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03:異変③


 それから、すぐにナナハは戻ってきた。

 男を背負っている。その顔をキオンとシロは知っていた。空間把握魔法を使っていた男だ。


「シュカさん、お願い」


 ナナハは男――イツカをおろした。意識の無いイツカに外傷はない、いや、ある。首に跡があった。首を絞められたような。

 シュカは治癒魔法を展開する。魔法の反応から、イツカが魔力切れで気絶したのだと知った。


「……イツカさんは大丈夫、魔力切れのようです」


 シュカの治癒魔法を、シロは観察していた。

 イツカをシュカに預け、数歩下がっていたナナハに、キオンは声をかけた。


「さっきの鉱石」


「……返せ、なんて言われても困っちゃうよ、ぼく」


「あれ、俺にも繋がってるんです」


 キオンはナナハに見せつけるように、握った手を開いて見せる。塵となった鉱石だったものが滑り落ちていった。

 あの時“砕いて”、握らせた魔鉱石の片割れだとナナハは気付いた。ナナハはもう魔鉱石を持っていない。腕にあった、焼き切れた魔道具と同じ最後になった。


「足」


 キオンが短く言う。

 ナナハは表情を変えなかったが、その両脇に腕を差し込み持ち上げたのはケイだ。「ちょっと~!」とナナハより抗議の声が上がる。


「見てわからない負傷報告は早めにとあれほど」


「あとで、あとでみてもらおうと、だって、イツカくんの方が、」


「シュカさん、代わってもらっていいですか。俺、魔力補充なら出来ます。一番治癒魔法が必要なのはあちらです」


「ナナハさん!?いったい何があったって言うですか!」


「ちょっと魔力が……その…どろみたいになってる所に…足を……ずぼっと…」


 無理やりめくられ、さらけ出された両足は酷いものだった。皮膚が焼き爛れている。


「こんな足で、どうして今まで平気そうに……!」


 シュカは展開した治癒魔法にさらなる魔力を込める。

 そして、イツカは。

 ナナハより長くそのような環境に身をおいたはずであるのに、主な症状は魔力切れだ。

 キオンはイツカの手首を掴んだ、自身の魔力を、他者へ馴染むよう変換し、接触点から流し込む。これも治癒魔法の一種だ。


「この人、すごいね。浴びてるし飲んでる、のに、異常が全くない」


「魔力をどんどん吸収してくれるから、どれだけ入るか試したくなる」


 シロが興味深げに言う。キオンも同意し、二人でイツカを観察していた。――首の跡が気になる。少し焼けているようにも見えた。


「イツカくん、首を絞められてた。死体に」


 シュカによる治癒を受けながら、ナナハが言う。


「今日報告にあった、行方不明の人だった。――ねぇ、キオンさん、シロさん。死体が動く魔法ってあるの?」


「心当たりはあります。でも、使ったことがないので、俺たちからはなんとも、」


「そう……わかった。それで、イツカくんの方はどう?」


「目覚めてもいいぐらいには魔力も戻っていると思います。ただ底が見えないので、吸収が止まるまで自由に魔力を持っていってもらっている所で」


「いやいやいや、起こそう、起こすぞ。もう魔力はいいから」


 こわいこわい、そう呟きながら、ケイはイツカの頬をぺちぺちと叩いた。

 起きない。――いや、起こす。ケイはイツカの胸ぐらを掴み、激しく揺らし出した。


「イツカ。イツカ・シュシュ。起きろ」


「…………!」


 ぐわんぐわんと揺らされ、ついにイツカは目覚める。

 自分を揺らしているのがケイであると確認し、揺れながらナナハの存在を確認し、シュカを見、


「き、き、君たちは、あの時の、」


 視たことのある顔を二つ、見た。視た時と同じように会釈され、イツカは苦虫を噛み潰したかのような顔になる。


「キオンさんとシロさん。協力者です」


 シュカの紹介を挟まれる。

 実際目の前にすると、とイツカは内心怯んでいた。

