かない座標(アンカー)のもちのベルゼートがいる方向を見、


 ――『アリ!!!!!』

 ――『空間把握魔法使うやつが最前線に出るとか……まあいいよな!僕座標(アンカー)付きだし!どこにいても同じか!!』


 話がまとまるのを待っていたシズも同行を表明し、シロは嬉しそうに続け。


 ――『俺も合流するわ、封の術者が集まるのはまずいが……せっかくだしな』

 ――『キオン、皆で殴り込み、いこっか』


 ――『へへへ、ピクニックみたいだ』


 キオンはふわりと笑い、


 ――『これ、俺だけ仲間外れ、か……!』


 ヴィオは悔しげに呻くのだった。







  

 

 


 










 


 

 


 


 

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