 何を視ているかわからない赤い瞳は、闇の向こうが知れず怯えてしまうような、わからないからこその怖さがあった。


「イツカ、気分はどうだ」


「気持ち的な意味でなら悪いが、体調の意味なら絶好調だ。もしやシュカさんから魔力の譲渡を、……いや、この量は、まさか」


 ケイはこちらです、というように手で指し示し、ナナハとシュカは頷き、シロは隣を示して、キオンは「どうも」と笑った。


「ご所望なら、もっと持っていっても構いませんが」


「遠慮させて頂く。……しかし、感謝する。おかげさまで、“今日使った分は全部戻った”」


 イツカのその言葉に、全部、とケイ、ナナハはどん引いたが、口を挟まない自制心はあった。

 イツカが目覚めた今、状況の打破は可能となる。


「それは良かった。では、お願いがあります。空間把握魔法と座標(アンカー)の全体共有を頼みたい」


 負傷者の発見と、救助のための位置共有を求めている、それはわかっていた。平時の状況なら請け負っただろう。

 しかし、とイツカは目を伏せる。あまりにも周囲の魔力濃度が高すぎる。自分の練度では視ることもアンカーを下ろすことも難しい。


「すまない、さすがの僕でもこの魔力濃度で目を利かせる自信はない。共有も通信回線に乗せている、お互いが繋がることも難しい」


「魔力濃度についてはこちらでなんとかします。やってください」


「君は、まるで僕が出来ることを知っているように言う。こちらはまだ、城壁を囲う壁の説明すらないんだぞ」


「言わなくても見てわかるじゃないですか、あなたは」


 顔に出やすいイツカである。嫌そうな、正直すぎる表情変化に、赤い瞳は笑った。

 ケイの手を借りつつ立ち上がったイツカは、「いいだろう、やるぞ」と覚悟を決めたようだ。


「だが、あまり僕を驚かせることをするなよ、吃驚した僕は、天才にあるまじきポンコツっぷりを発揮するからな」


「イツカくん……そんな自虐を言うぐらい気にして……」

「滅茶苦茶大きい音がするらしいぞ。耐えてくれ」

「イツカさん!応援してます!頑張ってください!」


 くすりと笑うのはシロだ、笑いながら、その容貌が変化する。瞳、その瞳孔が縦に伸び、肌には鱗が、頭には対の角、現れた長い尻尾はゆらりと揺れていた。


「シロ」


 キオンは白い竜族の、その喉に触れた。シロは話さない。頷き――開かれた両翼で羽ばたいた。白が赤を散らし、空へと登る。


「これより、三分。準備を」


 キオンが口にした瞬間――咆哮が轟いた。

 空から音の圧が押し寄せる。シュカはビリビリと世界が震えているように感じた。そして、周囲を染めていた赤が薄まるのを、見た。


「今」


 キオンの口がそう動いたのを合図に、イツカは空間把握魔法を展開。その目が淡く光り出す。


「……は、三分、三分だと、領主城の広さをなんだと思っている。そんな短時間で地下と地上の個人全て発見し、座標(アンカー)を下ろすなど」


「出来ますよね」


「無論、二分でやってみせる」


 口角を上げ答えたイツカに、まるで最初から側にいたかのように、自然に近付いたキオンは、


「いいえ。あなたは、“もっと速い”」


 イツカの目を隠すように、手をかざした。

 目に魔力を流し込まれた、と認識すると同時に、イツカは己の視界が広がるのを感じた。遠く遠く、滑るように、どこまでも行けるよう後押しされているような。


「っ、妙な、真似を……!」


 イツカの、空間把握魔法の発動により曇ってしまった本来の目としての視界、揺らめく魔力を手に、キオンが離れるのが映った。ほらね、と口が動く。


 空間把握魔法は波状に広げた魔力に自身の意識を魂の一部を乗せ、遠視する魔法だ。

 そしてアンカーとは、最も根元に近い己の魔力を対象に刺すこと。

 実体のないそれは攻撃性のない代わりに、術者にしか消せず、己の魔力だからこそ他者に変質させられることもない。アンカーがある限り、位置は常に術者に把握され――他者への共有すら、出来てしまう。


 例え戯れでも、イツカがキオンにアンカーを刺そうとすれば、そのアンカーはキオンによって、刺される前に砕かれるだろう。

 アンカーを刺されるということは、全ての攻撃魔法がその座標(アンカー)に設定が可能になるということ。

 隠れることもできず、避けることも出来ない。防ぐしかなくなるのだ、――術者がアンカーを消すか、術者本人が死ぬまで。


「……よし、よし、完了した。いくぞ!」


 イツカが叫ぶように言う。気付けば咆哮は止んでいた。まだ赤い靄は散らされたままだ。


「こちら第三部隊四班イツカ・シュシュ!これより要救助者の位置を共有する!」


 イツカは、城内にいる全ての兵の通信回線に視覚共有をねじこんだ。一瞬目眩をさせるそれは、すぐに座標(アンカー)として視界に残る。

 ケイ、ナナハの視界にも、城内に映る多数の、黄色のアンカーが映った。



『救助者は全て庭園へ集めろ。花の魔法生物がいる場所だ。おそらくそこが最も魔力濃度を平時で維持出来ている。イツカ、座標(アンカー)を追加で下ろせるか』



「了解。下ろします」


 イツカの通信に割って入った声は、領主城にいないはずの人物だ。第三部隊隊長、バルド・ガルド。

 空間把握魔法を使っていたイツカは、その存在を見つけ驚いた。おまけに、領主城を囲む障壁に隔たれた向こうには、不機嫌さを隠さないエリーゼもいた。


「通信はもうすぐ断絶します。魔物の出現に各自注意を。早急に対処をお願いします」


『だそうだ。総員、行動開始!気合い入れていくぞ。どうやら我々には、空に謎の味方もいるようだしな』


 その謎の味方ことシロは今、地上にその身を移していた。竜族の特徴を封じ、キオンの側にある。


「シロさん、あなたは竜族だったんですね……!」


 そう言うシュカに、シロは困ったように笑い、そうだ、と言うようにも、隠しててごめん、と取れるようにも、曖昧な頷き方をした。その行動にイツカは気付く。


「喉をやられているのか」


「シロはしばらく話せません。ですが、じきに回復します。問題はありません」


 治癒魔法はいらない、暗にキオンはそう言っていた。シロも大丈夫、というように、にこりと笑う。


「じゃあ、僕たちは救助に行くね。シュカさんも、出来ればアリアちゃんのところにいてほしいんだけど、どうしよっか」


「わかりました。では、キオンさんとシロさんは――」


「この二人は僕が隊長の元へ連れていく。バルド隊長から呼び出しだ、噂の二人組を連れてくるようにと。――傍受しているんだから、知っているよな?」


 やっと、少しだけ驚いたようにキオンが目を揺らがせた。

 顔に出やすいイツカは、しっかりと、そのしてやったり、の思いを全面に出している。


「イツカくん、ドヤ顔してる」

「なんか色々悔しかったんだろうな……」


「うるさいうるさい。十分に気をつけて行け。後に合流しよう」


 周囲は徐々に赤く色付こうとしていた。非戦闘員であるシュカは、ナナハたちに連れられ、庭園にて負傷者の治癒を行うという。

 ナナハの足を治した腕を考えると、救助者を集める庭園にいてもらう方が最適解だとキオンも納得していた。それに、大人数の中にいてくれた方が安全に思える。


「キオンさん、シロさん、また!気をつけて下さいね!」


「シュカさんも。無事に、また」


 シュカを連れ駆けていく姿を見送り、残されたのはキオンとシロ、そしてイツカだ。


「いくぞ。こっちだ」


「座標は?」


 そう聞かれ、イツカは無言で座標をキオンに投げる。キオンを呼んでいるというバルドがいるのは、領主城に併設された隊舎と城下を繋ぐ道周辺らしい。


「付近に救助者は無しのようで。これなら、他の方々に任せてもいいようですね」


 その発言は、座標(アンカー)の視覚共有を含め、キオンが傍受したことを示していた。もちろん、キオンは通信回線を繋げたこともない相手。


「この座標(アンカー)は、必ず、しばらく後、間違いなく、消すからな……」


「そうしてください。まぁ、不正に利用はしませんよ」


 悔しげに唸るイツカ、その正直さに、二人は好感を持っていた。







 ×××××







 これは、事が起きる前の話だ。

 第三部隊隊長バルド・ガルドは、睡眠時間が短い。しかし、一度でも寝るとそれこそ、てこでも起きない。繋がらない通信魔法が耳元で弾けようが、起きない。

 ゆえに、バルドの自室に乗り込む者がいた。

 隊長職になってもそれは同じで、今まさに一人、ベッドの側には目覚めを待つ者がいる。


 バルドの目覚めは良い。今日も今日とて目覚めと同時に意識は覚醒し、見知った気配に眉をひそめる。


「なんだエリーゼ、これまた久々に乗り込んできたな」


「起きなさいバルド。話があるわ」


 エリーゼ・メリノ。バルドにとって、数少ない、生き残っている昔馴染みの友人である。

 その、乗り込んでくる際の、いつもの位置にエリーゼがいるのを見て、バルドは無意識に部屋の隅を見た。

 誰もいない。いるはずがない。エリーゼと同じく部屋に乗り込み、その場所で目覚めを待っていた男は、二年前に死んでいる。

 いまだに残る自身の癖にバルドはため息をついた。見ていたエリーゼも、その行為の意味に気づき舌打ちする。


「おしとやかな庭師のお姉さんが舌打ちするんじゃないよ」


「今この時は庭師を休業中よ。――私、ミラの部屋に行ってきたわ」


「そうか、珍しいな。……あいつが死んでから、ほとんど近付かなかったってのに」


「あなたもでしょ」


 ミラという男がいた。

 バルド、エリーゼにとっては、フォスクロード常備軍の兵として、新人だった頃からの腐れ縁。

 奇怪で突飛な行動をとるミラと、ミラに賛同したりしなかったりの短気なエリーゼ。そのブレーキ役として二人の側にいたバルドは、配属が分かれても尚、同じ役目のために第一部隊に呼び出され続けていた。

 お互いが第三部隊隊長、第一部隊隊長・副隊長の座についても、その仲は変わらなかった。

 忙しい立場であっても連絡を取り合い、近況の報告と新兵の相談をしあっていた。ミラが死ぬまでは。


 ミラに家族はいない、姓も名乗らず、故郷を語ることもなかった。ミラの自室の鍵は、ミラが残した遺書により、エリーゼとバルドの手にある。

 しかしこの二年、部屋が開かれることはなかった。


 何も言わず魔王討伐へ出かけ死んだミラを、二人は許していなかった。そんな“くそ野郎”の部屋に、エリーゼは入ったと言う。遺品を燃やした報告だろうか、とバルドは勘ぐってしまった。


「これ、開けて」


 ベッドから出たバルドが、隊服の上着を羽織った所で、エリーゼが本題だと取り出したのは、使い込まれた手帳だった。

 明らかに封じられている。エリーゼが持ってきたのだから、十中八九ミラの手記だろう。亡き友人の手記を無理やり開けて読む趣味はなかった。


「この封は二重よ。一つは私の魔力で、触るだけで簡単に解けたわ。もう一つは――あなた以外に誰がいるってのよ、バルド」


「……腹立つな、わざわざ二人で読めと言ってるみたいで」


「燃やさなかった私をほめてほしい」


「えらい」


「ありがとう」


 投げ渡された手帳が、バルドの手に落ちる。触れた瞬間、封は解けた。風もないのに手帳はぱらぱらとめくれ、――その声は、二人にとって、久しぶりに聞くものだった。


『あー、あー、テスト。“この手記はキーワード制となっています。音声を魔力にのせて検索してね!”』


「よし、燃やしましょう」


『やめてくれよエリーゼ。燃やさないでくれって。これを見付けたってことは、何か調べにきたってことだろ?』


 まるでそこにミラがいるかのようだ。生前そのままの喋りは、悲しみを通り越し腹立たしさの方が勝る。


『積もる話は山ほどあるけど、……弁明と言い訳と謝罪は沢山登録したし、とりあえず、何かが起きてる、または起きそうなあれそれを解決してからにしてほしいな~、って』


「はー、まったく、お前は。死んだ後も面倒なことを」


「遊び心があっていいだろ?バルド」


 ――もう聞くことは無い声で名前を呼ばれるってのは、こうも。


 バルドは目を細め、またため息をつき、「それで?」とエリーゼにきいた。


「何か変に思ったことがあって、こいつを発掘してきた。俺は見ての通りだ、この数時間のことは何も知らん。話してくれ」


 エリーゼ曰く。

 領主城に二人の若い客が来た。ジュードの知り合いであると言い、ジュードの死を知らず会いに来た。

 その二人は、アリーズでリベル、アレク、ヴィオ、シズと出会い、好意的にされたようだ。しかし、ジュードの死を伏せられ、シズの妹シュカにより真実は明かされている。


 エリーゼは第一部隊副隊長だった。アリーズの四人は――確かに悪戯をする者はいるが、人の死をその対象にする者たちでないと知っている。

 そして、客の二人はミラの名前を知っていて、エリーゼからの通信は、アリーズの四人へ、誰一人として繋がらない。


「リベルにアレク、シズにヴィオ。アリーズの天才どもは、特に、ミラのやつのお気に入りだったからな。何か吹き込まれてるぞ、これは」


「報連相の概念が薄いところまであのバカに倣わなくてもいいのに」


『なになに?リベルたち、いないの?』


「会話みたいに入ってくるなよ、……くそ、頭がおかしくなりそうだ」


『まぁまぁ、それで、いないの?四人そろって?』


「四人そろって休暇をとって、今は通信すら繋がらないわ」


「魔力濃度はどうだ?異常に濃くなってないか?ここは領主城か?違うなら早急に戻ってほしい」


「……なに、どういうこと?」


 これがキーワードか、とバルド、エリーゼは理解した。

 ミラの手記は、ページこそめくれるものの、どのページも無地だった。それが今、文字を浮き出させている。同時に、ミラの声で淡々と読み上げていた。



『魔法回廊。リベル、アレク、シズ、ヴィオ。この魔法については、四人だけに話した。

 魔法回廊は、遠隔地を繋げる魔法だ。

 無防備な転移先を狙われたら一発アウトな空間転移とは違い、位置が完全に固定されているから、安全に、そして素早く大人数で移動できる。


 お、いい魔法じゃん?って思った?でも違うんだよな。開通させる時の被害がすごいんだこれ。


 さて、世界には裏側がある。

 裏側ってなに?なんて話になると神話の話になるから今回は置いておいて。

 魔法回廊の繋げ方だ。まず、繋ぐ場所を決める。ここだと決めたところから、終点まで、“裏側に手を伸ばして”、道を作るんだ。採掘場のように、掘って道を固めて、掘って道を固めての繰り返し。


 でも、裏側は魔力しかない世界だ。掘った魔力を捨てる所なんてない。だから圧縮して起爆剤にする。

 裏側なんてほとんど知る機会がないぐらい、こちらとあちらの壁は分厚い。壊すには相応量の魔力が必要だ。

 その魔力も、掘った時に圧縮した魔力で事足りる。物足りないなとあれば、魔力なんて、増やすに関してなら簡単だろ?


 そして魔法回廊開通式だ。

 両側から刺激を一つ。別に同時でなくても良い。どちらも小さな穴一つを開けることさえ出来れば、どかん!だ。

 中に貯まっていた魔力が空間の壁を吹き飛ばして、道は完成。空間の壁が吹き飛ぶような爆発だから――例えるなら、そうだな。

 領主城は無くなる。巻き込まれた人も死ぬ。

 爆心地その周辺はしばらく、ほとんど誰も暮らせないような魔力濃度になる。


 例えば、なんて言ったけど、実は、その魔法回廊の始点、終点のどちらかが、この領主城のどこかにある。


 困ったことに、俺でも探せない。領主城の端から端まで未来視すりゃ見つかるだろうけど、あれは俺の記憶が対価だからさ。さすがに試行回数多すぎて、目的すら忘れてしまう』



 ミラという男は、未来視を可能とする魔法を使った。

 未来視は個人ではなく、その場所の未来を視るもの。バルドとエリーゼは知っていた、その対価が術者の記憶であることも、また。

 立場もあり忙しくあっても、三人が定期的に集まり、必ず、同じ店、同じ席で酒を飲んでいたのはこのためだった。

 誰かに何かがあればわかりやすい、そう本人が言うから付き合っていたことであるのに、自分の件を言わなかったことに対しては、怒りしかない。



『さて、話を戻そう。俺が何故四人に話したかだ。おそらく、アレクになら視える。あいつの空間把握の精度は、怖いことにまだ伸び代があるんだ。おそらく、放置された魔法回廊内部に、ぱんぱんに貯まった魔力の不自然な流れを見切るまでになる。

 四人そろって連絡が取れないのなら、魔法回廊に何らかの動きがあるのかもしれない。


 ってことで、気を付けてくれ、片方だけなら穴が空いても――まぁ爆発するし魔力濃度はばか上がりして致死の濃さにはなるだろうけど、城が吹き飛ぶような爆発はしない。なんとかなる』



 気を付けてくれ、の話ではない。

 何故話したかの理由になっていない。


「ミラ、あなた、お前、なぜ、四人だけに話した。私とバルドは知らない、誰も知らない。お前まさか、」


 エリーゼの魔力に反応したのか、元々その設定だったのか、ミラは続ける。



『向こう側にはきっと、四人がいる。あの四人なら、片側から魔法回廊を自壊させられる。


 その方が、“人的被害が最も少ない”』



「このっ、くそ野郎!!!」


 察しのついたエリーゼが吐き捨てるように言う。

 今すぐ遺品ごと全てを燃やし尽くしてやりたい。だが、この手記にはまだ情報がある。


「最悪だぞお前、本当に、」


 バルドの言葉に手記は少しだけ黙り、『知ってる』と答えた。







 






  


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